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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
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テレポーターと鉄道

 かつてテル達の母親のユリアが修めるルテティア王国は帝国の敷設する鉄道により物流を抑えられ、滅亡寸前にまで追い込まれた。

 それを解消しようとルテティア王国宮廷魔術師のジャネットは、鉄道を使わずとも一瞬で遠隔地へ行ける転移装置テレポーターの製作に乗り出した。

 しかし、開発に失敗し、テレポーターは異世界、地球につながり玉川昭弥、テルの父親を引っ張り込んできただけだった。

 だがテレポーターによって現れた昭弥が行った、天地がひっくり返るほどの改革により、鉄道産業をルテティア王国に興し、経済を跳躍させ類い希に見る発展を遂げた。

 やがてユリアがリグニア帝国皇帝になった事でリグニア帝国の鉄道大臣として帝国でも鉄道の発展に寄与、帝国は史上最高の経済発展を遂げた。

 ジャネットの作ったテレポーターは失敗作だったが、ある意味、帝国を発展させ昭弥に天職を与えた素晴らしい発明とは言えた。

 それがテルの妹たちによって完璧に作動するように改良され、完成されてしまった。


「本物ですね。現在のところ特に不具合は報告されていません」


 テルが鉄道安全研究所に命じて行ったテレポーターの検証実験報告をレイが伝えた。

 鉄道は安全が最優先であり、一寸した不具合も許されない。だから安全性を検証するための研究所が設けられており、車両は勿論、装備や設備に関しても安全かどうか確かめていた。

 鉄道安全研究所はその中でもトップクラスで、此処に任せれば安全性の確認は完璧だ。

 彼らは与えられたテレポーターを使い様々なシチュエーション、単独は勿論、大人数でも使用できるか、連続使用可能か、暑さ寒さに強いか、などだ。

 特に心配したのが、事故が起きないかどうかだ。

 転送時にミスして異物や他の人と交ざったり、身体の裏と表が反転しないか、ヒューマンエラーが起きて誤作動しそうな時でも作動停止するか確認していた。

 昭弥ならハエ男恐怖症と名付けるだろう事をテルも恐れていた。

 だから鉄道安全研究所で、思いつく限りのテスト項目を設定させて、実用試験を行わせたのだが、今のところ大きな不具合は無かった。


「……で? 設置に掛かる費用、運用に掛かる経費は?」


 テルは静かに尋ねた。安全性が確認され実用化できるとなれば、あとはコスト、経営上の問題だけだった。


「多大な魔力を必要としていますが、電力から魔力へ変換する素子がありますから問題ないでしょう。設置に高度な術者が必要ですが、いずれ魔方陣に印刷を行えば手軽に出来ます」

「……鉄道と比較してどうだ?」


 言葉に詰まりながらテルは、一番重要な部分を尋ねた。


「圧倒的に安いですね。特にコストの面が。各所に魔方陣を設置し、それを維持運営するだけで間には何もいりませんから。線路を必要とする鉄道より安く鳴るのは当然です」


 レイの報告にテルは同意した。

 鉄道で多大な負担となるのは線路の維持、保線だ。

 国鉄だけで何十万キロもある路線を維持するには天文学的費用がかかる。

 かといって保線を止めれば、安全が確保できない。

 レールは列車が通っただけで少しずつ幅が広がったり、ガタガタになっていくのだ。

 定期的に点検して修正しないと、線路がガタガタになり速度を出せなくなり、最悪脱線してしまう。

 保線が行われなくなってレールがゆがみ速度が出せず、舗装された道路を走る自動車に負ける路線が辺境の私鉄を中心に出てきている。

 鉄道を運営する上で保線の予算を削ることは出来ないのだ。

 だが、テレポーターが出来るとどうなるか。

 線路を作る必要が無いので、建設経費、土地の収用費が掛からないので安く済む。

 その後の運営、維持も線路が無いので簡単だ。

 鉄道と言うより空港と航空機の関係に近い。

 空港にたどり着いてテレポーターをくぐったら目的の街の空港に行っていました、という状況だ。

 しかも航空機のように滑走路は不要。航空機がまき散らす騒音も無いため、都市の中心部に設置可能なのがテレポーターであり、この部分は新幹線の長所と完全にかぶる。


「このテレポーターは歴史に残る発明品だよ。世界が変わる」


 テルは妹たちの発明品の真価を正しく認識していた。


「それで鉄道はどうなりますか?」


 テレポーターをとるか鉄道をとるか、レイが尋ねてきてテルは沈痛な面持ちで黙り込む。

 レイの指摘は正しく、テルが一番頭を悩ませているのはその点だ。


「線路も車両も全て不要になる」


 テレポーターが実用化されて全ての都市にテレポーターが配置すれば鉄道、航空機を問わず長距離路線は全て廃止になって仕舞う。

 旅客も貨物もテレポーターで一瞬にして移動できるので旅客列車も貨物列車も不要。

 特に人の移動が多い幹線の利用者が大きく減る。

 幹線で儲けて地方線を維持する鉄道は大打撃になる。

 国家の大動脈は鉄道からテレポーターへ移り、鉄道は不要になる。


「鉄道に関わる方々は」

「全員失業だね」


 収入は激減し鉄道を支えていた人々、鉄道で生活していた人々は失業することになる。

帝国中に鉄道網を敷いている国鉄だけでは無い、もしテレポーターの設置が進み、都市の各所に設けられたら、都市の鉄道も全て打撃を受ける事になる。

 国鉄だけでも百万の職員がいるのに、その倍以上いる私鉄の社員も失業することになる。


「いっそのこと発明を無かったことにするか?」


 話を聞いていたオスカーがささやく。


「無理だ。一度発明されたものはどんなことをしてもいずれ広がる。隠しても時間稼ぎにしかならない。それに」

「それに?」

「ジャネットが絶対に売り込む」

「すでに水面下で売り込みを図っているようです」


 レイが枢密警察――皇帝直属の警察組織の報告を伝えた。

 一部の資本家にテレポーターの売り込みを図っている。

 ジャネットの知名度いや悪名が高いため乗り気になった者はいないが、一角戦記を夢見る人間が買い取り普及させる恐れがある。


「どうしますか?」


 レイはテルに静かに尋ねた。

 数分間、テルは沈黙した後、呟いた。


「テレポーターを国鉄が買い取る。そして各駅にテレポーターを設置。テレポーターを中心とした交通網に移行。鉄道は……」


 テルは一呼吸置いてから言った。


「一部を除いて廃止する」

続きは


https://kakuyomu.jp/works/16816452220020846894/episodes/16816700427545446260


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