テルの双子の妹という嵐、もしくは爆弾
その日は唐突にやってきた。
テルはいつものように鉄道省の大臣室に入り、決裁書類を処理していた。
『お兄様!』
そこへ顔立ちのよく似た金髪と黒髪の少女が勢いよく入ってきてステレオで話しかけてきた。
「カエソニア、アントニア」
テルと同じくユリアを母に持つ双子の妹達だ。
「最近、全然会ってくださらないではないですか」
「私たちは家族なのに」
口々にテルへの不満を二人は言う。
「そうは言っても仕事だからね」
テルが大臣に就任してから宮殿と鉄道省の往復が殆どとなり、家族に会う時間が殆ど無いのも事実だった。
「昔はあんなにも一緒に遊んでくれましたのに」
「また昔のように遊んでください」
三人の父親である昭弥が鉄道にかかりきり、特に二人の場合は生まれる前後でチェニス田園都市鉄道の経営で忙しかったこともあり、父親と会っていた思い出は少ない。
そのため、テルが父親代わりをしていたこともあった。
「そうは言っても忙しくて」
「そんなことはないでしょう」
「聞きましたよエリッサ様と一緒に婚前旅行をしたと」
「ぶっ」
婚前旅行という言葉にテルは噴いた。
「何処でそんなことを」
「風の噂です。家族の間にはまだ聞かれておりません」
「でも私たちが姉上達に話したらどうなるか」
テルは表情を変えなかった。
恐怖で表情が凍り付いてしまったのだ。
二人だけでなく腹違いを含めテルが父親代わりとなった兄弟姉妹は多い。
そして、テルに対して兄弟以上の思いを抱く者が少なくない。
おまけにクラウディアのように勇者の力を持っていたり、片親が獣人のため人間以上の能力を発揮する兄弟姉妹もいる。
だから、テルを巡って争いが、それも内戦同様の争いが起きている。
おままごとで、誰々と結婚する、と言ってしまって五分後に魔法と剣が吹き荒れる戦場になったことさえある。
人里離れた離宮で暮らしているのも、警備上の理由では無く、いつも喧嘩などで建物が吹き飛ぶからだ。
テルが異様に冷静なのは、いつも建物が吹き飛ぶのを見て、後始末や対処を幼い頃から毎秋繰り返してきたからであり、建築に詳しかったのは建物を作るのを見てきたからだし、列車の運転が異様に上手いのは、建築資材を運ぶ列車を運転してきたからである。
そしていつも計画がほぼプラン通り進むのは、争いが起きないよう前もって様々な調整を行うからだ。
「それで何か?」
だから新たな火種とならないように二人の話を聞くことにした。
「お兄様、鉄道で大変ですね」
「まあね」
「お陰で私たちと会う時間も減っています」
「やることが多いから」
「はい、ですから私たちお兄様のために役に立つ物を作り上げました」
言われてテルは背筋に冷や汗が流れた。
二人は天才で、半導体集積回路、原子炉、超電導技術を作り上げ、父親である昭弥からも激賞されている。
そのため、二人には自由な研究環境が与えられている。
しかし百のアイディアの内、実現できるのは十、成功は一有るか無いか、という世界。
その偉大な晴名の裏には様々な失敗があった。
彼女たちが起こす事件、事故による爆発はほぼ毎週。
例えば、クラウディアよりテルの方が皇帝にはふさわしいと思って、皇帝にふさわしい偉業を達成させようと人類初の月着陸を計画したが巨大な大砲の砲弾に乗せて撃ち込むという方法だったため、危うくつぶれかけたことがあった。
あるときは、テルに力を与えようと巨大なロボットを作ったが巨大すぎて動いたらその土地はぺんぺん草も生えないほど踏みしめられてしまうので、テルの手で動かす前にスクラップ場へ送られた――ただし手違いからか他の場所へ送られて事件を起こしてしまった。
あるときは廃油を分解するバクテリアを作ろうとして石油化学繊維を分解してしまう品種が出来てしまい、離宮で大繁殖して裸族大祭となったりなど、碌な事がない。
どれも碌でもない話だが表に出ないのはテルが上手くもみ消しているからだった。
その後始末にテルは頭を悩ましていたが、お陰で調整能力がついて鉄道大臣の仕事を大過なく務めている。
しかし二人が頭痛の種、ある種の爆弾である事は事実であり、しかも日々威力を増している。
今度はどんな爆弾かテルは不安だった。
「なので鉄道が無くなれば」
「お兄様のお仕事は無くなるはずです」
「めちゃくちゃな言葉だね」
ステレオの二人の話を聞きながらテルはおもわず突っ込む。
鉄道の仕事で家にいないのなら鉄道をなくしてしまえなど、確かに確実だが暴論と言うべきだろう。
鉄道はリグニア帝国を史上空前の発展に導いた原動力であり、国家の大動脈である。
鉄道が無くなれば帝国は瓦解する、人類社会は崩壊すると言っても過言ではないほどに密接になっている。
それも三人の父親である昭弥が作り上げた結果だった。
鉄道が無くなるなど考えられないことだ。
だが、テルは笑えなかった。
二人が、規格外の存在である事を短い人生の中でよく知っているからだ。
例えば彼女たちが開発した自動改札機は、改札員の数を大幅に減らした。
そのために怨嗟の声が出ていたが、乗客の処理数増加と、著しい効率の向上によって正当とされた。
当時、見習い駅員として入ったテルは、その不満を直接耳にした。
それでも、妹たちのことであるし仕方ないと思っている。
当時導入されたばかりで切符を運ぶ内部のベルトコンベアが外れやすく、兄として自動改札機を近くで見ていたテルは故障した時、すぐに呼ばれて復旧するのに重宝されたが。
もっとも、直後にICカード型を妹たちが開発導入したため、ベルトコンベアの故障さえほぼ皆無にしてしまい、テルの活躍の場は無くなり、仕事が無くなる悲しみをテルは味わっていた。
だからこそ、この二人が恐ろしかった。
そして二人は、その時の役に立つ発明品を作り出した時の笑みを浮かべてテルに話した。
「はい、そこで私たちはお師匠様であるジャネット先生と一緒に発明しました」
「先生がかつて作り出そうとした誰でも使える次元接続装置テレポーターです」
二人の言葉にテルは凍り付いた。
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https://kakuyomu.jp/works/16816452220020846894/episodes/16816700427545368774
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