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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
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策謀蠢く

「クソッ、あの青二才の大臣め! よくも私をこけにしてくれたな」


 アミリウス伯爵は先日の事を思い出して怒り心頭だった。

 娘に辱めを与えたと訴え出たら、側仕えしていた執事が実は女だった。

 娘は女に辱められたのか、と笑いものにされた。

 これで自分の影響力は小さくなってしまった。

 テレポーター設置反対を訴えても力になれそうに無いし、組織内の立場も悪くなる。


「こうなれば、大臣を亡き者にしてくれる」


 アミリウスはテルの暗殺を決意した。


「おい、ウィロビー」

「何でしょうか?」


 痩身で何処か不気味な男性が現れた。

 ウィロビーは組織の穢れ役を務める男で、脅迫、誘拐、時に暗殺も行った人物だった。


「大臣を暗殺する。方法はウィロビーに一任する。ラケルに必要な情報を求めろ。私の方から提供するように言い聞かせておく。暗殺できるか」

「出来ます。現状では暗殺の機会がいくらでもあります」

「頼むぞ」




「案の定、大混乱になっているな」


 中央駅の玄関口を歩いていたオスカーは言った。

 人通りはかつてより多い。

 殆どが、新たに設置されたチェニス行きのテレポーターに向かう利用者だからだ。

 テレポーターの実用化と鉄道の廃止を含めた段階的縮小と、テレポーターへの移行を発表してから帝国、特に国鉄内部は混乱に陥っていると言っても過言では無かった。

 試験を終えた最初のテレポーターが、アルカディア~チェニス間に設置され実働運用を開始した。

 設置された理由は、この区間が国鉄路線の中で最も利用者が多い路線の為だ。

 最初こそ――ジャネットの発明という悪評から、物好きが話のネタに利用するだけだった。

 だが、その利便性が認識され、信用に足ると見なされるや否や利用者は爆発的に増大した。

 結果、アルカディア~チェニス間の鉄道利用者以上の利用者が殺到した。

 リニアを使っても最短で三十分程の所要時間が一分以下になるのだから利用は当然だった。

 近所に行くように利用できるとなれば、それまで時間が無い、往復に一時間、現地で所用を済ませることを考えると二時間の時間的余裕が欲しい、と考える人が、移動時間の一時間を考えずに済む。

 これまで時間の余裕がない人でも、チェニスあるいはアルカディアへ行けることから需要はリニア開通時より人出が出たのは当然だった。

 貨物駅にも設置され、物資の輸送に用いられている。

 特に輸送の多い小麦や原油などはスロープやパイプラインを常時テレポーターに貫通させ間断なく送る設備さえ作り上げていた。

 当然、鉄道利用者は激減。

 帝国で最も利益を出していた路線は赤字に転落した。

 そして、他の都市への設置も進められており準備が始まっていた。

 当然この動きは、国鉄内で話題となっている。

 いずれ国鉄が、鉄道が消滅するという不安からだ。


「さっき、駅員達が話していたぞ。俺たちもいずれ失業か、って」


 仕事柄、聞き耳を立てることの多いオスカーの耳に自然と入ってきた。

 駅員が一番多い中央駅とはいえ、偶然耳にする話の内容が、テレポーターと鉄道消滅という話なのは、鉄道員達が有する危機感が存在する事を証明していた。


「テレポーター設置反対! 鉄道廃止反対! 職場を守れ!」


 駅の広場では、労組の一つが街宣車のスピーカーから演説を行っていた。

 スト権ストで壊滅的な打撃を受けていた労組だが、不満分子はどこにでもいるし、時折派手なアジ演説を行って存在をアピールしているのでそれなりに認知された存在だった。

 ただ価値観の多様化のため十数派に分裂しており、主張は通りにくかった。

 だが、今回ばかりは全ての派閥が一致してテレポーター設置への反対を声高に謳っていた。


「組合に入っていない職員も入るんじゃないのか?」


 枢密警察をはじめとする公安警察――鉄道公安部の労働組合担当部門からもテレポーター設置への危機感から、組合へ加入する職員が増えていることが報告されている。

 そして鉄道のみならず、トラックとバスを有する自動車業界、航空業界、船舶業界。

 物流及び運輸に関わる産業で反対、少なくとも動揺していない産業は無かった。


「だが、テレポーターは物流を大きく変える。鉄道よりもずっと便利だ。現在は家庭用の小型テレポーターの開発も進んでいる。今後の移動手段はテレポーターになる」


 技術の方向性として小型化、簡便化――使いやすさが追求されるのは何処も同じだ。

 魔術とはいえ、科学が発展したリグニアでは魔術の方向性が大衆化、一般人でも使える方向へ舵が切られている。

 全ての家庭にテレポーターが行き渡る可能性は否定できない。


「そうなったら物流業界は壊滅する。運輸業もただでは済まない」


 全ての物流をテレポーターが、仮に帝国内の全ての施設は勿論、世帯に配置され、何処にでも行けるようになれば、物流は大きく変わり、運輸産業は壊滅的な状況となる。

 一部ではテレポーター導入により売り上げが上がった路線もある。

 しかし、それはテレポーターが一部にしか普及しておらず、テレポーターまでの移動需要が増えた結果でしか無い。

 現に運輸業界全体の売り上げは、大幹線がテレポーターで結ばれたため減りつつある。

 もし、帝国の全ての場所にテレポーターが設置されれば、運輸の需要そのものが消滅し業界は崩壊する。

 業界の縮小、衰退は避けられなかった。


「そんな事になっても全ての産業の労働者を守る必要があるんだ。そのために行動しないといけない」

「だかからって此方から会いに行く必要があるか? 国鉄総裁のガンツェンミュラーさんが手引きしてくれたとはいえ、相手は労働組合だぞ。それもスト権ストを主導したリシェコリーヌの一派と会うなんて危険すぎる」

続きは


https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700427784728051


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