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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第三章 リニア新幹線
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鉄道の優先順位

「つまりサービスはついでか?」


 安全確保が第一と断言するテルにオスカーは尋ねる。


「できる限り行っているよ。サービス向上で収入増やすのも鉄道会社では重要だ。けど安全が一番で安全を確保した上でのサービスだ。危険の中へ飛び込みたい人はいないだろう」

「当然だな」


 危険と分かっているのに乗車する人はいないだろう。

 鉄道の安全確保のために鉄道員はいるのだ。

 安全対策が幾重にもなされているが、鉄道は巨大な質量をもった凶器だ。

 その鉄道が安全に運行されるか、確認するのが鉄道員の役目だ。

 お客様対応やサービスは安全が確保出来る範囲で行っているに過ぎない。お客様対応で安全に運転できるようにするために行っている。

 接客を主とする一等車のボーイも、緊急時や事故防止のための行動を第一に求められている。


「それを全然分かっていないんだよ。この人は障害者だから何をしても良いと思っている。互いに理解し合って気を遣おうという考えがチジンにはない。駅員が最優先で自分を応対するのが当然と思っている。安全を確保できないならお断りするのに、それを拒絶とレッテルを貼って非難するのは言語道断だ」


 当日突然ほんの一駅手前の有人駅ではなく無人駅に降り立つ。それが受け入れられないと強引に抗議する。

 人数が集まらないのを理由にしても聞く耳を持たない。

 たった一人のために四人も集まり、かかりきりになり、本来の役目、安全管理を行えないのは本末転倒だ。


「もし、その四人が本来の役目、安全確保を果たせず、彼らがいなくなったために事故が起きたらどうするんだ。どうせ人権派は義務を果たすべき人員を確保しなかった鉄道会社の責任、というだろうな。一時間も抗議したことは忘れて」

「酷い言い草だな」

「だが、事実だろう。人を非難しておいて解決策を出さず、金も出さない。当事者になったら被害者面か知らんぷりだ」

「まあ、確かに人権派はそんな連中だよな」

「連中、無償奉仕して貰うのが当たり前と思っている。お客様から受け取った運賃をなんだと思っているんだ」


 駅員を呼び寄せて働かせるが、その費用は国鉄持ち、他のお客様の運賃から出ている。

 自分のために他人の料金を使うの許されるのか。

 障害があるのは仕方ない、気遣いをしようと思う。だがだからといって特別扱いを行う理由にはならない。

 全ての駅へ自由に降りることが出来ないのは申し訳ないと思う。不便を掛けていると思う。だが、それで特別扱いを強要する理由が、根拠が何処にあるんだ。

 その事を指摘すると誹謗中傷と人権派が主張するのがテルには我慢できない。

 互いにやりたいことがあるしその実現に向かっていくのはよい。

 だが、相手が居て、相手にも事情がある。

 互いに事情を説明して妥協点を見つけて実現していくのが民主主義だろう。


「一方的に要求を突きつけて強要するのは専制政治だ。生まれで行うか、障害を持っているかの違いだけで、人権派のやっていることは独裁者と同じさ。金を出して欲しいよ」



 理想を語りながらそれを実現出来る力も無く、失敗したら世の中が悪いと言う。

 そんな人間など近寄りたくない。

 まして国会で質疑応答の矢面になったテルの精神的負担は非常に重いだろう。

 オスカーは心からテルに同情した。


「でもテルも結局金か、守銭奴だな。金を惜しむんだな」

「オスカー、いま御付武官を務めているけど、国家のためだ無報酬で働くべきだ、と言われたらどうする?」

「絶対に嫌だ」


 ただでさえ御付武官はお偉いさんが周りに来るので肩が凝る。おまけにテルが異様なほど行動力があり付いていくだけでも大変だ。

 それに一応、貴族に列席しているが領地などない。俸給が無くなったら年金付きの勲章のお陰でなんとか食べていける程度の金額しか国家からもらえない。


「そんな事はしたくないよ。オスカーは良い仕事をしてくれている。その見返りを与えられないのであれば、仕事を頼まないよ」

「資本主義か」

「それ以前に、人の仕事を尊重し敬意を抱き、相応しい報酬を渡すことが大事なんだよ。ただで働けなんて言えないよ。その人の仕事を無価値だと言っているようなものだ」

「でも最初は誰も何も出来ないだろう。障害者でも遠くへ行くのに、障害物だらけだと無理だ。エレベーターを付けて欲しいし、出来る前なら補助が必要だ」

「そのための予算を出して欲しいよ。無料奉仕や、国鉄や鉄道会社に負担させるのは止めて欲しい。追加料金を取ることになる」

「平等な権利に反するんじゃ無いのか? 同じ値段で同じサービスが売りだろう」

「そのための費用はお客様の運賃からいただいているんだ。本来なら他のお客様の運賃値下げや他のサービス充実のために使うところを障害者のために使って良いのか、って問題も出てくる」


 何処まで出せば良いのか、出せるのかは会社によって違う。

 全てをバリアフリーに振ることは出来ないから、どこかで妥協する。その境界をどう設定するかが各社ごとの特色だろう。

 だが最優先は安全のための設備投資だ。

 他は後回しになる。サービス向上はそれからだ。

 でないとアテナイ鉄道のような事故が起こる事になる。


「出来る範囲でバリアフリーを鉄道会社は行っている。それ以上を求めるなら国の税金で補助金を出して欲しいよ。チジンには駅員に文句を言うんじゃなくて元老院に言って欲しかったね。まあ国も財政難で出しにくい、けど、バリアフリーに何処まで出すか国民の合意を得たほうが出しやすいし、本来ならそうあるべきだ」

「確かにな」


 元老院につてのあるチジンなら、議員への働きかけを求めるべきだっただろう。

 なのに駅員に難癖を付け、一時間以上も抗議、更に新聞などのメディアに乗車拒否だと言って、騒ぎを広げ炎上させた。

 明らかに、宣伝目的で事を大げさにしている。

 テルが怒るのも無理はない、と思った。


続きは


https://kakuyomu.jp/works/16816452220020846894/episodes/16816700427142680376


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