テルが背負うもの
「何をするんだ」
突然レイにキスされたテルは慌てて椅子を引いてレイから離れる。
「やはり疲れていますね」
片手を口に当て、感触を思い出すように舌を出して自分の唇をレイは舐めた。
「万全な状態ならテルはキスを避けていますよ」
ふしだらな事を、不敬なことをしたにもかかわらずレイは淡々と言う。
「そうだな」
レイの大胆不敵さに怒る気にもなれず、そして事実を指摘され、渋々テルは認めた。
「何が不安なんですか? 桜先生からの手紙程度で忠弥が、へこたれるとは思えませんから、他にもあると思うのですが」
「いや別に」
「嘘でしょう」
テルの嘘をレイは易々と見破った。
長年にわたりテルのそばに居るので考えている事は手に取るように分かるし、操る事も容易いレイにとってテルの嘘を見破るなど簡単だった。
「正直に答えてください。さもないと」
「人を呼ぶぞ」
機先を制してテルが言うが、その程度ではレイは怯みさえせず、堂々と言い返す。
「どうぞ、私が叫んでも良いですが。その場合、姉君妹君が殺到し、女性である私に襲われた。二度と襲われないように守ろう、という話になり一生監禁されるでしょうが」
「絶対に嫌だ」
過保護すぎる姉妹達は監禁しかねず、あり得る現実でありテルは嫌がって黙り込んだ。
「本気で鉄道を潰すつもりですか」
「そうだよ」
「しかし、テレポーターの運用会社を国鉄内に作ったのは、鉄道を守るためにしていたのでは」
「いや、鉄道のノウハウを使えば、テレポーターはすぐに普及するし、鉄道職員達の再就職も容易だから」
「建前と経営論は結構。本心は?」
「ないよ」
「では既成事実を作りましょう」
レイは淡々と言うとテルのズボンに手を掛けた。
なかなか本心を言わないテルを喋らせるため、レイはズボンに手を伸ばす。
「おい冗談でも」
「冗談は嫌いです」
真顔でレイは言う。
確かに普段、レイはテルが殺意が沸くほどテルを弄ってくるし、嘘も吐く。
テルを弄り困らせることに人生の楽しみを見いだしていると言っても過言でもない。
だが、冗談を言うことは殆ど無い。
言ったことは荒唐無稽でも実際に実行する。
「待て! 止めて!」
こんなところを姉妹に見られたら、シスコン気味で能力を暴走させがちなため、絶対に大事件を引き起こす。
何としても止めようとテルは、レイを抑えようとする。
だがレイの手つきの方が上のため、止められず、ベルトが外されてしまった。
更にその下の下着に手が伸び、いつの間にかレイのメイド服のエプロンと制服が脱げてレイが下着姿になると、さすがのテルも血の気が引き、慌てる。
「マジで止めろ!」
「なら正直に答えなさい」
レイの柔肌がテルの身体に触れてその柔らかさと暖かさに精神が蕩けそうになる。
そして、事後の後の姉妹によって起こされる惨状を一瞬で想像し、テルは叫ぶ。
「分かった! 止めて! あとで話すから」
「今すぐに」
「そ、それは」
レイの問いかけにテルは目を逸らす。
だが、その視線の先、テルの家族写真、兄弟姉妹全員が集合した写真に向けられているのを見てレイは悟った。
「妹君のためですか?」
レイが呟いた途端に昭弥は、大人しくなった。
答えを確信したレイは手を止め、テルを解放し、改めて尋ねる。
「妹君に余計な重荷を背負わせたくないのですね」
「……うん」
レイはテルが話し始めたのを確認すると話を聞く態勢を整えるため自分のメイド服を直す。
テルもズボンをはき直し、服装を整え直すと話し始めた。
「帝国をここまで発展させた父さんの鉄道でさえ、今までに幾多の重大事故を起こして多くの人に犠牲を強いてきた」
延べ旅客数や貨物輸送量に比べれば非常に小さい数値だがそれでも三桁以上の死傷者を毎年出している。
「そして事故が起きれば被害者、時に犠牲者が生まれる。そして怨まれる」
当然被害者とその家族、遺族からは鉄道が恨まれる。
幾度も重大事故の現場に立ち、大臣として事故の後処理対応してきたテルは身にしみて実感している。
「今のところ完全無欠なテレポーターだけど、いつかは想定外の事故が起きるよ。その時は当然、運用している、あるいは作り出した人間が怨まれることになるよ」
例え一億回に一回の事故でも百億回利用すれば百回は事故が起きる。
その時、死傷者が出ない保証はない。
「割合的には非常に小さくても、事故の当事者にとって事故を起こした代物は悪魔であり、関わる人間、特に発明者はあくまであり、恨みの対象。被害者やその家族の怨嗟が集中するんだ。そんな重荷を妹たちに背負わせたくないよ」
普段色々と迷惑を掛けてくるし、危うく月に大砲で撃ち込まれ掛けた事もあるが、大切な妹であり、幸せになって欲しいというのがテルの偽りのない願いだ。
「だから自ら推し進めるのですか? 現れるかもしれない事故の被害者の恨みを一身に受けるために」
「うん」
テルは小さく頷いた。
「そんな割に合わないこと止めたらどうですか?」
「この技術は、今後帝国の根幹になるだろう。いずれ、帝国中に広がる。なら、今制御できる内に広めた方が良い」
「他人にやらせたらどうです」
「まだ分からないけど、どこか欠陥があるように思える。もし、事故が起こったら僕が一手に引き受ける」
「世間では妹君の手柄を横取りしたと言っておりますが」
「構わないよ。事故が起きたときのように潰されるような柔な精神じゃない。そんな他人の嫉妬ぐらい平気だよ」
共同開発者のジャネットは私の装置は完璧だと豪語しているが、信用していない。
多くの人が使う技術であり、人が作った以上、完璧は無く、事故は起こりえる。
「これから出てくるであろう被害者が出たとき、生まれる恨みや怨嗟は、僕が全てに引き受けるよ。それが僕の覚悟であり、決意だ」
テルの言葉を聞いてレイは離れると、頭を下げて神妙に言った。
「お覚悟を確認しました我が主。このレイ・ラザフォード、全身全霊を持って支えさせていただきます」
今までに無いレイの態度に昭弥は戸惑った。
レイの礼儀作法は完璧だが、何処か演技、心のこもっていない表面だけの動作だった。
だが今のレイは本心から言っているように思えた。
「ありがとうレイ」
そのとき卓上のテレポーターが開いた。
出てきたのは大量のエロ本だった。
続きは
https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700428171342647
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