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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
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例外的な皇女達の裁判

 テルの部屋を出たレイは、鉄道省を出ると離宮へ向かう。

 そしてクラウディアを初めとする皇女達が呼び出した部屋に赴いた。


「失礼します」


 レイは非の打ち所の無い動作でドアをノックして部屋の中に入った。

 その部屋は広めだが、テルの腹違いの姉妹達が全員集まり両脇に控えているので狭く感じる。

 だが物理的な部屋の広さ以上に彼女たちの雰囲気、レイへの害意、率直に言ってあふれ出ている殺意が溢れ部屋中に充満し、圧迫感を高めていた。


「被告人レイ・ラザフォード、部屋の中央に」


 第一皇女であるクラウディアの殺意のこもった声がレイに向かって響き渡る。

 それ以前にレイを貫く無数の視線は殺意で鋭く研ぎ澄まされており、向けられただけで常人なら失神、運が悪ければショック死してしまうだろう。


「はい」


 だがレイは致死性の視線を、そよ風のように受け流すと部屋の中心へ向かう。

 部屋の中心に立たされたメイド姿のレイは、周囲の姉妹達、ある者は自らの爪を研ぎ、ある者は電撃を飛ばし、ある者は軍の新装備擲弾銃を構え、ある者は機関銃の槓桿を鳴らし、ある者は魔方陣を描いて必殺魔法を放つ準備をしている。

 多種多様な行動をしているが、全員が自らの必殺技あるいは獲物を準備し、レイに対して殺意を込めた視線を送っていることだけは共通している。

 判決が決まり次第、いち早く自分が攻撃してチリも残さず消滅させようという気に満ちていた。


「其方」


 剣を両手で握りしめ、いつでもレイの頭に振り落とす準備を整え、レイと相対していたクラウディア――今回の査問会の議長であり裁判長であり、処刑人志願が尋ねる。


「レイ・ラザフォードで間違いないか」

「はい」


 レイは周囲から向けられる殺意に潰されず冷静に質問に答えた。


「性別を偽り、テルに近づき、接触したことに間違いはないか」

「間違いございません」


 何の弁明もせず質問を認めたため、周囲の殺意の圧力が一段と強まった。

 姉妹の誰もが望んでいたテルとの接触時間。

 それを性別を偽ってレイが行っていたことに、執事という立場を利用してテルを一人で独占していたことが姉妹達の怒りに触れていた。

 だが、数多の殺気を向けられてもレイは落ち着いたままだった。

 そのことがクラウディア達の逆鱗を更に刺激した。


「貴様は有罪だ。皇族を謀り偽りを述べたのだからな。死刑が妥当だ」

「同意します」


 皇族であるテルに身分を偽り近づき仕えるだけで十分処罰の対象であり、最高刑は死刑だ。

 事情により軽減されるし、暗殺目的でもない限り死刑が適用されることはない。

 だが、クラウディア達は適用する気満々だった。

 もちろん皇族とはいえ現行犯以外で処罰は出来ない。

 しかるべきところ――この場合は宮内省に申し出て裁判を行う必要がある。

 そして事態を知ったクラウディアはレイの処罰の審査を自分たちで行うことを宮内省に願い出た。

 勿論、そのような事は異常であり、いくら皇女達の願いでも通常なら却下される。

 だが、何故かこの件に関しては彼女たちで裁判を行い、その判決を皇女達自らが執行する事さえ認められていた。

 つまりクラウディアがこの場で死刑を告げれば、それは帝国の裁定になるのだ。

 非常に例外的な事だったが正式な手順で承認されており、この裁判は合法だった。

 だから議長であるクラウディアが死刑と断じた今、レイが処刑されるのは合法であった。

 レイの運命は決したと言って良かった。


「執行前に何か言い残すことはないか?」


 悠然とクラウディアは、度量の広さを見せつけるように、最後の晩餐を与えようとレイに尋ねた。


「いえ、ありません。ただ一つ」

「何だ?」

「執行前に行い事がありますので、この場で行う事を、五分ほどの時間を与えられる事を、お許しください」

「良いだろう。私にも多少の慈悲がある」

「ありがとうございます」


 感謝を述べたレイは静かに自分の手をスカートのポケットの中に入れた小さな手帳を取り出し、開いて読み始めた。


「はあ」

「うんうん」

「あはっ」


 取り出した手帳のページをめくるたびにレイの表情が変わっていく。

 懐かしそうに、嬉しそうに、微笑ましく、時に慈愛に満ちた表情を浮かべて笑う。

 その様子をクラウディア達は屠畜場に連れてこられた家畜を見るような目で見ていた。


「まあ昭輝様ったら」


 笑いながら言ったテルの名前を聞くまでは。


「あらあらこんなことも、ああ、こんなこともありましたねえ、まあ、こんなことを」


 レイの独り言は徐々に大きくなり姉妹達の耳から入り心に反響して増幅された。


「ああ、昭輝様ったら」


 テルの名前を口にしながら笑うレイに彼女たちは気になり始めた。

 間もなく死ぬ死刑囚の戯れ言、最後の行為だと思っていたが、テルの名前が笑みを浮かべながら出てくるのは気になる。


「……レイ」


 耐えきれずにクラウディアはレイに尋ねた。


「何か?」


 手帳から視線を外してレイは笑みを浮かべてクラウディアを見た。


「それは何だ」


 手帳に視線を固定したままクラウディアは尋ねた。


「私的な手帳です」


 クラウディアに尋ねられたレイは答えた。


「職務上、必要と思って書き付けておいた備忘録です。昭輝様の言動を事細かに書いておきました」



続きは


https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700427739530369


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