サフェージュ式懸垂モノレール
懸垂式モノレールとはレールの下に、ぶら下がるタイプのモノレールである。
これもランゲン式、上野式、Iビーム式などの種類があり乱立していた。
唯一千葉モノレールや湘南モノレールで使われているサフェージュ式懸垂モノレールはリグニアにおいて北国を中心にテルの後押しもあって設置が進んでいた。
サフェージュ式とは開発したフランスの企業連合体 Société Anonyme Française d'Étude de Gestion et d'Entreprises――日本語でフランス経営経済研究株式会社の頭文字を取って付けられた。
普及した最大の理由は箱の中に走行路と走行装置が収まっているため、外の天候の影響がほぼ皆無である事だ。
開口部が箱の下の一部しか開いていないため、雨風が入ることは困難だ。
よって、よほど激しい吹雪で横からの風が吹き荒れ、内部へ常に風が吹き込まない限り積もることはない。だから積雪で運転停止どころか、スリップさえ希だった。
この点が北国、雪国で懸垂式モノレールの設置が進んでいる理由だった。
「これなら積雪も大丈夫です。それに急カーブにも対応できます」
他の形式に比べて、台車が車体の上にあるため、急カーブでも車体か自然に傾斜して遠心力に合わせてくれるので曲がりやすく、街路を直角に曲がる時も急なカーブにして対応しやすいという長所があった。
当然タイヤ駆動なので坂道に強く、山岳部で使用するにはうってつけのタイプと言えた。
「けれどあんまりモノレールの話を聞かないね」
「……建設費高いですから」
テルはさみしげに答えた。
便利にもかかわらず普及が鉄道より遅れているのは、天井の更に上に台車があるためぶら下がり式の車体が揺れやすいこと。
下の空間、車体、走行桁の上まで支えるための橋桁を高くする必要があり、それに伴い駅施設も高くする必要があり建設費用がかさむからだ。
レールとなる軌道桁の製造にも多大な鉄が必要であり、製造費も嵩んでいる。
「それじゃあ建設費の償還が大変じゃないか」
「ですが、今回は観光路線。多少運賃が高くても大丈夫ですし、他にも予算を手に入れる方法はあります。だから大丈夫です!」
「高い運賃ってどれくらい?」
「一万リラくらいですかね」
「一万リラは高すぎないか?」
テルの提示した金額にエリッサは驚いた。
一万リラだと普通のホテルの一泊料金並みに高い運賃だ。
「こんなものでしょう」
しかしテルは事もなげに言った。
「チェニス周辺の大アルプス山脈の登山鉄道は、往復でそれぐらいの金額はかからいますから」
実際に山の中をくりぬいて作り上げた登山鉄道はそれぐらいの料金を取っている。
終着駅は四〇〇〇メートル近くにあり、一年中雪と氷の閉ざされた駅だ。
お陰で一年中スキーなどのウィンタースポーツが楽しめるので意外と好評で人気である。
晴れた日は眼下の氷河と遠方の山々がよく見えるので観光客もよく訪れる。
一万リラくらいは簡単に払ってくれるので鉄道会社の大きな収入源だ。
日本でも富士山五合目まで登山鉄道を作ろうという計画では往復一万円くらいを目標にしている。
フジスバルラインの四倍の値段だが、登山鉄道の本場であるスイスのユングフラウヨッホは往復で二万円以上かかる。それを考えれば半額で行けるのは格安と言える。
富士五合目が標高二五〇〇メートル、ユングフラウヨッホが三四〇〇メートルと一〇〇〇メートルの標高差があり価格選定が妥当かどうか少し疑問はある。
だが登山や観光を考えれば、高額にしても問題は無いはずだった。
「でも土地は大丈夫なのかい? 山がちで敷設する土地が足りないんじゃ」
エリッサが疑問を抱いてテルに話しかけるが、テルは自信満々に答えた。
「道路の上を通りますから大丈夫です。……父のアイディアですが」
昭弥も懸垂式の利点を理解して進めていた。多少大きな通りであれば十字路でも曲がれるようにしてあり、敷設条件は比較的簡単だ。
急カーブの連続する登山道路でも比較的容易に走らせる事が出来るだろう。
傾斜のキツい住宅街でも利用されており、キツい山岳地帯でも使用可能なはずだった。
長時間の急傾斜にモーターが持つかどうかの不安材料はあるが、冷却器を上手に配置すれば問題ないはずだ。
「敷設にどれくらい時間がかかるんだい?」
「上手に手早くやれる方法があるので大丈夫です」
「それなら早速導入しようか」
エリッサがテーヌに尋ねると、口元を嬉しそうに広げた。
相変わらず前髪で見えなかったが、大きく目を開いて笑っているように見えた。
続きは
https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700427305562145
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