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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第三章 リニア新幹線
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テーヌ神殿の依頼

「おーっすっ! テルくーん!」


 大臣室に元気な声が響いた。

 現れたのは、テルの胸程度の身長しかない少女だった。

 長い後ろ髪をツインテールにし、大きな瞳大きく開け、眉に力の入った活動的な印象を持つ少女だ。


「え、エリッサ様」


 テルの領地であり新帝都の裏玄関であるチェニスの主神にして守護神エリッサだった。

 ヨブ・ロビンによって神殿を奪われてしまったが、テルの父親昭弥がトンネルを付くr為に移転先を訪れたとき、トラブルはあったが、神殿の再建に手を尽くした。

 沿線開発の一環として大神殿に改造しもり立てた結果、復活している。

 さらにチェニス田園都市鉄道の守り神になって貰っており、各種建設事業を行うときは安全祈願に、他の事業でも成功を祈って訪れるのが慣習になっている。

 そのためテルもよく参拝しており顔見知りだ。

 慌てて立ち上がりエリッサの前に行く。

 顔見知りでも神であり、それなりの礼節は必要だった。


「突然訪れないでくださいよ。迎える準備なんて出来ていませんよ」

「あー、気にしないで、今回は僕の私的な訪問なんだ。重要な相談なんだけど……」

「だったら予め言ってくださいっ」


 文句を言おうとしたらエリッサが突如爪先立ちしてテルの顔をのぞき込んだ。


「うーん、大分立派になったね。君のお父さんによく似ているよ」

「そんなにのぞき込まないっっっ」


 最後まで言う前に後ろに引っ張られた。


「エリッサちゃん、いえエリッサ様に不用意に近づかないように」


 エルフの女性がテルの襟を後ろに引っ張った。エリッサの大司教リーナだ。

 エリッサが人間だったことからの知り合いで、神となった後も付き合い続けているが、エリッサへの思いが常軌を逸しており、不用意にエリッサに近づくと殺意を向けてくる。


「適度な距離を保っていますよ」

「そうだよリーナ。僕はテル君の成長を見ていたんだよ」

「エリッサちゃんがそういうなら」


 そう言ってリーナはテルを解放した。


「手荒な事をして済まない。しかし、君が成長して立派に務めを果たしていることに安心している」

「まだ未熟です」

「ははは、何を言っているんだい。確かにお父さんのレベルではないだろうけど、君以上に鉄道大臣を務められる人間など他にいないよ。しかし成長しちゃったな。最後の七五三の時、七歳の時は僕と同じくらいの身長だったのにもうこんなに成長しちゃったよ」


 昭弥がリグニアに持ち込んだ風習の一つが七五三であり、テルもエリッサの神殿で祭事を受けている。

 因みに本来の七五三は男の子が三歳と五歳、女の子が五歳と七歳に行うのだが、七五三の導入にあたって昭弥が田園鉄道とエリッサ神殿の経営事情と商業主義的理由から、男女ともに三歳、五歳、七歳の時、神殿で祝福を受け、親族や親しい人たちと祝福するという形にしてしまった。

 二回の祝い事より三回の方が利用者も多く、その分祭事の費用、神殿までの鉄道利用は勿論、祝福の後の懇親会会場となる系列会社のホールや神殿の使用料が入るからだ。

 他にも飲食代や土産代、記念品の製造販売などで儲ける仕組みを作っていた。

 せこいように思えるが、鉄道事業を発展させるために必要だ。

 儲けるためなら伝統行事も利用するという父親昭弥の執念にテルは呆れつつも感心する。


「それで? ご用件は?」

「ああ、実は僕の知り合い、神様が困ったことになっているんだ。だから君の力を貸して欲しいと思って」

「神様のいざこざは管轄外ですよ」


 ただでさえ鉄道で大変な身なのに神様のいざこざをどうこうする事などできない。


「大丈夫だよ。鉄道関連の事だから。おーい、テーヌ」


 エリッサは、後ろを向いて呼びかけた。

 しかしそこには誰もいない。


「出てくるんだテーヌ。大丈夫だ」


 するとドアの影から顔を半分だけ出して部屋をのぞき込むエリッサと同じくらいの少女がいた。


「は、本当に解決してくれるのか?」

「大丈夫だよ。テル君はしっかりした子だし、鉄道に関しては誰よりも詳しい。これ以上の適任はいないよ」


 鉄道に詳しいと言われるのは、嬉しいテルだったが、持ち上げられすぎている。

 解決不能な事だったらどうなるか不安になる。

 古の英雄達、神から試練を与えられた伝説の勇者達もこんな気持ちだったのだろうか、いや神の無茶ぶりに付き合わされる主人公達か。

 エリッサは神様とは言え顔見知りなので、悪く言いたくないが、相談の内容がテルは心配だった。


「ほら、来るんだよ」


 エリッサはテーヌの手を引っ張り、テルの前に連れてきた。

 連れてこられたのは白い長い髪の持ち主で前髪も長く目の部分も隠れている。

 内気なこともあるのか何処か霧がかったような捕らえにくい少女、いや神様か。


「ちょっと人見知りなんだけど、根は良い子だ。けど、お陰で少し問題を抱えやすくて、相談に乗ってあげて欲しいんだ」

「何があったんでしょう」

「ほら、テーヌ。話してごらん」


 エリッサがテーヌを促すと、彼女は一瞬、顔を上げるがまた伏せてしまう。

 テルは仕方ないとばかりに肩を落とすと、テーヌの近くに向かった。

 テーヌはビクッと身体を震わせるが、テルは脚を曲げてしゃがみ込むとテーヌの目の位置に合わせて尋ねた。


「テーヌ様、少し心配事がおありのようですが、私も少しは解決のお手伝いがしたいのです。なにが合ったかお話になっていただけないでしょうか?」


 話しかけるとテーヌの頬が少し赤くなり、口が嬉しそうに開き、悩み事を語り始めた。


「じ、実は、私の神殿のあるネブラの街なんだけど、人や車が一杯来て、大変なんだ……」


 テーヌはたどたどしく話し始めた。

続きは


https://kakuyomu.jp/works/16816452220020846894/episodes/16816700427191561860


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