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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
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主を弄ぶ従者

「どうしましたか?」


 うろたえるオスカーを見て首を傾げるレイ。

 オスカーはレイの姿に動揺したからだ。

 肩から胸にかけて開いたショルダーオフの真っ黒い身体にピッチリとフィットしたハイレグレオタード。クロッチのあたりから、えげつない角度で腰までカットされた部分からは黒いタイツが伸び、エナメルの輝きを放つニーハイのブーツに入り込んでいる。

 胸元はフリルで覆われているが、ボリュームのある胸を更に大きく見せてる。

 首のチョーカーも黒いリボンの付いたフリル付き。

 腕は二の腕まである黒のロンググローブで袖口にフリルが、手首にはカフスが付いている。

 腰の部分はフリル付きのリボンで締められて身体のラインを絞り出している。

 前のフリルエプロンは言い訳程度の小ささで前――クロッチさえ隠せず寧ろアクセントとしてより扇情的な姿にしている。

 どう見てもいかがわしい店、それも変態という名の紳士が入るような店の衣装である。


「どうしました?」


 再びレイは驚いているオスカーに尋ねた。

 いかがわしい格好をしたまま、いつもと同じ表情で尋ねてくるレイであることは頭の変わらないカチューシャが示してくれている。

 いや、昨日と同じレイである事を証明されたため、余計に衣装の違和感とそれを完璧に着こなすレイにオスカーは呆然とした。


「言葉も出ないほど疲れていますか」


 思考停止して無反応のオスカーにレイは近づいて紅茶を差し出した。


「どうぞ」 

「あ、ああ」


 魅惑的な笑みをむけられたオスカーは夢遊病患者のように言われるがままに紅茶を受け取った。

 レイはそのままテルの元に向かい紅茶を差し出さず、背中を向けた。

 艶のある真っ白い肌が丸出しの背中を見せた状態から身体を捻りつつ、ティーカップをそっと机の上に差し出した。

 捻る事で身体のラインが艶めかしく変化し引き出され、サーブされたゲストを喜ばせるバニーディップと呼ばれるサーブ方法だ。

 テルはその姿を半目で見ながらティーカップに口を付けた。


「って、おい」


 ようやく再起動したオスカーがレイを部屋の片隅に引っ張り込もうと手を伸ばす。

 だが、伸ばした手をレイに掴まれオスカーは逆に関節を極められてしまった。


「ぎゃあああ痛い痛い」


 細腕からは信じられないほどの力でオスカーの関節は極められ、締め付けられる激痛が身体を駆け抜け口から悲鳴を上げる。


「私は昭輝様の専属メイドです不用意に触れないで下さい」

「じゃあ何でそんな姿しているんだよ。ぎゃああっ」


 触ってくださいと言っているような物だろ、というオスカーの言葉は悲鳴に消えていった。


「深い事情があるのです」

「何だよ」


 深刻な顔をするレイにオスカーは腕の痛みも忘れて真剣に聞き入る。


「この格好をする理由は」

「理由は」

「テルの好みだからです」

「ぶっ」


 爆弾発言にオスカーは噴き出した。


「って、マジかよ。テルの命令でか」

「いいえ、テル様は、そのような事はおっしゃっておりません」

「自分勝手に着ているだけか」

「いいえ、声に出さずとも主の望みを正確に知り、忠実に実行する事こそ真の忠臣です」

「って、ことで自分勝手で着ているだろう」


 嫌な顔をテルにさせるためにきわどい格好をして見せつけるレイに唖然としながらも問い詰める。


「テルへの嫌がらせだろう」

「いいえ、テルがこの衣装が好きなのは自明です」

「どうしてだよ」

「これだけ言っても、部屋に入ってきてからもテル様が否定していないからです」

「あ」


 レイに言われてオスカーは気がついた。

 テルは育ちが良いのか素直で嘘を吐くことが少ない。

 特に内心の事に従う。

 為政者としては致命的だが、個人としては良い人だ。

 そのため内心を読みやすい。これだけ言われても否定しないと言うことは内心で認めていると言うことだ。

 その証拠にテルは机に座ったまま拳を握り静かに震えていた。

 礼装ではないことは確かだが、好みである事は否定出来ず、止めることが出来なかった。

 自分の嗜好好きだというのを認めても、レイに止めるように言えば良いのだが、内心の動揺でそこまで頭が回らなかった。


「ひでえなレイ」


 主人の心の内まで読み取りその願望を叶えるメイドなどダイヤより希少だ。

 だが、それは内心を暴露され宣伝しているに等しい羞恥プレイだ。

 しかもテルの性格を把握して止めることがないと確信してやっている。

 正直言ってタチが悪すぎる。テルが殺意を抱きつつ、手放せない理由が分かった気がした。


「……よくテルの内心を読み解けるな」


 正式ではなかったが、事実上の皇位後継者として周りに見られていたため、テルの言動は注目されており不用意な発言をしないように黙っているためか、本心を語ることは少ない。

 そのため士官学校時代からの友人であるオスカーもテルの内心を読み取りきれていない。

 長年側に仕えているとはいえ、正確無比にテルの欲求をくみ取れるレイは凄い。間違った方向に発揮されているのが残念だが。


「当然です。長年にわたり仕えていますから。ちょっとしたことで、視線を追っていれば何を考えているか分かりますし、面白い方向へ好みを誘導する事も出来ます」

「さらっと操り人形発言していない!」

「そんな大したものではありませんよ」


 謙遜するようにレイは言う。


「長年仕えていたので、どのような事が好みか分かります。まあ、寝ている間に耳元で囁いたり、身体をあてて興奮させたりして、嗜好を誘導したりしていますが」

「やっぱり操っているじゃねえか!」


 とんでもない人間を側近にしたテルにオスカーは同情心しか湧かなかった。

続きは


https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700427739596262


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