昭弥再び現れる
「戻ってきたのか」
現れた昭弥は呟いた。
宙に浮き、体は半分透明で向こうが透けて見える。
突然現世に現れ自分の姿に戸惑っているようだった。
だが、やがてその状態を受け入れると、自分に注目している人々に目を向けた。
誰もが突然亡くなった昭弥が再び表れた姿に驚き、言葉に詰まる。
何を伝えようか迷っていると、昭弥は生前のように、誰を気にすることなく、周囲を見渡した。
「ガンツェンミュラー」
「だ、大臣」
周りにいた人物の中にガンツェンミュラーがいることに気がつき視線を向けた。
「お許しください大臣」
突然声を掛けられたガンツェンミュラーは恐怖とそれ以上に悔悟から頭を上げ、膝を地面について涙を流しながら謝罪した。
「私は、決してそのようなつもりは、大臣が殺されるとは思わず見殺しに……それだけでなく真相を話さず、また国鉄も守れず、ご子息にまで手を掛けようと」
「いや、君が生き残っていてくれて良かった」
「……え?」
思わぬ言葉にガンツェンミュラーは顔を上げた。
「リシェコリーヌなら君さえ殺しかねなかった。あの時点で国鉄を纏め上げられるのは君しかいなかったから、君が生き残ってくれて良かった」
「だ、大臣、ですが私は……」
「上手くいかなかったけど鉄道を守ってくれたんだろう。失敗なんて挑戦に付きものさ。失敗してもやり直せば良い。国鉄が再統合される時テルの力になってくれてありがとう」
「だ、大臣……」
怒声を覚悟していたガンツェンミュラーは、昭弥の言葉に感極まり涙を流してその場にうずくまって嗚咽を出し続けた。
「昭弥」
次いでユリアが声を掛けた
鉄道の事になると異様な行動力と躍動感で突進する昭弥だが、普段は大人しく控えめであった。
今のように神々しく光を放つ昭弥は、生前の姿を知っている者達違和感しか感じない。
しかし、細かい言動や仕草は昭弥で間違いなく、ユリアは、昭弥が再び現れた嬉しさで涙を浮かべて近づいた。
「何で先に行ってしまったんですか!」
「これも運命だったんだよ」
泣き叫ぶユリアに昭弥は困った表情を浮かべて言う。
「だからって、なんで生き返ってくれなかったんですか! せめて今のように魂だけでも孵ってきてくださいよ」
「あんまり関わりすぎると良くないからね。リグニアの鉄道はリグニアで決めれば良い。異世界の鉄道なんて参考程度にすれば良いんだよ」
「……貴方をリグニアに、ルテティアに呼び出したのはご迷惑だったのでしょうか。もっと早く元の世界にお返し、いえ呼び出さなければ幸せだったのでしょうか」
悲しそうな表情でユリアは尋ねた。
「それは違うよ」
決然とした表情で昭弥は言った。
「この世界に召喚されて夢中で鉄道を広げたことに公開はない。むしろ呼び出して、仕事をさせてくれたユリアには感謝しているよ。これほど素晴らしい人生を送れたことはないだろう」
「でも、鉄道は今、廃止されようとしています」
悲しそうにユリアが言った。
普段は皇帝として個々の政策に関する発言は控えている。
しかし、最愛の昭弥が作ってくれた鉄道が廃止、無くなることが誰よりも心苦しかったし、昭弥との思い出が無くなることに危機感を抱いていた。
「鉄道を残さなくて良いのですか」
そして、誰よりも鉄道を愛していた昭弥が、止めてくれることを期待していた。
「それは、君たちが決めることだ」
だが、昭弥は肯定も否定もしなかった。
「国の交通インフラ整備は必要な交通手段を人々に届けることだ。僕が来た時、最適だったのが得意な鉄道だっただけだ。新しい技術が出来て最適ならそれを選べば良い」
「鉄道が無くなっても良いのですか」
「何も言わないよ。それを決めるのは君たちだ。そうだろうテル、いや昭輝」
ユリアの後ろにいた息子であるテルに昭弥は話しかける。
「人々のために頑張っているんだろう。何が必要かは分かっているだろう」
「はい」
父を前にして言葉少なくテルは言う。
「鉄道が帝国のためになると考えていました。欠点も勿論ありますが、それ以上に利点があり、欠点を少なくすればよりよくなると思いました。色々と失敗もしましたが」
「リニアの台車を鉄輪へ交換して在来線を走らせることか?」
テルが失敗したと思っていることを父親に言われて、テルは顔をしかめた。
「それは思いつかなかった」
だが、昭弥は楽しそうに言う。
「台車交換か。全部標準化して一部を除いて不要にしてしまったからな。リニアと鉄輪式でやるなんて在職中にやっておいたら面白い事になっただろうな」
昭弥は嬉しそうに言う。根っからの鉄道好きである
「ああ、戻ってきたくなった」
「なら」
「いや、何時までも先駆者が口出しするのは良くない」
止めようとするテルの言葉を昭弥は抑えた。
「すでに教える事は教えた。教えなかった事があっても自力で何とかできる力がすでにあるはずだ。でなければ鉄道を何時までも維持できないよ。それどころか未来さえ危ない」
昭弥は最後に全員を見渡して言う。
「どうするかは、皆が決めるんだよ。そしてその結果を受け入れ、よりよい未来へ繋ぐ。僕なし行って欲しい。鉄道のためにもね。今回はそれを伝えに来たんだ」
昭弥は決然と伝えた。
自分が関わる事に、死者となった自分が今後のことに口出しするのは、このような機会があっても行けないと思ったからだ。
「それじゃあ、そろそろ行くね」
「待って! ずっと一緒にいて」
ユリアが泣きすがって昭弥を止めようとする。
「留まりたいけど、僕はやっぱり死んでいるからね。何時までもここにいてはいけないと思うから、だから行くね。それに」
「それに」
「ユリアは一人ではないでしょう」
昭弥はそう言って、隣にいるテルや子供達に視線を向けた。
「それじゃあね。エリッサありがとう」
「いひひ、どういたしまして。鉄道の守護神と言われているけど、昭弥に比べると役立たずだったからね。こうして協力できて嬉しいよ」
「ああ、本当に助かったよ。じゃあ、戻してくれ」
「うん、終わりにするよ」
エリッサは涙を浮かべて、儀式の終わりを告げた。
光は徐々に弱まり、昭弥の姿が徐々に揺らぎ、消えていく。
そして昭弥は戻っていった。今度はユリアも止めなかった。
昭弥の姿が消え、大聖堂の中の光も徐々に消えてゆき、ステンドグラスから注ぐ太陽の光だけが残照のように残った。
「テル、いえ鉄道大臣」
ユリアはテルに振り向かずに尋ねた。
「今後鉄道はどうするのですか」
母親として息子に問いかけるのではなく、皇帝として大臣に尋ねた。
テルは背筋を伸ばして答えた。既に結論は出していた。
「現状、利便性の優れるテレポーターを中心に配備し、鉄道を段階的に縮小、将来的には廃止も含めて計画を進めます」
続きは
https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700428120616244
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