誰が運営する
「いきなり急ブレーキがかかったな」
鉄道省でテルが立案し提出したテーヌの新線建設が審議されていた時のことだ。
鉄道大臣とはいえ、審議会で計画に問題が無いか確認するのは決まりだ。
先代の昭弥も、線形が良いからと一直線の路線を計画したが、実は泥炭地で建設中も線路が沈んで行ってしまったという事例があった。
だから多角的な視点から鉄道建設が妥当か審議する審議会で調べてから建設するのが通常だ。
むしろ建設前に問題が分かり対処できれば、完成後に起きる問題が小さくなり対応できるからだ。
基本的に審議会は公開され、帝国民なら知ることが出来る。
その審議会が行われている時、早速問題が生じた、いや向こうからやってきた。
「国鉄と私鉄から建設申し込みが出てくるとはね」
近年急速に観光客数が多くなっているテーヌ神殿周辺の新線建設。
その線路は多大な利益をもたらすことが予想されている。
周辺開発が行われるなら更に恒常的に利益がもたらされる。
鉄道省が計画したのなら国から補助金が出る。
鉄道建設を促進するために、ネックとなる初期費用を国が低利で支出してくれる制度が揃っている。
経営が軌道に乗れば返済する事になるが、赤字の場合は返済が猶予されたり免除されたりする。
非常に魅力的な制度であった。
ヨブ・ロビンの時代に悪用されたりしたが、概ね便利なので今の時代も残っていた。
今度建設される路線は旨味のある魅力的な路線であり、国鉄も私鉄も欲しがっていた。
完成後の利権を巡り、どちらが建設するかでもめていたのだ。
「それでテーヌはどちらが良いんだい」
困り顔でオロオロしているテーヌに代わり、エリッサが答えた。
「沿線に信者が多くこれまで多大な援助をしてくれた私鉄に入って貰いたい。だけど近年訪れる観光客の多くは国鉄からのお客さんだから、国鉄をないがしろにも出来ない」
「でしょうね」
沿線開発に力を入れている私鉄は、運賃収入を増やすためにテーヌ神殿へ行こうとキャンペーンを張ってくれているし、普段から信者が隣の町などへ行くときに利用させて貰っている。
一方、国鉄も沿線開発を行っているが、全国的な路線網を作るために私鉄ほど力を入れていない。沿線開発も行っているが、長距離重視で所要時間短縮のため駅間が長く、沿線への配慮は少ない。
だが、全国的なネットワークを利用して遠隔地からの旅行者を連れてきてくれていた。
新幹線の乗り入れは勿論、豪華寝台列車によるツアー列車を送ってくれるのでネブラを訪問して高額な食事をしたり、お土産を買ってくれる上客を連れてきてくれている。
どちらも切り捨てる事は出来ない。
だが、誰かが線路を建設し保有しなければならない。
どちらも今後のテーヌ神殿に必要となるのならば尚更悩む。
どちらかに認めたとしても、もう一方にしこりを残すからだ。
「第三セクターを作るか」
「第三セクター?」
「国や市町村そして民間が一緒に出資して作る会社だよ」
組織の分類が、国や市町村などの公共組織を第一セクター、民間企業などの営利企業を第二セクターと分けていた。
そして公私混同を避けるため、二つは明確に分けることにされていた。
しかし機能が複雑化した社会では、特に巨大なインフラである鉄道を維持するには固定資産税の支払いなど不都合が出てきた。
そこで新たに公共組織と民間が資金や土地などの資本を提供して共同運営する第三セクターを作る動きが盛んになった。
一般に私鉄では建設維持が難しい場合に地域の公共交通機関の維持のために設立される。
「国鉄、市町村、私鉄、神殿が資金、土地、人員を出して第三セクターの新会社を設立。建設を行い、運営する。国鉄と私鉄は同じ本数を乗り入れる。第三セクターは駅ナカや周辺開発で収入を得るんだ」
「複雑だね。大丈夫なのかい?」
「一寸特殊だけど、後腐れが無いと思うよ」
「けど、納得するのかな? 儲けを全て手に入れられないだろう」
「コストがかからないから喜ぶはずだよ。利益だけが手に入るんだから納得するよ」
鉄道で多大な費用がかかるのは、維持費だ。
保線や固定資産税の支払いなどは無視できない。
「第三セクターならそんなコストを支払わずに済む。相互乗り入れするからむしろ、自分の路線で収入が増える。増収なら国鉄も私鉄も納得してくれるよ」
相互乗り入れの場合、車両キロ数を合わせるため列車を作り、乗り入れ先に送って車両キロ数を操作視する必要があるのだが些細な問題だ。乗り入れ先も車両数が増えることを喜ぶだろう。
車両開発が出来なくても国鉄で生産されている車両を購入して私鉄や国鉄で橋荒らせれば良い。
「でも鉄道の運営が僕たちにテーヌが出来るかな?」
「鉄道の維持代行サービス会社があるから大丈夫だよ」
鉄道の維持でネックになるのが資金と人だ。
特に特殊な技能、電車を運転する運転士は勿論、保線の作業員、信号装置の維持を行う技術者、鉄道の物品に詳しい経理関係者など多くの専門技能を持った人間が必要となる。
それを一から育てるのは中小の鉄道事業者には難しい。
そこで、国鉄や大手私鉄は系列や取引先に技術者を送る制度や専門会社を作り出し、支援していた。
「いっそ、国鉄や私鉄に丸投げすればよい」
車両の整備も依頼すれば、国鉄も私鉄も収入が増えるので文句はないだろう。
「あとは、テーヌが認めてくれるかだけど」
振り向くとテーヌは嬉しそうに笑って認めた。
だが、問題は再び起きた。
続きは
https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700427331363947
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