レイの正体
「なっ」
「貴様何を!」
突然脱ぎ始めたレイにアウグスタと伯爵は驚いた。
そして直後に絶句する。
燕尾服を脱ぎ、シャツの下から現れたのは女物のドレスだった。
何処にどうやって隠したのか、スレンダーだったはずのレイの胸は膨らみ、先ほどまで肩幅のあった男らしい体つきから、丸みを帯びた女性の身体が現れる。
髪を少し整え直すとそこにいたのはドレスを着た女性だった。
驚くアウグスタと伯爵を前にレイは一礼して挨拶する
「ラザフォード家公女レイ・ラザフォードです。今は訳あってテルの、いえ昭輝様の執事を務めております。以後お見知りおきを」
頭を上げるとレイは、未だ呆然とするアウグスタの手を取った。
「男性の目が気になるのでしたら、隣の別室で検査を致しましょう。大丈夫です、酷い事はしませんよ」
衝撃が強かったのかアウグスタは抵抗せずレイに連れられ別室に連れて行かれた。
「失礼いたします」
クラシックメイド姿の女性が大臣室に入ってきた。
肩の部分が少し膨らんだ黒いロングのワンピースに白いフリル付きのエプロンに身を包んでいる。
ちまたのミニスカートのメイドもどきではなく、古風で清楚な出で立ちだが、胸の部分が異常なまでに膨らんでいる為、色っぽく見える。
だがそれ以外、所作を含めておとなしく全体的に慎ましいが、その部分だけが異常に突出して強調される結果となり、アンバランスながらも秀逸な美となっており視線を集める。
整った顔、プラチナブロンドに澄んだ青い瞳。
先ほどまでテルの執事だったレイ・ラザフォードであった。
伯爵の前でのカミングアウト以来、執事服を脱ぎ捨て、メイド服で歩いている。
「女性だったのか」
テルほどではないが士官学校以来、長い時間一緒にいたオスカーは驚いていた。
「訳あってこれまで昭輝様の執事として仕えるべく男として生活しておりました。これまで謀っていたことをどうかお許しください」
「あ、ああ、別に構わない」
レイの美しい笑顔に魅了されたオスカーは思わず頷いてしまった。
人を魅了し言うことを聞かせてしまうカリスマ性がある。さすが大政治家の息子いや娘だと思った。
そして、レイは、テルの方へ向きを変えて言った。
「検査の結果、アウグスタさんは生娘でした」
名家のメイドに相応しい気品に溢れた笑みで検査結果を喜々としてレイはテルに話した。
「ああ、そうかい」
テルはウンザリした表情で聞いていた。
「食べますか?」
「食べないよ!」
「今からならテルの好みに調教して、今夜寝室に送り込んでおけますが」
「するな!」
「大臣室で公爵の娘に自分の娘が孕まされたとか事実無根な事を叫んだのですから、犯罪者の娘として好きなように出来ますが」
「しない! この件は不問にする。まあ、伯爵との取引材料には出来るが、それ以上の事はしない。基本非公表で。テレポーター設置が上手くいくようにするんだ」
処女は破られていないと言っていたが、どうせそれ以外の事をしたに違いない。
同性だからと言って強姦罪が適用されないとでも思っているのだろうか。
いや、襲われたように弄り回し、伯爵を逆上させ強姦だと叫ばせるためにさせたのだろう。
「分かりました。では、私は用事がございますので失礼させていただきます」
素直にレイはテルの言うことを聞いた。初めから取引材料にするために計画していたのだろう。同時にテルを弄るためのネタとしてやっているに違いない。
レイは一礼して部屋を去った。
ドアが閉まってからオスカーはテルに尋ねた。
「レイが女だと知っていたのか?」
「ああ」
テルは渋々オスカーの質問を肯定した。
最初から男子として父親である昭弥から紹介され、テルはその言葉を信じて年齢が近いこともあり、自分の執事だが同性の友達として過ごした。
女だったと知ったのはかなり後で、強烈な衝撃を受けた。
「どうして黙っていたんだ?」
「姉様達にばれるとレイが殺される」
皇位継承がほぼ確実と見なされているテルを狙っている異母姉妹は多い。
元からテルに行為を抱いていたこともあるが、テルに近づく女性を無条件に敵意を向けるほどだ。
テルの家に使用人が少ない理由の一つに女性使用人がテルを誘惑していると騒ぐため、定着しないという理由があった。
レイが男として執事を務めていた理由の一つが、異母姉妹による嫉妬や、いびりを防ぐためである。
「今は大丈夫なのか?」
「ダメだ、すでに姉さん達は知っている。早速、姉さん達がレイを呼び出した。下がったのは姉さん達の査問を受けに向かっていったところだ」
「……大丈夫なのか」
「全然。姉さん達は宮内省と枢密院にレイの身柄と処断を自分たちで行うことを上申して認められた」
「無罪放免にしてくれるよな」
「宝剣や魔術陣、兵器類を査問の部屋に持ち込んでいた。本気だよ」
「止められないか」
「もう手遅れだ。畜生……」
テルは陰鬱なため息を吐きながらつぶやく。
「……レイを殺し損なったな」
「……え?」
テルの物騒な言葉にオスカーは戸惑った。
「どうしてお前がレイを殺すんだ。姉たちに殺されるんじゃないのか」
「その方がまだましだ。すんなりいけばね。最初は姉さん達に骨も残さず殺されると思った。だが、その現場が全然想像できないだよね」
何時も飄々としたレイが殺される場面など冗談にしか思えなかった。
何食わぬ顔で出てくるとしか思えない。
「それどころか、酷い状況になりそうだ。レイが殺される光景なんて今、改めて考えてみても想像できない。むしろ飄々と生き残ってさらに悪辣ないたずらを仕掛けてきそうだ。殺しておいた方が確実だ」
「なのにどうして殺さない」
「さすがに長年の友人を殺すなんて出来ないよ。しかも優秀なんだよね」
テルはため息を吐きながら言う。
「何度も殺意を抱いているけどね」
「まあ、そうだろうな」
これまでのレイの事を思うとよくテルは耐えたと思うし、レイが殺されるなんて想像できない。何のかんのと言いくるめて生き残りそうだ。
「だとしても何でレイはあんなに冷静でいられるんだ」
処刑台に送られる囚人と同じ立場なのに、回避できると知っていても、万が一しくじったら命を失う。
それなのに散歩に行くかのように足取り軽やかに部屋を出て行った。
「あれがレイなんだよ」
「ああ、そうだな」
諦めきったテルの呟きにオスカーは納得した。
処刑台も同然の場所へ足取り軽く赴くレイの胆力にオスカーは驚くと共に、帰ってきた後テルが受けるであろうレイからの悪戯、先ほどの検査結果の報告以上の事が起きる事を思うとテルに対して同情心がオスカーの中に生まれてくる。
続きは
https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700427571519017
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