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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
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自滅的逆転裁判

 レイの発言に全員が身を乗り出してレイに注目した。

 長年に渡りテルの側にいて、その言動を全て書いたレイの手帳。

 テルを射止めたい彼女たちにとっては喉から手が出るほど欲しいものだった。


「そ、それを渡せ」

「ええ、かまいません」


 レイはにこりと笑って手帳をクラウディアに手渡した。


「ただ、備忘録ですので、一部記述しきれていない部分があります。それでも長年仕えていたために冊数も多くあります」


 レイの言葉に全員がざわめく。


「ぎ、議長! 新たな証拠が出てきた今、被告人の刑の執行を猶予すべきです」


 ざわめきが可聴域に達したとき、焦った声が部屋に放たれた。


「被告は帝国の将来に関わる重大な物品を持っています。全て回収するまで執行を猶予するべきです」


 凛とした声が響く。


「その調査に私を」

「抜け駆けするな。それは私の役目だ」


 私欲の混じった声をそれ以上の私欲にまみれた声が上塗りする。


「れ、レイ、それを私によこせ。死刑は免除してやる」


 ついに建前で本音を隠すことさえ止めた声が上がる。


「独占するな!」


 そして姉妹達は言葉の応酬から実力行使へ移り、あっという間に大乱闘が始まった。

 レイを滅殺するために各々が用意していたワザや武器が同じ父を持つ姉妹に向けて放たれた。

 兄弟姉妹で最強とされるクラウディアでも全員を相手にしては潰される。強い方からかたづけた方が良いという事で真っ先に集中攻撃を食らって撃沈。その後も強い順に攻撃されて倒されていく。

 その後は互いに技量に優れる姉妹同士のいつも通りの激戦が繰り広げられる。

 中には上手く立ち回って攻撃を回避する者もいるが。


「きゃあ、あぶなーい」


 と、レイがさりげなく近づいて来て、レイを確保しようとした姉妹達の乱闘に巻き込まれ煽りを受けて倒れてしまう。

 強い者から最初に攻撃されて倒れたため実力が伯仲した者同士の戦いとなる。

 やがて自分以外全て敵というバトルロイヤル形式の戦いとなり激しさを増していった。

 実力が伯仲しているだけに相打ちする事態も増えていき倒れる者が出ていたが、戦いは激しく続いた。




「では私は執行猶予が付いたと言う事で宜しいでしょうか?」


 数分後、穴だらけになった部屋の入り口で、ただ一人無傷なレイは言った。

 他は全て激戦の果てに共倒れになり死屍累々の如く床に倒れているテルの姉妹達だ。


「……」


 彼女たちはボロボロの身体を床に倒したまま無言で殺気をレイに向けて放った。

 常人なら狂い死にするほどの殺意をレイは受け流しつつ笑みを浮かべて答えた。


「ええ、勿論執行猶予の条件である昭輝様に関するこれまでの情報を定期的に纏めて皆様にお届けいたします」

「……」

「はい、重要条項に関しては随時、皆様方に緊急報告いたします」

「……」

「勿論、昭輝様に手出しはいたしません」

「……」


 姉妹達の殺意の圧力が高まった。レイの言葉が本当かどうか疑っていた。しかし戦いで身体がボロボロになりレイを問い詰めることは出来なかった。


「はい、勿論手を出した際は即時処刑という事は理解しております」


 しかし釘は刺しておく。

 神妙に答えるレイだが、何処まで信用できるか分からなかった。


「では、これより私は昭輝様のもとに帰りメイドとしての仕事を遂行いたします。それでは皆様失礼致します」


 スカートの裾を摘まみ、片足を出して礼を示すと踵を返して無傷のまま帰って行った。


「いやあ、上手くいきましたね」


 テルの元へ行く途中でレイはえ自分の思い通りに事が行ったことに笑みを浮かべる。

 何時か女性出る事がバレたとき、テルの姉妹達から嫉妬に駆られて攻撃される事をレイは想定していた。

 そこで、対応策としてテルの動静を逐一記述した備忘録を作っておき、いざという時取引材料に出来る様にしていた。

 思った以上の効果を発揮し、断片的に間隔を開けて公開する事で長期に渡って手駒にする事に成功した。


「裏で手を引いてくれた、お祖父様に報告しなければ」


 予め仕組んでいてくれた祖父である帝国宰相ラザフォード公爵は喜んでくれるだろう。

 今回クラウディア達が非公開の公式な裁判を行えるようにしてくれたお陰で、自分が帝国とテルに性別を偽った犯罪を有罪としつつも事実上、無罪放免に持っていった事が重要だった。


「さて、お陰でまだまだ楽しめますね」


 人生を楽しむ事を至上としているレイは、次なる楽しみのためにテルの元へ向かった。




「レイの奴は無事か?」


 テルの姉妹喧嘩が内戦レベルである事を知っているのでオスカーは不安だった。

 勇者の力や発明や魔術に秀でている。それらがレイに襲いかかったらタダでは済まない。


「大丈夫だよ。最初は姉さん達に吊し上げられたみたいだけど、何故か姉さん達が瀕死の状態になって、レイが無傷で帰ってきたよ」

「そうか」


 何が起きたか分からないが、いつも通りの展開――何故か周りが翻弄されているのに張本人であるレイが無傷、しかもレイ本人がやったという証拠が出ないという事に二人は慣れていた。

 二人にとっては不本意な事に。


「失礼致します」

「ああ、レイ無事かあ、っって!」


 レイに声に振り返ったオスカーは顎が外れんばかりに口を開いた。

続きは


https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700427739545930


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