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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
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ガンツェンミュラー復帰

「暗殺犯である私を連れてきてどうするのですか?」


 大臣室に連れてこられたガンツェンミュラーは尋ねた。

 最初こそ手錠が付けられていたが、テルの命令で外されている。

 暗殺犯と言うことで警護の警官はいい顔をしていないが、勇者としての能力は無くともテルは優秀な軍人であり一般人であるガンツェンミュラー程度は素手で制圧できる位には訓練しているし実力がある。

 万が一に備えて軍務省との折衝を終えたオスカーも傍らで待機していた。

 だから何の心配も無かった。


「簡単に言えば、今の混乱を鎮めるために、鉄道を再開する必要があります。そのために貴方の力が必要なのです」

「テレポーターなどというジャネットが作った怪しいアイテムを使うからです。いくら、妹君が関わっているからと言って、身びいきが過ぎるのでは」

「全く以て、その通りです」


 テルは素直に罪を認めた。


「ですから、後始末をしなければならない。そのために力を貸して欲しいのです」

「事実上、鉄道再開の現場責任者にしようと言うのでしょう」

「ありたいていに言えば、そうなります」


 あっけらかんと言うテルにガンツェンミュラーは、驚きで目が点になった。


「私はミスをしたが、そのミスを最小限の被害に収め、復旧の道筋を、少なくとも今後の方針を立てて実行できるくらいにはしておきたい」

「責任を取って辞任しないのですか?」

「混乱の最中に、全てを放り捨てて逃げる方が、問題だよ。せめて、混乱を収束させて後任に引き継げる状態にしないと」

「今後の計画まで立てて、後任が自由に動ける余地を奪おうというのですか?」

「何の信念も信条も持たず、代案も出せず他人の計画に乗っかるしかないような人間が立てる計画なんて禄でもないよ。優れているというのなら、前任者が立てた計画を上回る計画を立てて実行すれば良い。前任者の立てた計画など放り捨てれば良い」

「今回、鉄道を私が復旧、いえ復興させたとしても、再びテレポーター計画を再開させ鉄道を廃止なさるのでしょう」

「優れたインフラに切り替え帝国の利益を増大させるのは、帝国の大臣として当然のことだ」


 テルは言い切った。


「後々廃止する鉄道の復旧を行えと言うことですか? なかなか酷なことでしょう」

「普通の事だよ」

「そうでしょうか?」

「鉄道でも日常的に行っている事だ。蒸気機関車をはじめとする、旧式の車両を廃止、解体するのと同じだ」

「しかしあれは、安全のため、経営の効率化のためです」


 旧式の車両はどうしても維持費が掛かる。新型になるほど整備性や長寿命、メンテナンスフリーを考えているため、経費が低減されている。

 古いほど、支援態勢が劣化していき、余計な費用が掛かる。

 安全面でも無視できない。

 いくら頑丈でも徐々に古くなって見えない劣化が起こり何時致命的な故障や破断が起きるかもしれない。

 安全な運転は鉄道の至上命題であり、何にも代えがたい。

 事故が起きる前に廃車にするのも手段の一つだった。


「鉄道にとっての車両と同じように帝国にとっては鉄道も、車両と同じく道具であり、古くなったら交換する。それだけのことだ」

「いずれなくなる物に、全力を尽くすとお思いで?」

「ああ」

「何故?」

「ガンツェンミュラーだからだ」

「何が分かるというのですか?」

「誰よりも、もしかしたら私以上に鉄道が好きだと確信しているからだ」


 テルはまっすぐガンツェンミュラーを見て言った。


「鉄道に関する仕事なら、確実にガンツェンミュラーは実行してくれる。私は確信している。例え、鉄道がいずれ廃止になる運命だとしても、目の前に鉄道の仕事があるなら、やらずにはいられない。そういう人間だと確信している」

「……私は貴方の父上を殺しました」

「鉄道のためでしょう。その方向性は間違っていたが、鉄道への情熱は本物だ。そして貴方には知識と経験、実績、才能がある。貴方なら、今の鉄道の混乱を解決するのに相応しく、尽力してくれる人材は他にいないと思っている。貴方が父を殺した犯人というのは些細な問題だ」


 テルは静かに言った。

 殆ど家に帰らずにいたため父親失格かもしれない昭弥だが、テルに鉄道を教え、曲がりなりにも大臣、それもお飾りではなく、実務をこなせるのは父親がいてこそだ。


「周囲が反発しませんか?」

「民主主義の国だが、皇帝専制の国でもある。押し通しますよ。それに最初だけです。圧倒的な実績を立てれば誰も文句を言わない」

「出来ると思うのですか?」

「ガンツェンミュラー以上に出来る人間など知らない。つまり誰がやっても出来ないということだし、誰も文句は言えないでしょう。横暴と言われても実績が肯定する。権力はどのように獲得したかではなく、活用するかだ。貴方が存分に働けば誰も成し遂げられない成果を上げられる。だから周囲の戯言など聞こえないね」

「それでも断ったら?」

「私は大臣です。出来ないと言われたら、次善の策を実行するだけ。ただ最善策より、時間も手間も掛かります。何より鉄道が不十分な活用しか出来ません。それは非常に困る。是非とも貴方には、復帰して貰いたい」

「……相変わらず、あなた方親子は非常識ですね」

「鉄道に関しては?」

「ええ、鉄道に関しては、いや、あなたは鉄道以外にも同じような情熱を注ぐので、お父様以上だ」


 ガンツェンミュラーは、心底おかしそうな笑みを浮かべて答えた。


「ガンツェンミュラー、ただいまより、大臣の指示に従います」

「ありがとうございます」


続きは


https://kakuyomu.jp/works/16816452220020846894/episodes/16816700428368570770


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