鉄道の手仕舞い
昭弥が現れ、テルの決定を受け入れるとの言葉により、テルの進めるテレポーター計画は、加速していった。
大臣暗殺未遂、昭弥暗殺事件を起こしたリシェコリーヌなどの一派は反逆罪に問われ労働組合や組織の幹部の大半が逮捕され壊滅。
テレポーター反対派の大半が消滅し、テレポーターの普及は急速に進んだ。
各地の駅にテレポーターが設置され徐々に鉄道からテレポーターへ移行していった。
軍の協力もあった。
近代化を果たし、装備が重量化した軍は輸送の殆どを鉄道に頼っている。
しかし、それでも準備を含め移動に数日かかる。
かつては月単位、年単位で遠征を行っていたことを考えれば、帝国の端から端まで最新の数十トンの中戦車を含む戦闘団が移動できるのは驚異的だ。
だが、テレポーターはその移動時間さえ僅か数秒、通り抜ける時間と順番のみを考えれば良いようになってしまった。
先日起きた反乱事件では派遣に数日かかると考えられた軍の移動がテレポーターのある近隣の基地へ二万人の師団が装備を含めて移動するのに僅か三時間で終え、迅速に反乱部隊を包囲、攻撃して殲滅した。
この成果に軍は大喜びして主要な基地にテレポーターを設置する決定を行い設置が進んでいる。
鉄道省のテレポーター設置も協力的であり、計画は進んでいた。
テレポーターの数が増えるに従い一般にも普及していった。
輸送だけで無く新たな試みが行われるようになった。
現在、水力発電部門が中心となり海底からテレポーターで海水を発電所に導き水圧で水車を回す発電所の運転が試験を迎えようとしていた。
帝国は更に変わろうとしていた。
そのテレポーター計画の中心人物であるテルの周りも確実に変化していた。
机の一角に置かれたあ台座が光り出し文様が浮かび上がったかと思うと、光が溢れ、一枚の紙が現れた。
その紙をテルは手に取り目を通す。
「計画は順調に進んでいるか」
水力発電所の計画の進行状況を伝えたものだった。
間もなくテレポーターを使い試験運転を行う予定だ。
目を通している間に新たな報告書が出てきてそれにも目を通す。
「列車の廃止と、線路の教育用への転用についての報告書ですか」
メイド服姿のレイが後ろから報告書を読んで言う。
「ゲートに移行するくせ鉄道を残していますね」
「バックアップを用意しておくのは当然だろう」
テレポーターは、素晴らしいが、新しい技術であり、どんな不具合があるか分からない。
万が一テレポーターが使えなくなった時に備えて、バックアップとして鉄道を用意していた。
しかし鉄道は膨大な維持費がかかる。何とかして維持費用を出せないかテルは考えた。
観光鉄道は既にやっていたが、まだまだ足りない。
そこで考えたのが教育用の教材としての鉄道だ。
巨大な鉄道を動かすには様々な知識と経験が必要だ。
実地で体験する生きた教材として鉄道を残そうという取り組みだ。
部品を一つ一つ機能を理解し、適切に組み立て検査し組み込む。何か一つ見落としても鉄道は動かないし、大事故に繋がる。
だがそれが技術の根幹であり、現実だ。
一つ一つの部品の正しい知識と使い方を覚え確実に組み立てていくことがあ技術だ。
それを体験的に教える教材として鉄道は最適だとテルは考えていた。
鉄道学園時代、鉄道車両を支援を受けたとは言え、一両組み上げ走らせたときの感動をテルは今でも覚えている。
多くの子供達に同じような感動を得て欲しいし、帝国の財産になると考えている。
しかし、実行するには様々な問題点があり、解決しなければならない。
テレポーターの利用料だけでは足りないし、安全性や事故が起きたときの対応や補償を考えないといけない。
テルにはやることが沢山あった。
「お疲れのようですねテル」
テルの疲れを気遣ってレイが労いの言葉を掛ける。
「そんな事無いよ」
「血涙が流れていますが」
「ああ、吉野桜先生から手紙が来てね。仕事前に読んだ文面を思い出して」
学園時代、電車の運転の仕方を教えてくれた教官の人で、今は現役の運転士に復帰している。
「どうしたんですか?」
「テレポーターのおかげで列車の本数が少なくなり、運転士としての仕事が無くなって、元の郵政部門に戻されそうだ、と呪詛の言葉が並べられてて、ごふっ」
吐血したテルにレイは駆け寄りハンカチで口を拭く。
「ああ、ありがとう」
「恩師から呪詛のような手紙を受け取れば、心労も重なるでしょう、しかし、テレポーターが開通して喜んでいる方も」
実際、テレポーターの運用開始で、便利になったという声は多く、感謝の手紙がテルの元に来ていた。
だが、その感謝の手紙の束の一番上にあった手紙は最悪だった。
ポーラ・ワトソンからの手紙で、大量の汚染物質を排出し、人々に長時間労働を強要する鉄道の廃止、人と環境に優しいテレポーターの普及を進める事に感謝いたします、と書かれていた。
これまで鉄道に身を捧げ、断腸の思いで決断したテルの心を踏みにじる文面だった。
よりによってこんな物を送ってきた上、一番上に置かれているのは、酷い冗談と言える。
レイは、不愉快極まりないポーラの代物をゴミ箱に入れて処分した。
桜からの手紙は取っておいた。
呪詛の言葉でも一言おう恩人であり、捨てたらテルが悲しむからだ。
「あー、ありがとう」
レイの介抱で気分が少し落ち着いたテルは仕事を続けようとする。
「少し休まれては?」
「大丈夫だって、えっ……」
テルの口が突如、接近してきたレイの口によって塞がれた。
続きは
https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700428170468064
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