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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第三章 リニア新幹線
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乗車拒否問題

「あー、頭痛い……」


 珍しくテルが大臣室で額に手を当てながら椅子に深く腰掛けていた。

 いつもなら数分の休憩の後仕事に取り組むのだが、この日は十五分以上も額を揉んでいた。


「元老院から色々言われましたからね」


 この日は元老院の委員会で質疑応答があり、大臣として出席していた。


「人権派の連中、存在をアピールしたいからって難癖を付けやがって」


 怒りが収まらずテルは委員会でのことを思い出して愚痴る。

 委員会では大臣は議員の質問に答える。

 鉄道行政の状況を報告し問題点があれば質問する。そして状況を説明し必要なら解決を求める。

 面倒だが鉄道の問題点を解消し、更なる発展に資するので欠席することは無い。

 解決するために法案を通す時、元老院の理解が示されるからだ。

 まともな質問ならば。


「鉄道の事をよく知らないのに禄でもないことで追及してくるな」


 だが存在をアピール、自分たちは仕事をしていると選挙民への言い訳をするために支離滅裂な質問をしてくる議員がいる。

 特に野党議員、人権派を称する連中からは多く、問題を解決するよう言ってくる。

 その大半は、重大だが解決が難しい問題だった。

 勿論解決しなくてはならないし、テルも鉄道省の職員も取り組んでいるが、解決していない問題だ。

 一番腹が立つのが、質問して非難しておきながら、解決策を提示しない、自分の理想ばかりを述べる、実現不可能な――予算の裏付けの無い方法を提案、いや強要してくる連中であり、時折矢面に立たされることにテルは辟易していた。

 今回も同様の事だった。

 事件はデッセンシオテンプルム駅で起きた。

 だが近くに神殿があり、その参拝者のために利用者がいる。

 そこに行くために利用しようとしたが、乗車拒絶されたと騒いだのだ。

 拒絶されたのはチジンという女性議員で生まれつき、身体が小さく車椅子で生活をしていた。

 障害者でも住みよい社会の実現を目指し、活動しており人権派と付き合いがある。

 その程度ならば、目くじらを立てないしテルも応援していただろう。

 だが、今回の事はとても看過できなかった。

デッセンシオテンプルムは、山がちで地形の関係上、エレベーターの設置が難しく階段のみで駅長のみが常駐する駅のため、車椅子を使っての利用は無理だった。

 エレベーター設置は出来なくはないが、多大な予算を必要とする。

 そのため、車椅子下車する時は予め、連絡して近隣駅から駅員の応援を呼ぶ必要があった。今回は連絡が無く、近隣の大規模駅でタクシーを使って欲しいと要望した。

 これを聞いたチジンは乗車拒否だとして国鉄に抗議し、該当で声高に非難し、委員会で追及してきた。


「だからといってぶち切れるなよ」


 チジンの質疑に大声で怒鳴り返したテルをオスカーはたしなめた。


「自分の存在をアピールしたいだけの馬鹿をつけあがらせる気は無い」

「確かにそうだが」


 事実なのでオスカーもそれ以上は言えなかった。

 事を必要以上に大げさにして宣伝するのは人権派のよくある常套手段だ。

 特に護民を存在意義としている政府や公的機関は反論してくることが少ないため、彼らの餌食になりやすかった。


「そりゃ、車椅子の人々のためにできるだけ対応しているよ。けど、事前に対応するには限界がある。障害者にすぐに対応しない駅員は酷いとか言うが、サービス第一じゃないんだぞ」

「そうなのか?」

「一つ見落としているようだが、駅員は何のためにいると思う?」

「駅で仕事をするためだろ」

「ああ、その駅での仕事は何だ?」

「乗客の対応だろう」

「それは仕事の一つだ。もっと重要な事がある」

「何だ?」

「鉄道の安全確保だ」

「いや、改札とかしていないか?」

「それは業務の一つだ。駅員は線路の安全確認、車両の安全確認、故障していないかを見ているんだよ」

「そんな事していたのか?」

「オスカー、鉄道車両がどういうものか知っているか? 重量五十トンの車両が時速百キロ以上で走るんだ。重さ一トン未満時速三十キロ程度の自動車でも人にぶつかれば最悪命を落とす。万一、脱線転覆事故でも起こってみろ、どれだけの被害が出る? それが住宅地への脱線だったら? 人家への被害が大きい」

「いや、そこまで酷くないだろう」

「保線や車両故障で脱線する車両は結構多かったよ。今では技術が発展して故障が少なくなったけど、昔はブレーキの緩解不良や軸受けの焼き付き、ベアリングの破損で火花を飛ばして走ってしまった車両も多かった」

「マジか」

「ああ、駅員がホームに出て安全確認を行うのは、通過車両に異常が無いか確認するためだ」


 日本も車両技術とカメラが発展した今でこそホームに駅員が立つことが少なくなったが、昔はホームに出て車両の異常が無いか確認していた。


「安全確保が第一だ。万が一事故が起こらないよう見ないと事故が起こるよ。そこから逸脱しない範囲でサービスを行っているんだよ」

「不動産とか貸店舗とか色々やっているが」

「そこは周辺事業だ。鉄道業関連で行っているのであって、鉄道業は基本安全第一だ。それが損なわれる場合、お客様のお願いでもお断りする」

「サービス業でそれでいいのか? お客様は神様じゃないのか?」

「安全が前提だ。それを損なったら最悪、脱線だ。乗客どころか周辺住民に死傷者が出る。そこまでいかなくても、他の業務に支障が出て遅延が生じたら、何万人ものお客様にご迷惑が掛かる。その場合はお断りさせていただくしか無い」

続きは


https://kakuyomu.jp/works/16816452220020846894/episodes/16816700427118448175


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― 新着の感想 ―
[一言] 国内だとある党の常任幹事ということもバレてどちらに非があるか皆が知ったから、海外メディアのBBCの取材を受けたりしてる。
[一言]  お客様は神様ですたって、貧乏神も疫病神もいるわな。
[一言] チジンが『痴人』なら笑えるんだが。まぁ、以前に話題に成ったネタだしねぇ。
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