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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第三章 リニア新幹線
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バリアフリーの限界

「まあチジンという人、車椅子生活は同情するがやり過ぎだな」


 チジンのインタビュー記事が載っている新聞を広げてオスカーは呟く。


「国鉄がバリアフリーに力を入れているのは知っているけど、そこを無視して、大げさに話しているんだからな」

「一部、放り投げているけどね」

「……え?」


 バリアフリーを一部放り投げているというテルの言葉にオスカーは疑問符を浮かべた。


「いや、結構バリアフリーやっているよな」


 出来るだけ段差が少なく、無理ならスロープのある建物の構造。階の移動にはエレベータを設置。できる限りスムーズな移動が出来るように配慮していた。


「確かにやっているけど障害者のためじゃ無いんだ」

「じゃあ誰のために?」

「他の種族の人々のためにだよ。殆どの種族は人型で人間と変わらないけど、一部の人達、階段が使いにくい人もいるから」


 例えばケンタウロスだと脚がもつれて転倒する可能性があるため階段を使わずに済むようにエレベーターを設置したりしてる。


「他にも段差があると一般の人でも難儀するからね。躓いて事故でも起きたら一大事だラッシュ時に起きたらと思うと冷や汗が出るよ」


 通路の途中に一段あるだけで躓く原因となる。

 一日に何万人もの人が利用する駅でそのような障害があり躓いて転んだりしたら危険だからだ。


「流れを滞らせないようにしているんだよ。一秒でも早く行くようになれば一秒余裕が出来るからね」

「時間に、シビアすぎないか?」

「もし一秒遅延したら、ラッシュのお客さんの一秒を無駄にしてしまう、大都市の一六両編成が満員だとして最大一六両編成で一両当たり二〇〇人で、三二〇〇人。三二〇〇秒の遅れだ。遅延は後続の列車にも波及するから一〇編成として三二〇〇〇人で三二〇〇〇秒。八時間は無駄にしてしまう、一分の遅延ならその六十倍の四八〇時間。普段でもこれくらいは無駄にしてしまう。もし事故が起こって運休になって復旧までに五時間掛かるとして一時間に三〇本走っているから三二〇〇×三〇×五で四八万時間で五十四年相当、運休になったら上下線停止が普通だから、その倍。百年以上だから、僕の寿命を引き換えにしても足りない。相互乗り入れしている路線なら何処まで波及するか見当も付かないよ」

「恐ろしい数字だな、てか、よくそんな数字ぱっと出せるな」

「……鉄道学園に入る前に臨時雇いで駅員やっているとき、先輩から散々言われて脅されたからね」

「入ったばかりの見習いに容赦ないな」

「それだけ重大な職務なんだよ鉄道員は」


 酷な話だが事実であるため、鉄道員はこのプレッシャーの中、仕事をしている。

 上から下まで一丸となって仕事をしているのは互いに事故は勿論、遅延がどれほどお客様に、相互乗り入れしている場合は、遙か遠方のお客様にまで影響をもたらしてしまうからだ。


「それにいろいろな種族の方々か利用されるから対応が大変なんだ」


 エルフ、ドワーフはともかく獣人族をはじめ巨人族、ケンタウロスなど多くの種族が利用するため、彼らの事を考えなければならない。


「上手くいっているんだろう」

「大半は父さんの指導の賜物だけどね」


 昭弥の時代からスロープなどのバリアフリーは行われていた。

 ファンタジー世界のために異種族が利用するためバリアフリーを最初から考えないとダメだった。


「まあやっぱり失敗もあったけどね」

「あったのか」

「ああ、ホームドアで失敗している」


 リグニア国鉄は早い内からホームドアの設置を進めていた。

 だが、途中から導入が中断していた。

 電車の停止位置は運転士の技量向上によって解決し、ホームドアの重量は後日取り付けを前提にホームを予め強化。軽量のホームドアの開発に成功すると、利用者の多い駅を中心に順次取り付けていった。

 だが設置が進むに連れて人身事故が多発するようになる。


「その過程でお客様をホームドアに巻き込んじゃうことが発覚したんだよね」


 扉を閉める時、ホームドア自体が視界の妨げとなり、車掌が安全確認できず閉鎖してしまいホームドアと車体のドアの間に挟まれる、お客様が続出した。

 傘や鞄などを挟まれる人が多かったが、人身事故、獣人族特有のシッポ、特に細いシッポを持つ種族の方々は、細いため視認が難しく、ドアの外にシッポが出ているのを確認するのが難しかった。

 ホームドアによって更に車両側のドアの確認が難しくなり、事故率は急上昇した。

 監視カメラの取り付けも行ったが、到底全てのドアを車掌一人で確認する事は不可能、駅員の補助が付いてもやはりホームドアが邪魔になって確認が不十分になった。

 車両の奥へ進んでくださいと案内をしても次の駅で降りる、降りる時に近いから便利なためドアの近くに止まるお客様が多数いて根絶は不可能だった。

 結局、獣人族の利用者が少ない駅を中心に配備されるに止まり、多様な方々が利用される場所ほど、設置されなかった。


「で、結局、取り外しも行われたんだよね。転落事故防止できるんだけど、挟み込みの被害が増えているんだよね」


 こうした巻き込み事故を防止するためのセンサー類の開発が終わるまでホームドアの設置は見送られることになった。

 他にも車両に扇風機を設置したとき、紛れ込んだピクシーが扇風機の羽根に当たって吹き飛ばされた事故があり、カバーを付けるまで使用を見合わせた事例がある。

 他にも人間を基準に導入したために他の様々な種族で不都合が出てきて、その対処に駆け回ることになったのもリグニアの鉄道の現実だった。


「余計な投資になってしまったよ」

「けど、いずれ導入するんだろ」

「そうだが、お客様から貰った運賃を失敗に使ってしまった。他のサービス向上や運賃値下げのために使った方が有意義だったかもしれない」

「だがそれは後の祭りだろう。それに開発に失敗はつきものであり投資をしなかったらすぐに陳腐化してダメになるんだろう」

「まあ、そうだけどな」


 上手くいくか行かないか分かるのは設置した後だったということも多い。

 数億リラ使って役に立たなかった代物なんて山とある。


「ともかく、障害者に対応しきるのは難しいから、他の方法が無いか探る」

「切り捨てか?」

「収入全てをバリアフリーに回せないからな」


 そういって転倒事故防止のため段差解消工事の書類に決裁印をいれた。


「これは?」

「健常者でも段差があると危険だから段差を無くそうという工事だ。転倒事故があると駅員にいらぬ負担を掛けるから、段差を無くそうという話だ」

「車椅子でも走りやすくなるな。それが狙いか?」

「結果的にね。設備投資を行うとなると巨額の費用が掛かるから、一石二鳥くらい狙わないと。それに障害者だけで無く健常者にもメリットが与えられないと動いてくれないからね」


 テルはにやりと笑いながら言う。


「根はいいよなあお前は」

「それでも回せるのは微々たるものだよ。この程度しか出来ない。チジンが騒がなければもう少し上手くいったんだけどな」

「あんまり気にするなよ」

「そうだな。他にも仕事はあるし、その対処も大変だ。で、その対処はおそらく山ほど起こる失敗となるだろう。あまり気にしてもしょうが無いか。さあ、次の仕事へ向かうか。失敗するかもしれない仕事に」


続きは


https://kakuyomu.jp/works/16816452220020846894/episodes/16816700427168107958


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