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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
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外伝 オスカーと連隊の訓練

 それは、キャノンとウィロビーがテル達を襲撃する数週間前、オスカーの部屋で起こった。


「はあ、疲れた」


 御付武官と特殊部隊の連隊長は結構な激務だ。

 しかも、連隊の部下達は一癖も二癖もある連中ばかりで、テルの言うことしか聞かない。


「連中、屋内への襲撃演習サボりやがって」


 特に屋内への襲撃、突入訓練を嫌がってやってくれない。

 市街地では必要なのに、やる気が見られない。


「中助って何時の話だよ」


 しかも舐めているのか、ことあるごとに昔の言動を言って弄ってくる。

 新任少尉の頃、一寸した腕に覚えのある兵士気取りで、中隊長の事を兵士達のように中助といっていた。だが、その時の言動を部下達は真似し続けて、オスカーが実際に中隊長になっても面と向かって言う。自分の言動であるだけに表だって注意できなかった。

 昇進して大隊長、連隊長になっても変わらず、相変わらず中助と呼ばれる日々だ。

 ウンザリだが、元々志願して軍隊に入っただけにこのまま軍人を辞めるつもりは無かった。

 その時、呼び鈴が鳴った。


「うん?」


 何かと思ってのぞき穴から部屋の外を見る。

 部下の隊員の一人が立っていた。


「急な報告があります」

「分かった今開ける」


 オスカーは鍵を開きノブを回す。

 その瞬間、扉が勢いよく開き、数人の隊員が中に入ってくる。

 一人がオスカーを押し倒し、馬乗りになる。

 馬乗りになった部下は女性だが全然嬉しくない。

 頭に銃口を突きつけられたら怒りしか湧かない。

 そしてオスカーを無視して多数の隊員が室内になだれ込んでくる。


「クリア!」

「クリア!」


 部屋の中をクリアリングして行き、制圧していく。

 普段嫌がっている訓練を、完璧なまでに行っているのが余計に腹立たしい。


「おい! お前ら!」


 上官に向かっての多数の乱暴行為、何より自分のプライベート空間を荒らす部下をオスカーはを止めようとした。


「作戦規定第九項a、発動中」


 だが、部下が呟いた言葉で声を出すのをオスカーは止めた。

 特殊任務連隊作戦規定第九項a、作戦の障害となると思われるもの、不要に発言して作戦を阻害する存在は誰であれ抹殺せよ――殺してでもしゃべらせるな、ということだ。

 物騒な規定だが、ある種の極秘作戦では障害に当たる者を全て処理する必要があると考えていたため、このような規定を入れていた。

 この規定が発動している作戦中は、不用意に発言をしようとした相手を射殺しても良い、排除するように訓練をオスカーは施していた。

 つまり、この規定が発動している間は、作戦参加要員は誰であれ、不用意な発言をした者を射殺できる。

 例え上官のオスカーでもだ。

 だからオスカーは黙った。

 この行状を止めるのなら命令を発する事で十分だが、それを封じられた。

 先ほどの言葉は、オスカーが停止命令を下すのを止めるためのものだと、オスカーは気がついた。

 ブラフだろうが、試す気にはなれなかった。

 下手に試そうとすれば、自分が撃ち殺される。

 だから口を挟めない。


「障害を居間に移送します」


 そういうと部下はオスカーに銃口を突きつけたまま、移動させる。

 隊長である自分を障害と言われて腹が立ち、怒鳴りたかったが、先ほどの規定が有効になっているためオスカーは。うめき声さえ出せなかった。

 居間に座らせられた間にも部下達は素早く部屋の中に入り込んで、様々な物品を持ち込む。

 部屋の中を清掃してテーブルの上を片付け、持ち込んだ雑巾で拭き上げ、テーブルクロスを敷く。

 その上に彼女たちが作ったのであろう料理が並べられていく。


「目標接近!」


 見張りの一人が報告すると、全員の目の色が変わった。

 息を潜め、扉に注目する。


「あと五メートル、四メートル、三メートル……」


 見張りの言葉に、全員が臨戦態勢に入る。


「二メートル、あと、一メートル」


 緊張が高まり、緊迫感で息苦しさを覚えるほどだ。あまりの雰囲気にオスカーも声を出せずにいる。


「今!」


 合図と共に隊員達が部屋を飛び出して廊下へいく。


「テル! 新計画開始おめでとう!」

「うわっ、皆」


 部屋の前を通りがかったテルを隊員達は囲み込む。


「お祝いしよう」

「ははは、仕方ないな」


 特殊任務連隊の隊員を家族のように扱っているテルは拒めず、オスカーの部屋の中に入る。


「しかし、オスカーの部屋でやって良いのか」

「ええ、連隊長も快諾してくれました」


 ここでだけ連隊長と言う事にオスカーは腹が立ったが、銃口を突きつけられているため文句は言えない。

 ぐりぐりとテルからは見えない位置でオスカーの身体に銃口をねじ込んで来る。笑えという意味であるのは言われなくても分かった。

 だからオスカーは薄ら笑いを浮かべる。


「済まないな、部屋を借りて」


 テルはいつもの笑顔を見せた。

 理解しているのかもしれないがこの状況に水を差すと余計に問題がこじれるから黙っているのかもしれない。

 少なくとも、この状況を打破するには、全員が満足するようにお祝いを受け入れ楽しむしかなかった。


「おめでとー」

「テルー、今度はいつ帰ってくれるの」

「早く、戻ってきてよー」

「まだ仕事があるから」


 鉄道大臣として忙しい日々を送るテルは連隊に帰る事があ少ない。

 だからここぞとばかりに隊員達はテルと触れ合う。


「さて、そろそろ時間だな」


 一時間ほど経過するとテルはおもむろに告げた。


「えー、もっといようよ」


 だが兵士達はだだをこねる。


「ダメだよ。やることがあるんだ」

「うーっ、たまには会ってよー」


 不満を言いながらもテルの歩みを阻まない。


「テルー、身体に気をつけてね」

「またねー」


 手を振りながらテルが出て行くのを見送った。

 そして扉が閉じると号令が下る。


「総員撤収!」


 オスカーを脅す役以外の全員が動き出した。

 持ち込んだ食器類、食べ残しを回収し、部屋の清掃を行う。

 全て綺麗にすると動かした家具類を元に戻し、襲撃したときのままに戻す。


「よし」


 全てが綺麗になったのを確認するとリーダー格の隊員が命じた。


「では連隊長、訓練へのご協力ありがとうございます」


 そのまま部屋を出て言った。


「あいつら……」


 苦虫をかみつぶしてオスカーは唸る。


「良くも俺の部屋を会場にしやがったな。というか普段サボっている襲撃をここぞとばかりに完璧にこなしやがって」


 オスカーが連隊長に就任してから彼らは身に入らない訓練をしていた。

 だが、レイがオスカーの部屋でテルと遊ぶのに使える、使用する時は屋内戦闘を生かして文句が言えないようにすれば良い、と吹き込んでから訓練に身が入り、完璧にこなした。


「連中、今度という今度は許さん」


 翌日の訓練は厳しくしようと考えた。

 しかし元々能力の高い連中には簡単にこなせるものだった。

 しかも、今回の事に味を占めた連隊の連中はテルの部屋に近いオスカーの部屋をその後も襲い続けた。

 皮肉なことに、何度もオスカーの部屋を襲撃したためテルとオスカーがキャノン達に襲撃された時、カウンターを行う事が出来たのもオスカーの協力による訓練の賜物だった。

続きは


https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700427884079006


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