登山モノレール
「おお、なんか雰囲気が違うね」
モノレールの乗り場に降り立ってエリッサは簡単の声を上げた。
「何というか安心感がある。路面電車みたいだ」
「電車と比べてレールがない分、床を低い位置に設定できますからね」
懸垂式モノレールは構造上、車体の上に台車を乗せているため、車体下部は床のみと言って良い。
そのため、車体下部のスペースが不要なため、すぐに床に出来るので、転落しても安心だ。
ただ、降りやすいためお客様が侵入しないように気をつけないといけないが。
「早速乗ろうよ」
エリッサは二人と一緒に乗り込む。
「意外と窓が大きいな」
「高いところを進みますし、景観がよろしいので大型の窓にしました」
説明している間に発車ベルが鳴って、モノレールは進み始めた。
タイヤ走行のため勢いよく加速していく。
すぐに傾斜区間に入ったが、加速を緩めること無く、ぐいぐいと坂道を登っていく。
「結構乗り心地いいね。それに景色もかなり良い」
「道路の上を通るので、視線が高くなるので景色が良いんですよ」
道路より高い位置を通るので当然のことながら景色が良い。
おかげでバスや自動車よりモノレールの方が人気だった。
「軌道桁や軌道桁を吊り上げておく支柱が気になったけど、大丈夫そうだね」
モノレールのレールである軌道桁と支柱は意外と目立つ。
通常、都市では白く塗られている。
自然界で白い物体など雪か石灰岩くらいしか無いため、非常に目立つ。
緑が美しい山々の中で一本のモノレールが通るのは目立つし景観を損なってしまう。
「一応、迷彩柄とか塗りを努力しました」
そこでテルは、支柱や軌道桁の塗装として軍隊で使われている迷彩柄を採用した。
黒や緑、茶色、赤などの色をまだらに塗ることで目立ちにくくしている。
さすがに全てを隠すことは無理だし全ての季節――白一色になってしまう冬ではむしろ余計に目立ってしまうが、景観を損ねない程度に隠れていた。
「まあ、それは良かったよ綺麗な景色が台無しになるのは避けたい。しかし驚いたね。まさか建設であんなことをしているとは」
工事期間中に視察したときの事をエリッサは思い出した。
夜間通行止めにして行われている作業は壮観だった。
巨大なモノレールのレールとなる軌道桁が運び込まれクレーンで吊り上げられ、空中に架設されていく。
目的の位置に設置されると待機していた作業員が、ボルトで固定していく。
ほんの十数分で全ての作業を終えた。
「意外と短時間だったね」
「軌道桁とかは全て工場で作りますから」
工場で予め作り現場で組み立てるのが普通だ。現場で一から作るより建設期間が非常に短時間で終わる。
夜間通行止めを毎日行いながらも夜間に全て作業を終えて、昼間は通行可能にすることが出来るのだ。
「でも、凄いのは、クレーンの移動なんだよね」
軌道桁の取り付け作業が終わるとクレーンのアームが、もう一つのクレーンの真上にやってきてフックが降ろされ、クレーンの本体の接続部に引っかけられた。
そして、クレーンが設置されている支柱から外され、宙吊りにされると、そのまま水平に移動し、予め設置されていた支柱へ取り付けられた。
同じように作業員がボルトで固定を行い動力ケーブルが接続され、稼働準備が整う。
「まさか、クレーンをクレーンが移動させるなんて思わなかったよ」
モノレールは支柱を使って支えられる。
その支柱を建設用のクレーンでも使えば効率が良いしクレーン車を改めて持ってくるより良くないか。
ついでにアームを支柱間より長くしてクレーンで移動させられるようにすれば、楽だよね。
という発想を思い浮かべたテルが実現した方法だった。
北国で建設が盛んになった理由の一つが、この手軽に出来る建設方法が編み出されたからだ。建設期間が短いと言うことは工事費の節約、利益の出ない工事期間が短縮され開業が早まり、収入が得やすくなるということだ。
支柱の設置は従来通り時間がかかるが、それからの作業が大幅に短縮される。
