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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
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事件の真相

「なっ」


 突然着ていたメイド服を脱ぎ始めたレイの行動にその場にいた一同は驚いた。

 だが、レイは躊躇いなくメイド服を脱ぎ捨てると、下からスーツが現れ始めた。

 そして、髪型を整えるとそれまでの献身的に見えるメイドの姿から、仕事の出来る女性に変わった。


「ら、ラケル!」


 先ほどまでメイドだったレイがスーツに変わり、少し髪型を変えただけでアミリウス伯爵に情報を提供していたラケルに変わった。


「伯爵やウィロビーが犯行を行う前に自首をいたしました。犯罪発生前の自首は刑を免除されますから。暗殺される前に部隊が到着して助かりました」


 白々しいとオスカーは思った。

 レイの自首というか通報がある前から、テルの警護及び救出部隊は準備していた。

 相変わらず、相手の心を抉る箇所を的確に見つけて攻撃している、と思った。

 何度もオスカーは被害を受けているので、実感が籠もっている。


「さて、四人が大臣の暗殺未遂を行おうとしたのは明白です。ですが、ただ一人、理解できない方がおります。ガンツェンミュラー総裁」


 レイは、黙り込んでいるガンツェンミュラー総裁に尋ねた。


「アリバイ工作のためにデパートで時間を潰しているように見せかけて貰いましたが、その時に大臣の情報を漏らしていたでしょう。リシェコリーヌとの会合自体のセッティングも貴方が行ったものです。初めから暗殺を企んでいたのでは? どうして、国鉄総裁の貴方が大臣を暗殺なさるのですか? 国鉄再統合で共に仕事をしていたのに」

「……鉄道を守るためだ」


 ぽつりとガンツェンミュラーは言った。


「鉄道はこれまで国家を支えてきた大動脈であり大黒柱だ。大勢の職員が鉄道員が作り上げ、守り上げたものだ。それをあのジャネットが作り出したテレポーターに取って代わられ、廃止させられるなど許されない。テレポーターによって廃止されてしまうのなら、これまで作り上げ積み重ねられた鉄道の歴史はどうなるののだ! 決して許される物ではない。鉄道の廃止を阻止するためにも私は戦う」

「それが、リシェコリーヌと手を組んだ理由ですか。鉄道廃止阻止という一点であなた方は一致していますからね」

「ですが、大臣を暗殺しようとしてまでやる必要がありますか」

「なんとしてでも守りたかった。でなければ、あんなことをしてしまったことに耐えられない」

「あんなこと?」

「言うなガンツェンミュラー!」

「止めなさい」


 アミリウス伯爵とリシェコリーヌが叫んで阻もうとする。


「二人は黙っていてください」


 レイはそう言って猿ぐつわを二人にかませる。


「さて、あんなこととはどういうことですか? 鉄道存続のために何をしたのですか?」


 レイは尋ねるがガンツェンミュラーは言いよどむ。


「昭弥大臣轢死事件の犯人だからですか?」


 だがレイが尋ねるとガンツェンミュラーは大きく目を見開いた。

 そしてレイは話を続ける。


「事件の時、民営化問題で鉄道は混乱していました。その時、昭弥大臣は同じようにリシェコリーヌと手を組もうとしていたのではないですか? その会合のために貴方はセッティングを行い、連れて行って暗殺した」

「……その通りだ」


 ガンツェンミュラーは小さいがはっきりした声で認めた。


「違う!」

「わ、私ではない。彼らが殺したんだ」


 アミリウス伯爵とリシェコリーヌが叫ぼうとするが猿ぐつわによって防がれ、ガンツェンミュラーは話を続ける。


「今回のように、アリバイの予定を作り上げた後、昭弥大臣と共に会談の場所に行くと、突然彼らが襲い誘拐したんだ。そして、廃工場で殺してあの場所に捨てたんだ」


 ホテルから地下の輸送網を通じて連れ出された昭弥は、そのまま廃工場に連れて行かれ、殺害。翌日近隣の線路に捨てられ、轢死体となって発見された。


「私は、やっていない」

「ですが見逃し、通報せず捜査にも虚偽を述べて隠蔽工作を行った。殆ど犯人の一味です」

「……」

「何故そのような事を」

「国鉄を、守るためだった」


 ガンツェンミュラーはわめき始めた。


「総裁は民営化のため、組合の協力を得るためにリシェコリーヌが作成した一部組合員のリストを元に、そいつらを民営化後の会社に残しても良いという取引を持ちかけた。スト権ストなどやって鉄道を大混乱に陥れた連中をゆるすというのだ。民営化によって国鉄の功績を無かったことにするのが許せなかった」

「だから、殺したと」

「ああ……昭弥大臣を殺せば民営化は止まると思った。組合は後から組合員を懲戒免職にすればよいと思ったんだ。幸か不幸か、会談のための偽のアリバイと、民営化問題の混乱と管轄が入り乱れたため捜査は進展せず、迷宮入りしたこともあって私の周りは平穏だった。」

「しかし、民営化は止められませんでしたね」

「ああ、それが過ちだった。総裁は初めから一社単独で民営化するつもりだった。だが、昭弥大臣がいなくなったことで民営化が止まるどころか更に加速して分割民営化になって仕舞った。組合の連中がアミリウス伯爵達資本家と手を組み、組合員を守る代わりに資本家のポスト、経営陣の増える分割民営化を採択させたのだ。私は止めようとしたが、総裁殺しの共犯だと言われ何も出来なかった」

「じゃあ、再国有化の時、協力したのは?」

「再び国鉄を復活させるためだ。国鉄が復活し安定したのなら、私は罪を償っても良いと思っていた」

「だが、テレポーターが出来て状況が変わった」

「ああ、そうだ。国鉄どころか鉄道そのものが無くなるのが許せなかったんだ。だから殺さざるを得ないと考え再び、そこの二人と手を結んだんだ」


 全てを言い切ったガンツェンミュラーは大きく息を吐くと泣き始めた。


「私の役目は鉄道を守ることだ。これは昭弥様の為でもあるんだ。ああ、昭弥大臣。貴方を死なせてしまって申し訳ありません。鉄道のために貴方を殺してしまったのに、私は鉄道尾守り切れませんでした。どんな罰もお受けします」

「本当にそうなのか、聞いてみますか?」


 それまで黙っていたテルがガンツェンミュラーに尋ねた。


「……何を言っているのですか。亡くなった昭弥様が話しかけてくれるなど」

「出来るよ。最近忘れているかもしれないけど、神の奇跡というのは、この世界にあるんだ」


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