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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第三章 リニア新幹線
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火災報告の決裁

「しかし、どうして運転士はあんなところに止まったんだよ」


 火災事故の報告書を読んでいたオスカーはぼやいた。

 列車が、現場の前に止まってしまったのが原因だ。


「電車はすぐには止まれないよ。一両五十トン近い重量の大質量を持っている。それが時速数十キロで走っているんだ。戦車だってそう簡単には止まれないだろう。鉄道なら余計だ」


 そして鉄道は、摩擦の少ない乗り物である。

 摩擦が良いとエネルギーロスが少ないため少ないエネルギーで効率よく走ることが出来るが、反面、滑りやすく止まりづらい。


「ブレーキを掛けたのが現場に近すぎて、丁度火災現場の目の前に止まってしまった」

「止まれないならすぐに通過すれば良いだろう。それにすぐに動けば被害は拡大しなかったはずだ」

「それはそうだけど、システム上無理だ」

「どうして?」

「非常停止装置は、全ての列車に非常停止が行われるように設計されている。運転士が見落としたりして、停止が遅れたり、しなかった場合、現場に突入する可能性がある」


 一編成でも動いている列車があれば先発列車に追突する可能性も出てくる。

 渋滞の列に追突するような物であるため、二重事故を防ぐためにも、全ての列車が止まるようにシステムは作られていた。


「それじゃあしょうが無いな。だけど、停止してもすぐに動けば良いだろう。火災現場の近くに留まって燃えたんじゃ、話にならない」

「それもシステム上無理だよ」

「どうして?」

「安全が確認されていない」

「危険な場所にいるのに安全もないだろう」

「違うよ、列車の進路上が安全かどうか判断できてきない状態で運転できない。そもそもどうして非常停止ボタンが押されたのか分からないからね」

「それがどうして問題なんだ?」

「今回は火災だったが、踏切へ車が進入して衝突事故だった場合はどうだい?」


 国鉄は高架化が進んでいたし、昭弥が踏切事故が起きるのを嫌がり立体交差が主流だ。

 だが私鉄やヨブ・ロビン時代に作られた路線は建設費低減のため、踏切が設置されている事が多い。

 踏切へ誤進入し車と接触する事故は多いし、人の勝手な侵入もあった。


「非常停止ボタンは押しても、列車を止める緊急事態があった、もしくはあり得ることしか分からない。何が起きたか確認する必要が出てくる。そして、安全かどうか確認しなければ列車は発車できない」

「火災現場の前に止まってもか?」

「そうだ。もし列車を動かした先に落石があって乗り上げて脱線する可能性もあるからな。人が侵入していて轢いてしまうかもしれない。だから安全確認は必要なんだよ」

「杓子定規だな」

「運輸司令所は遠くにあって、現場を見る事は出来ないからな。現場の報告がないと動きようがない」


 テルは鉄道学園時代、実習で配属された駅員時代に杓子定規な運輸司令所の指示に殺意を抱いたことは度々ある。しかし、次の実習で運輸司令所に送られた時、現場から上がってくる情報の少なさ、必要とする情報が来ないことに苛立ちを覚えた。

 そして現場と司令所の情報と命令の乖離、部分的な改善と全体最適の激突に唖然としたものだ。

 幸か不幸か、テルはその乖離をただせる立場に居る。直せる見込みは殆ど無いが。


「まあ、ここら辺はさっきの通報体制、警察と消防からの情報も必要だからね。一朝一夕にはいかない。人も少ないし」


 鉄道会社には何千人もの社員がいるが、一つの列車に乗務するのは運転士と車掌の合計二人しかい。

 通常時なら問題ないだろう。

 たった二人しかいないのに緊急時には、乗客への説明、周辺の安全確認、司令との連絡、車両の確認などやることは山盛りだ。

 司令所との連絡だけを行うなど出来はしない。

 現場の警察や消防の協力も必要だ。彼らも忙しいが、列車に乗っている何百人もの乗客を助ける必要がある。

 今回は昼間のお客の少ない時間で良かったが、朝夕のラッシュ時なら、二千人前後の乗客が乗っていたハズだ。

 避難が遅れれば大勢の乗客の命が失われていた可能性もある。


「まあ、飛び火して止めたのは正解じゃないか?」

「いや、これはダメだよ」

「何故だ?」

「列車を動かせる最後の機会だったからだ。この後すぐに断線している碍子が熱か、火災現場から飛んできた何かに当たったのか知らないが、壊れて架線が切れた。これで電車は動かなくなってしまった。列車を火災現場から動かす手立ては無くなった」

「それが問題なのか?」

「現場から移動させれば三両の全焼は防げた。それに線路側から消火できた可能性も高い」

「だが、屋根が燃えていたんだろう」

「車両は全て鉄道省の気悪に沿っている。全金属製の上に難燃性の素材を使っていて燃えにくい。屋根も同じだ」

「火が点いていたようだが」

「火災の火の粉が貯まっていたか、塗料が発火点に達していたかのどちらかだ。だが、報告を見る限り、火の影響はわずかだ」


 最終的に三両が燃えたが、飛び火した車両に関しては移動してすぐに消火されたため屋根の一部が焦げただけで済んだ。全焼した三両は火災現場の近くへ移動したため長時間高温に晒されて延焼し全焼となってしまった。

 対照的な結果のため、徹底的な検証が行われていた。


「ほんの数十メートル移動させて消火すれば、消化器だけでも消火できた」

「だが消防官は延焼すると判断したんだろう」

「ああ、そこの部分は非難できないよ」


 消防官は火を消すことが任務であり火を消すことが優先される。

 特に被害拡大の原因である延焼は食い止めたい。


「だが、安全に消せる場所まで移動させる必要もあったはずだ。それに停止していたら被害拡大になる。被害が少ない内に移動できるなら移動させて消すべきだ。その点は消防に強調しておこう」


 テルは報告書の結論を纏めると裁決のサインを入れた。


「消防を管轄する内務省から恨まれるな」

「仕方ないよ。同じ沿線火災が起きた時、また火災現場の近くで停車して欲しくないし、車両が延焼するのも防ぎたい。だから正確な対処方針を作らないとね」

「それでも恨まれる」

「そういう仕事だから仕方ない」

「消火の方が大事だって反論してくるんじゃ」

「そうだろうな」

「引っ込めるなよ」

「こっちだってこれが正しいかどうか分からないけどね」

「気弱なのに主張するのかよ」

「僕はこういう裁定を下した、論拠も勿論ある。しかし、他の論拠を見落としていた論拠を持ち出される可能性がある。その時はまた覆るよ」

「いいのかよ。そんな結論で」

「正しい答えなんて時代によって変わるよ。技術も環境も変わるんだからな」

「後の時代から間違いだと言われるかもしれないぞ」

「覚悟の上だよ、父さんもその覚悟を以て、やってきたんだからな」

「まあ、あとは車両の難燃性の確認くらいだな。火災現場近くで十数分もあぶられていたら十分に耐えているが、三両も燃え広がった理由を追及する必要があるな」

「鉄道関係者にも恨まれるな」

「それが大臣の仕事だからね」


 テルは肩を落としながらも何処かウキウキと仕事を始めた。

 困難な仕事なのに危機として自ら取り組む、やはり鉄道神と称される昭弥の息子だった。

続きは


https://kakuyomu.jp/works/16816452220020846894/episodes/16816700427096480003


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[気になる点] >屋根の火災を起こした車両は移動したため、燃え落ちずに済んでおり、検証が行われていた。 前話でもこの直前でも全焼・焼け落ちたとなってますのでここの部分はおかしいのでは。
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