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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第三章 リニア新幹線
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火災報告

「沿線火災の報告書か」


 テルが読んでいたのは数日前、私鉄で起きた沿線火災の報告書だった。

 火災自体は普通にあるアパート火災であり、十人の火の不始末によるもので――不謹慎な言い方になるが何処でも起きうる火災だった。

 ややこしかったのは、火災現場が線路脇だったことだ。

 線路と道路の間に挟まれたアパートで、狭い場所では線路まで三メートルも離れていない。

 線路が敷かれてから急速に市街化が進み、建物が雨後の竹の子のように生えていった。

 不幸にも建築基準や線路とどれくらい離すべきかの基準が全国的に定まっていないときに建設されてしまったため、線路に非常に近かった。


「よくある火災なんだろう。何が問題なんだ?」

「鉄道会社と警察、消防が互いに非難し合っている」

「どうして?」

「火災への対応が、現場にいた私鉄、警察、消防の動きが三者三様だったんだよ」


 時系列順に並べると火災の経過はこうだ。

 まず火災が発生時徐々に燃え広がり建物全体に拡大。

 通報を受けてまず駆けつけたのが、警察で近隣住民の避難誘導を始めた。

 誘導に手間取りつつ行っていたとき、近くの踏切が鳴り出したことで私鉄の電車が接近したことに気が付いた。

 私鉄側に火災の連絡はまだ届いていなかった。しかも線路が微妙にカーブしている箇所で火災現場を運転士は確認できず、減速せずに接近してきた。

 火災現場の横を通ると危険と判断した警察官は電車を止めるべく直ちに近くの踏切にある非常停止ボタンを押した。

 停止装置は作動し、列車の全ブレーキが作動して緊急停止を始めた。

 だが、列車はすぐには止まれない。

 減速したが、現場に近すぎたため先頭車両は火災現場横を通過。不幸にも列車の中央が火災現場の真横に来た時、停止してしまった。

 直ちに移動するよう警察官は命じたが列車はすぐには動けず、ようやく出発できたときには、列車の屋根に飛び火して燃え始めた。

 運転士は強引に進めようとしたが、消防士が近くに来たため非常停止。

 乗客を降ろした。

 火は消し止められた物の火災現場近くのため、電車に延焼。

 前後の車両を含む三両が焼け落ちた。


「普通に火災とその被害だろう」

「ああ、だけど私鉄が警察と消防に被害拡大の責任あり、といって訴訟を起こそうとしている」

「どうして」

「警官と消防士が列車を止めなければ無事に通過できたと言ってきているんだ」

「いや、拙いだろう。止めないのは」

「火災現場に近づかないのは当然だ。だが、防護処置として危険な場所からすぐに離脱することも列車には求められているよ」


 トンネル火災では、車両が燃えている場合、トンネル内での消火は非常に困難な上に被害が拡大しやすいため、出口まで走行することを求めている。

 外ならば消火しやすいし、熱が放出されやすく火の勢いが弱まり、結局被害が小さくなる。


「じゃあ警官の行動は間違っていたのか?」

「いや、間違っていないよ。火災現場に近づいたのだから通報したんだ」


 危険な場所に鉄道が行くのは絶対に避けなければならない。

 火災が発生して線路に火勢が伸びていたのなら、非常停止ボタンを押したのは良い攻囲だ。


「まあ、踏切が鳴り、列車が来るのが拙いと思ってボタンを押してくれたのはありがたい。だが、電車が来る前、建物から火勢が伸びたのを見て押して欲しかった。まあ、これは求めすぎだが」


 火災現場に到着して真っ先に気にするのは取り残された人がいないか、の確認、近隣住民の避難誘導だ。

 通常はそれで手一杯、そこから線路に気が付いて列車の防護処置をやれなど、混乱した状況で思いつかない。

 緊急時パニックにならず行動するには訓練が必要だが、警官にはそのような訓練は行われていなかった。

 結果はどうあれ、踏切の音を聞いて電車の接近に気が付き非常停止ボタンを押しただけでも功績は大きい。


「火災現場の近くに止まってしまったが」

「他の列車が火災現場を横切るのを防いでくれたことに感謝するよ。むしろ、火災の情報を警察や消防から私鉄へ通報するのが遅れたことが問題だ」


 火災の通報を受けて警官は現場に向かっている。その通報は消火を担当する消防に伝えられたが近くを走る私鉄に伝わっていない。


「通報時点で鉄道会社に伝わっていればすぐに列車の非常停止を命じて火災現場近くへの進入を防ぐことが出来た。それが出来ていれば、あんなところで停止することも無かった」


 鉄度運行において安全の確保は絶対である。

 危険は全て除去し、何かあたら停止する。

 それが昭弥のいた日本の鉄道の基本原則であり、リグニアでも採用されている。

 鉄道の線路の安全を確保するため侵入を防ぐために鉄道営業法を制定し、線路内への侵入に刑罰を科したのも、安全を確保しようとしたからだ。

 近隣で火災が起きたらすぐさま停止するのは当然だ。

 だが、連絡が入らなかったのはいただけない。


「警官には感謝状を出すことにしよう。だが、通報を遅らせた警察に関しては徹底的に追求する。連絡体制がないなら構築するようにする」

「手厳しいな」

「これはシステム上の問題だからね。同じように動かせば同じ結果になる。良くも悪くも。だから事故やアクシデントが起きたら変えないと、同じ事が繰り返されてしまう。直すべきところはすぐに直さないと今も同じ事が起きているかもしれないしね」


 技術の素晴らしいところは、誰でも同じ事をすれば同じ結果になる事である。

 良くも悪くも。

 悪いことも同じように出てくるため、修正する必要があるのだ


続きは


https://kakuyomu.jp/works/16816452220020846894/episodes/16816700427074500038


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