表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
733/763

密会の作法

 オスカーは今回の会談に乗り気では無かった。

 国鉄と激しい対決路線を標榜している労働組合一派と合意を結ぼうとすることは、あまりにも危険度が高い。


「だからだよ」


 特に反対運動を激しく展開しているのがリシェコリーヌの一派だ。

 日々、テレポーター設置反対のデモ活動を行っている。

 普段なら組合とは距離を置いている鉄道員達も鉄道廃止という前代未聞の事態に危機感を強めて、組合に加入し活動する人が増えている。

 そのため、組合の規模は日々、拡大していた。


「規模が拡大していると言うことは、職員や鉄道員もテレポーター導入に反対しているということだ。だからこそ組合を説得できればテレポーター導入が進むはずだ。これは必要な事だよ」

「鉄道大臣と言うことで強引に推し進めれば良いだろう」

「そんな事しても、しこりを残すだけだ。無理矢理やって帝国の中に恨みや分断をもたらしたくない。それにテレポーターに対する破壊行為も心配だ」


 器械が導入された頃、器械に自分の仕事を奪われると思った職人や職工が破壊活動を行ったことがあった。

 その運動は帝国の各所で行われ器械への転換が遅れる原因になった。

 だが、器械の効率が良く、器械を導入する流れは止められず結局破壊活動は失敗した。

 そして労働者と資本家の間に深い分断が起きており、最終的には現在の労働組合との対立に繋がっている。


「そんな事が起きないように、組合を説得する必要があるんだ」

「一応考えている訳か。まあ、良いだろう。しかし、どうして直接大臣のお前が会いに行くんだよ」

「直接会って腹を割って話さないと無理だ。人を通してだと伝言ゲームになる」

「しかも密会になるんだよ」


 ごく少数で会うことに、オスカーは文句を言う。

 万が一、襲われた時対応できないからだ。もう少し人数を増やしても良いのではないか。


「向こうの意向でね。表向きには当局と対決姿勢を維持して求心力を維持したいらしい。基本合意も無いまま表だって会うのは、その姿勢に疑問を持たれ組織を維持できない」

「下をまとめ上げられない無能どもと話し合う必要があるのか?」

「一応纏まっているから多少は優秀だよ。他の労働組合や派閥よりね」

「だが、よりによってリシェコリーヌか。あの権力亡者の。ヤツの派閥をバラバラにした後、各個撃破した方が良くないか?」

「バラバラになったあと全ての勢力と話し合うことが出来るか? 暗黒時代か治安が崩壊した領邦でゲリラ掃討戦行うようなものだぞ」

「相手の立場を尊重するのは大事だな」


 終わることのない対ゲリラ戦を経験したオスカーは前言を翻した。

 内戦状態で、何処にどんな勢力がいて何処とどんな関係なのか不明な状況に放り込まれ混乱状態になってえらい目に遭った。

 交渉相手がいるのなら、余計な労力が省かれるなら話すべきだ。


「でもこういうことはレイが、実家のラザフォード家とかがやるもんじゃないのか?」


 過度に政治に寄りすぎるラザフォード家は、この手の裏工作や誘導、切り崩し、時に謀略で相手を罠に嵌める事に定評がある。

 帝国で起きた事件の多くはラザフォードが関わっているという噂さえ、真面目に語られるほどだ。


「向こうに嫌がられたんだよ。罠に嵌められそうで怖いからラザフォードを通さないでくれと言われた」

「ならしょうが無いな」


 さもありなんと言った態でオスカーは言う。

 謀略というか悪辣な罠を仕掛ける事に関してはラザフォード家の右に出る者はいない。

 その悪名故に、交渉役がラザフォード家というだけで、逃げ出す人間もいる。

 レイ、そしてラザフォードを外してくれと言われても不思議は無かった。

 特に二人は先日のレイの行動で身にしみて理解している。


「しかし、手が込んでいるな。わざわざ、デパートに寄って裏口から出るなんて」


 テルとオスカーは街を歩く前にデパートに寄って変装して裏口から出ている。

 表向きは家族へのプレゼントを買うためという事になっており、応接室で商品を見定めていると公式記録には残される予定だ。


「相手にも立場があるからね。出会ったことがばれるのが不味い」


 テレポーター導入を進める鉄道大臣と反対する労働組合委員長。

 互いに立場上、会うことさえ致命傷になりかねない相手だ。

 会談をしたら、変な憶測、組合におもねったテレポーター導入を断念したとテルは言われかねない。

 リシェコリーヌも大臣と妥協した、俺たちを裏切ったと言われかねない。

 最悪、双方とも、自分の所属から裏切り者扱いされる可能性がある。

 例えトップといえど消される可能性がある。

 いや、トップだからこそだ。

 トップは下を守ること、働ける環境を作るからこそトップでいられる。

 彼らを裏切るようなら最早トップでは無いので引きずり下ろされる。

 テレポーターの設置どころか、制裁として命を狙われる可能性さえある。

 労働組合の対立や内ゲバが激しいのは、そうした力学が働いているせいでもある。

 国鉄や鉄道省内部でも大臣になって日の浅い――昭弥に比べれば誰でも浅いとされてしまうが、侮っている風潮がある。

 ここで対立している労働組合の委員長と出会ったなら、皇族とは言え権威の失墜は免れず、今後の仕事に影響がある。

 少なくとも互いの意見をすりあわせたり、内部を纏めるだけの条件を双方が煮詰める必要がある。


「だから密かに出会うんだよ。向こうも対立が目的じゃ無くて、労働者の権利を守りたいはずだ」

「そうかな」


 オスカーは疑問符を浮かべた。

 だが掛ける言葉が見つからず、目的のホテルにたどり着いた。


「大丈夫か?」


 ロビーに入る前にテルに尋ねるオスカー


「大丈夫だよ。指定された部屋は三階だ」

「なら大丈夫か」


 二人はホテルに入り指定された部屋のある三階に向かった。


続きは


https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700427836091131


で読めます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