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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
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テルの決断

 テルは鉄道よりテレポーターを選択した。

 明らかに鉄道よりテレポーターの方が優れているからだ。

 移動時間の掛かる鉄道と違って、テレポーターは目的地へ瞬時に移動できる。

 テレポーターに入らない大きな荷物――発電機やボイラー、変圧器など巨大な装置を鉄道が運ぶことはできる。

 だが、より大型のテレポーターが開発されたらその優位も失われる。

 そして貨物取り扱いの大半は、せいぜい段ボールより容積が小さい荷物が殆どのため、テレポーターで運べる。

 現状ではテレポーターの数と能力が限られており、主要駅に配備しているのみで、周辺の衛星都市などへ運び込むのに鉄道輸送が使われている。

 しかし、テレポーターの数が増えるゆけば鉄道は不要になるだろう。


「テレポーター普及し、物流が流れていけば、鉄道は輸送収入を失い、早晩赤字に転落するでしょう。その前にテレポーターに変え、鉄道は」


 一度言葉を切りテルは改めて断言した。


「赤字が累積し処理が出来なくなる前に縮小、廃止します」

「……鉄道は今のリグニアを作り上げたものです。それを簡単に無くすというのですか?」


ユリアは静かにテルに尋ねた。


「ええ。ですが、よりすぐれた方法が見つかった今、主役は移り変わります」


 ユリアはじっと、テルを見つめた。

 母としてではなく、昭弥の妻、愛する人として。昭弥の残した物を簡単に手放そうとしているのでは無いかと、値踏みしていた。

 しかし、まっすぐ見つめ返すテルの瞳を見てテルが本気である事を知った。


「……分かりました」


 テルの決意が、重い決断が分かると、ユリアは静かに何も言わず立ち去っていった。

 しかし、テルの言葉に憤慨しているのは間違いなかった。


「本気で鉄道からテレポーターへ移すのか?」


 取り残されたテルにオスカーは尋ねた。


「半分ね。やっぱり名残惜しいし、鉄道は残したいよ」

「なら」

「だが、テレポーターのほうが利便性が高く鉄道はいずれ減収してシステムを維持できなくなる。事故が頻発したり朽ちていく前に維持できるところまで縮小する」

「これだけの功績を鉄道は挙げたのにか?」


 鉄道によって帝国は発展した。

 今、テル達がいる帝国でも最大規模の大聖堂は鉄道による参拝客、観光客の増加によって建設できた。

 鉄道が帝国を繁栄させた証拠と言えた。


「だからだよ」

「何故」

「生前に父さんに言われたことがある。この世界に来る前、父の生まれた世界で学校に通っているころ、学校に通っていたときある授業で教師から聞いた話だ。その人は自動車会社出身で、その先輩技師の話」


 若い時、設計を任された技術者で、全身全霊で仕事に取り組みエンジンを作り上げた。

 そのエンジンは素晴らしく何十万台も作られた。

 だが、その時からその技術者は眠れなくなった。

 むしろ自分が作ったエンジンを積んだ車が売れるほど苦しくなった。

 もし、自分でも気がつかない欠陥があったとしたら、それが表になり回収することになったあ会社に損害を与えてしまう。

 それ以上にその欠陥で人の命を奪ってしまったら。

 そのような思いが日増しに増してゆき、眠れなくなってしまったのだ。

 昇進しても不安は拭えず、退職しても眠れなかった。

 ようやく、眠れるようになったのは自分の開発したエンジンを積んだ車が一台残らずこの世から消え去った時だった。


「技術者にとって、製品は息子、喜びでもあるが呪いでもあるんだよ。人々に使われることは嬉しい。だが社会に広まってそこで重大な事故を起こし、欠陥が判明することを恐れている。何より人のために作り出した自分の製品が人を傷つけることが許せないし、耐えられない。だが、人間は完璧ではない。自分の製品が何時、事故を起こすか四六時中不安で悩まされることになるんだ。一自動車でさえそうだ。父さんの場合は、更に規模が大きい」


 国家の中の国家、デファクスタンダード――事実上の標準規格、基本となった昭弥の策定した鉄道規格。

 そこに欠陥があれば昭弥の責任となる。

 己が死してもシステムは残り、後々にまで影響を及ぼす。


「死後も残る仕事だ。事故が起これば死後も人に怨まれる仕事さ。消え去って欲しいと思っていただろう」

「本当か? 昭弥様は何も言わずに去っていたぞ」

「面と向かって言うような父さんじゃなかったから。理解してくれる人もいなかったみたいだしね。僕には異母兄弟姉妹が多いだろう。それだけ多くの女性の支えが必要だったんだよ。父が行う仕事には。たとえリグニア皇帝でも支えるには力不足だった」


 昭弥の苦しみを支えられない母が嘆く姿を幾度見たことか。

 己一人で昭弥を支えきれる事ができず、力になれる他の女性の元へ行くのを見送ることしかできなかった。

 母であるユリアは昭弥の苦しみを知っているし、女王でありのりに皇帝となっても、自分が成し遂げられなかったこと国を繁栄させることを達成した恩人でもあった。

 そしてなお発展する、いや発展を要求されている鉄道には昭弥が必要だった。


「それだけ、鉄道というのは父にとって大事だったし、主にだった。重荷でも担ぎたくなる程好きなんだよ。だけど、死後も悩み続けている」


 リニアの台車交換を考えて伝えたとき、昭弥は息子の成長を喜ぶと共に、ほっとしていた。

 自分の責任が減った事を喜んでいるようだった。


「新しい道へ行くのが、父への供養さ」


 テルは、穏やかに言った。


「ああ、ガンツェンミュラーさん」


 床にへたり込んでいるガンツェンミュラーにテルは尋ねた。


「一つ良いですか?」


 テルはガンツェンミュラーに尋ねた。


「何故、国鉄が再統合してから自首しなかったのですか? リニアが完成して一応、国鉄の安定化は見通しが立ったでしょう。あの時点で自首するべきだったのでは?」

「確かにそうですね」

「では何故、しなかったのですか」

「貴方と仕事をするのが楽しかったからですよ。父君と同じかそれ以上の情熱で仕事に取り組み改善していくのを見て楽しかったんですよ。まだ一緒に仕事をしたい、本当に自己満足のためでした」

「もう少し続けてみませんか? 完全なフリーとは行きませんがテレポーターの設置計画には優秀な実行責任者がいるんですが」

「……お断りいたします。私は鉄道一筋でしたし、昭弥様を手に掛けたようなものです。このまま後の人生は罪を償うことに自分なりの方法でさせてください。それに、私のような骨董品が残っても未来を作る若い連中の邪魔になるでしょうし」


 済まなさそうにガンツェンミュラーは言うと警察官の元へ行き去って行った。


「残念だ。一人でも多くの人が欲しかったのに」

「でも自分の立てた計画を止める気は無いんだろう」

「もちろんさ」


 テルはオスカーの問いに応じ肩をすくめると、自分の戦場に向かうべく大聖堂を立ち去った。


続きは


https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700428120719554


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