「あっという間に二十メートルほど建設できてしまうんだからたまげるよ」
一晩で一区画を建設するのが限界だが、効率は良い。
しかし、道路の端や途中からも建設しており合計四箇所で作業が行われている。
作業開始と共に四箇所へ軌道桁がトレーラーで順繰りに運び込まれ、それぞれの箇所で吊り上げる。作業が終わればトレーラーは道を下っていき、交通規制が解除され次の夜までに軌道桁を再び持ち込めば良い。
こうして一晩で八十メートルが作られている。
全長八キロほどの区間だが最短で一〇〇日ほど。
支柱の設置、駅の建築、天候による作業中断などもあるが一年足らずで全線が建設できる。
試運転などの検査を含め二年以内に開業できてしまった。
「まさか道路の上にモノレールを走らせるなんて」
「交通量がパンクしているなら、新たに上に交通手段を設ければ良いだけですから簡単でしたよ」
「確かにね。でも、よく道路の上にモノレールを敷くことを道路局が許したね」
鉄道省と内務省、特に道路局は鉄道とライバル関係にあるために犬猿の仲だ。
交通渋滞解消のためにモノレールを道路の上に作るのを簡単に許したのがエリッサには不思議だった。
「ああ、交通渋滞の解消に周辺道路の有料化を提案して法案を通すのを手伝ってやったんです。道路予算が最近減っていたので新たな財源が欲しかったようで、モノレールと交換条件に法案を通しました」
周辺道路を有料化、それもマイカーの通行量がこれまでに比べて高い値段設定になっている。
人を輸送効率の高いバスを相対的に低く――乗客一人当たりの料金が低くなるように設定して渋滞を解消していた。
「でも、近隣住人はかなり不便じゃ」
「住民票と駐車登録をセットで役場で提出することで無料通行許可書が出るようにしました。生活物資輸送のトラックなどにも発行しているので問題ありません」
「さすがだね」
「まあ、道路局も渋滞解消に頭を悩ましていましたからね。新たな車線を作る余裕も道路を作る余裕もありませんから。飛びついてくれましたよ」
モノレールが出来た理由が、地上が密集しすぎて線路を敷設できない都市が、川の上を走れる車両を作り出したためだ。
元々、岩石がレールの上に転がり、車輪とレールの間に挟まるのを嫌がった鉱山の人々が天井にレールを作りでこぼこがあっても思い台車を軽々と輸送できるようにするため、普及していたことも大きい。
それを発展させて近代化しまったのは昭弥のもたらした技術だが、それを十全に活用してしまうテルも凄かった。
モノレールは坂道の区間を登り切ると、湖の湖畔にまで到達した。
湖上周辺は低層のホテルが建ち並び、その先に青い湖と、囲うように外輪山の山々が見える。
「おおおっ高いところから見るとやはり景色が映えるね」
「景観は気を遣いましたから」
せっかくの景色なのでモノレールから見える景観を大事にしていた。
モノレールは道路の上をすいすい進み、やがて置くの神殿近くの駅に到着した。
「さあ、此処で終着です。ご乗車お疲れ様でした」
テルはそう言って二人を案内する。
頭端式のホームの先にある改札を抜けて更に先へ。スカイウォークを進み、神殿の前へ行く。
「やはり人が多いね」
神殿の前は信者や観光客で一杯だった。
「ま、前より人が多くなっているよ」
「そうなのかい? ああ、僕の神殿も昔は人がいなくて閑古鳥が鳴いていたっけ」
遠い昔を思い出しながらエリッサは呟いた。
「けど昭弥のお陰で助かった。越して二代にわたって助けてもらえるのは本当に嬉しいよ」
「これが仕事ですから」
テルは気負いなく答えた。
プロジェクトが終了ししかも喜ばしい結果、大勢の人に喜んでもらえたのが嬉しかった。
続きは
https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700427399991789
で読めます




