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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
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テレポーターの衝撃

「なんてことだ!」


 組織に加わっているメンバー、アミリウス伯爵は大声で叫び頭を抱えていた。

 国鉄へ再統合され、経営陣のポストが激減。

 さらに、度重なる事故で回収費用を捻出するために、無能な人間や不要なポストが削減されて組織の人間が激減していた。


「よりによって鉄道が不要になるテレポーターの導入だと! しかも鉄道廃止を受け入れるなんて!」


 そこへ、食い扶持となる鉄道自体が無くなるテレポーターへの移行宣言。

 最初こそ眉唾な発明かと思われていたが、アルカディア~チェニス間のテレポーターが稼働し実用実験が行われ、安定した運用が行われ実用可能とされた。

 その報告結果を受けて鉄道界に衝撃が走った。

 長距離運転の主役である鉄道よりも優れた移動手段、特に鉄道や施設の維持費が不要になるという結果だった。

 タダでさえ少なくなった組織の権益が無くなってしまう。


「ジャネットめ碌でもない発明をしおって。車両も線路も不要だと! どこから利益を上げろというのだ!」


 鉄道は運行するだけでも車両の製造、検査、保線などで多大な維持費がかかる――金が動くため、利権にしやすい。

 それらが、テレポーターにより保線や車両の維持費が不要となり、食い扶持が無くなってしまう。

 だから伯爵は自分達が生き残るために何が出来るか、と必死に考えた。


「ええい、青二才の大臣め! テレポーターなどと言う怪しげな発明品で我々の利権をズタズタにして、若いくせに……」


 そこでアミリウスは、閃くものがあった。

 大臣はまだ独身であり、結婚するという話も聞いていない。


「……若く独身ならば結婚して縁戚関係になれば良い」


 幸運なことに、自分にはほぼ同年齢の娘アウグスタがいる。


「ラケル! ラケルはいるか!」

「何でしょうか」


 入ってきたのはスーツを着た鋭利な刃物を思わせる女性だった。

 鉄道省に関する情報提供者であり、組織に質の高い情報をもたらしている。時に政府中枢の情報をもたらしてくる事もあり、重用されている。

 その功績により最近は組織の中枢に進出してきている。

 だから鉄道省に関する情報の確かさでは彼女以上の人間はいない。


「大臣の予定は? 晩餐会や夜会に出席する予定はあるか」


 焦った様子でアミリウスは尋ねる。

 晩餐会や夜会は、上流階級の情報交換の場であるほか、お見合いの席として使われることが多い。

 大臣と娘を会わせるには、好都合なイベントだ。


「残念ながら大臣は帝都では殆ど晩餐会や夜会に出席されることは、ほぼありません」


 現在、テルはテレポーター設置の為に帝国各地を駆け回っている。

 仕事の殆どが地方への出張が多く帝都にいること自体が少ない。

 だから帝都で行われる晩餐会などに出席することは希だった。


「新帝都での晩餐会に出席するのは希です」


 地方での晩餐会は積極的に出ているが、地元の有力者と出会うのが主だ。

 何の関係も無い地方へ行き無理矢理参加するのは少し違和感があり、あまりにも唐突すぎて警戒されてしまうだろう。


「何とか、ここ新帝都で行われる晩餐会に私と娘が出席できるようにするんだ。多少日時が先でも、強引な手を使っても構わない。どうにかして参加できるように考えるんだ」

「分かりました。すぐに手配いたしましょう」

「ただ出席するのではないぞ。娘がアウグスタが目にとまるようにするのだ」

「必ずや。アウグスタお嬢様が大臣と出会える環境をお作りいたします」


 ラケルは恭しく頭を下げて言った。

 そのためラケルが口元に薄ら笑いを浮かべている事にアミリウスは気がつかなかった。




「何で晩餐会に行かなければならないんだ」


 車の中でテルは不満そうに言う。

 テレポーター設置の為にテルに優雅に晩餐会に参加している余裕などない。


「文句を言わないでください」


 レイは姿勢を正してテルに言う。

 少し小柄でスレンダーなボディだが、軍隊で鍛えただけあって、威厳に満ちている。

 その姿が、テルには少し、しゃくに障る。


「テレポーター設置のために多くの人と会う必要があります。ご理解ください」


 帝都でのパイプ作り、付き合い――テレポーターの設置箇所の所有者や資金を出してくれる資本家、債権を売ってくれる銀行家などが主催する晩餐会には参加しなければならないので出ていた。


「けど主催する必要があるのか」

「仕方ありません。大勢を味方にするのは必要な事です」


 晩餐会は社交の場だが自分の考え方や状況をアピールし、相手に理解して貰う場でもある。

 元老院で演説しても誰も聞いてくれない。大勢に向けて話しているので相手は自分に向かって話してくれているとは思わない。

 大勢でも会話の時に一対一の関係になる晩餐会で多くの人と出会い話し、味方を多く作るのも目的だった。


「だが、急すぎないか。ほんの二日前に晩餐会を行おうと言い出すなんて」

「それだけ、テレポーター導入の影響は大きいと言うことです。直ちに味方を増やしませんと」

「何か裏が有るんじゃ無いだろうな」

「私が何か、隠し事や裏で隠し事をしていると?」


 レイは心外だとばかりにテルに言う。


「執事としてテル様にお仕えし、友人として、戦友として、男らしく正々堂々と何一つ隠すこと無く付き合ってきた僕を疑うのかい」


 執事としてでだけではなく、戦場でも互いに命を預けた間柄だ。

 背中合わせに眠ったことも、互いに瀬を預けた事もある。

 それらが嘘なのか、とレイは目でテルに訴えかけた。


「……もういい。兎に角向かうよ」


 テルはウンザリした表情で言うと席に深く身体を預け目的地に着くのを待った。


続きは


https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700427570791031


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