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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
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テレポーターの事故対応

 テレポーターのセキュリティを突破するマジックアイテムが作られたという話に全員が怒っていた。

 しかも作ったのはテレポーターの開発者の一人であるジャネットだ。

 特に帝国の最高統治者であり、発展に心を砕いているユリアは、帝国の将来に役に立つはずのテレポーターの悪用に怒り心頭だった。


「どうしてそんな物があっという間に作られるのですか?」

「元々、テレポーターには万が一の故障や使用者がロックの解除方法を忘れた時に備えてバックドア、制作者が正規の手順を踏まずフリーパスで入れる裏口を作っていたのです。ジャネットはそれを悪用していました」


 地球のインターネットなどでも、パソコンがフリーズしたりパスワード忘れをした利用者の為に、販売会社が正規のパスワード入力を経ずに製品に入れるようバックドアが設定されている。

 そこからハッキングを行われることもあり、ジャネットは似たような手口で侵入していた。


「何故ジャネットは、このようなことを」


 犯人がジャネットと知り、怒気を含んだうなり声を出しながらユリアが尋ねるとスコルツェニーが答えた。


「ジャネット魔術師曰く、国が私に渡す研究費足りねえから、との事です」


 一瞬ユリアの視線が怒気と共にスコルツェニーに向けられ、スコルツェニーはショック死寸前となる。

 だが、ジャネットの言動の報告である事をユリアは思い出し、謝罪した後、スコルツェニーに報告を促した。


「失礼しました。ジャネットはテレポーターの特許料で膨大な資金を得ていましたし、承認した研究には国から九割の補助金を出していましたよ」

「それでも研究には足りねえから、こうしてスポンサーを見つけて金を稼がねえと、しみったれで無理解なスポンサーが相手だと苦労するぜ、とか言っていたそうです」


 ジャネットの魔術にかける研究は凄い。

 だが、ジャネットの魔法は社会の実用に向かない研究が多すぎる。

 あと異様に危険な魔法を作りたがる。

 大規模破壊魔法は勿論、気候変動魔法とか、異常な魔法を何故か作りたがる。

 しかも、やたらと魔力を使ったり大規模な施設を必要とする割に成果が乏しいのである。

 例えば人の力を十倍にパワーアップさせる魔法を開発したが、百人分の魔力を使うとかという事例が多い。

 しかも百人分の魔力が集中するため、掛けられた当人の肉体が持たない、などという欠点付きだ。

 そのため、研究費の支出は厳正な審査を行った上で出していたが、ジャネットは気に入らなくてテロ組織から資金を得ていたようだ。

 ジャネットには気をつけろと父親に言われていたが、テルはその言葉を改めて実感した。

 会議の空気はジャネットへの怒りで満ちていたが、その中で冷静なテルは、議論を進めようとした。


「とりあえず、ジャネット魔術師は指名手配して、生死を問わず確保しますが、残されたテレポーターをどうするか考える必要があります」


 ここまで被害を出したジャネットは、くびり殺さないと気が済まないが、発明されたテレポーターは残る。

 そのテレポーターをどのように扱うかが問題だった。


「具体的な方策はあるのですかテル? ……いえ、鉄道大臣」


 ユリアに尋ねられたテルは、自分の案を話し始めた。


「当面の間、テレポーターの使用を全面禁止します。一通りの対応策の目処が付くまで使用は止めましょう。当面の間は政府による研究と実験のみにします」

「禁呪指定にしないのですか?」


 世の中へ悪影響が多大な魔法は、危険が大きいため使用禁止にする習慣が古よりある。

 テレポーターを禁呪指定して全面的に使用不能にすれば被害は収まるのでは無いか、とユリアは尋ねた。

 だがテルは首を振って否定した。


「残念ながらテレポーターは世の中に広がっています。禁止しても各所で使用されるでしょう」


 古代では魔法の使用が禁止されたことがあったが生き残った。

 テレポーターの技術は既に公開されており誰でも使用できる。

 法で制限しても隠れて使用する人間を止めることは出来ない。

 今は一時的に悪用されている例が多発しているが、鉄道に代わって交通手段となったように有用な魔法である。

 これを破棄するなど出来ない。


「テレポーターが役に立つことは証明されています。悪用されたとき被害が多く目立っていますが、通常使用でもかなり便利に使えています」


 犯罪被害が多くて隠れているが、テレポーターの効用が大きいのは事実だった。

 何しろ鉄道の車両及び線路の維持費整備費がかからない。

 道路と比べても雲泥の差だった。

 有効活用すれば、これほど物流に絶大な恩恵をもたらす発明は無かった。


「犯罪の使用を防ぐ意味でもテレポーターの研究を続け、安全な仕様、運用法の確立を含め研究するべきです」


 もし禁止したとしても誰でも作れるのだから裏で使われ、犯罪に使われてしまう。

 帝国がえら得るはずだった利点も自ら放棄することになる。

 ならば安全に使えるように改良し普及させる方が良いとテルは考え進言した。


「……分かりました。それでテレポーターの安全策が完成するまでは、帝国の物流をどうするというのです?」

「やはり、既存のインフラを使用して、確保するしかありません。バックアップも含めて整えます」


 インフラとは一日たりとも途切れさせてはならない。

 いずれ廃止される運命にあっても、その日まで無事に稼働させる必要がある。

 交通インフラも同じで、停止したら国家とその国民の死を意味する。

 いずれ改良され人々に行き渡るテレポーターが出来るまで既存のインフラを活用するしかない。


「しかし、徐々に廃止している予定では?」

「まだ、稼働しています。廃止の予定を延期し、テレポーターに送る予定だった人員を元の配置に戻します。混乱は起きるでしょうが、一番確実な計画でしょう」

「分かりました。それで良いでしょう」


 反対意見はあったが、他に有用な代案は無いためテルの提案は了承された。


「では、この案件はテレポーターを進めていた鉄道大臣に任せます」


 そして、この問題を解決する担当大臣に任命されてしまった。


「勅命、お受けいたします」


 しかし、自分のミスであり、なんとしても挽回したかった。

 推進者であったために問題点も、何をすれば良いかも分かっている。

 他に適任者もいないためテルは引き受けた。


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