沿線火災2
カンカンカンとなる音は火災現場のアパート近くの踏切。
そこから脱出したロルフの近くにある踏切の遮断機が奏でる音。電車が近づいてくることを知らせる音だ。
丁度カーブの途中にいるロルフの位置からは列車は見えないが近づいている事は確実だ。
振り返るとアパートは更に激しく燃えていた。
先ほど窓を破ってきたため線路側にも炎が激しく吹きだしている。
「拙い!」
ロルフは救出した老婆を抱きかかえたまま踏切の方へ走った。
老婆を踏切脇の歩道、比較的安全な場所に寝かせると大急ぎで遮断機に駆け寄り非常停止ボタンを押した。
警察の教養――職務に必要な事を教える授業、学校おの授業のように眠くて退屈だったが、踏切の仕組みについて教えてくれて良かった。
このボタンを押すと緊急事態が知らされ電車が止まることを教えてくれた。
たくさんの乗客が乗っている電車を止めなければ巻き込まれると考えたからだ。
「止まってくれ!」
ロルフの願いは通じた。
非常停止ボタンが押されたことで緊急システムが作動し近づいてきていた列車は、金属音を立てる。やがてカーブの先から列車が現れた。
車両の下から火花を散らし、急激に減速していく
「おい! 止まれよ!」
だが、列車は止まりそうになかった。
減速しているが、停止する様子がない。少なくとも、火災現場の前で止まるような原則ではなかった。
列車はそのままロルフの前を通り過ぎ、やっとの思いで脱出した火災現場を先頭車両がさしかかっても止まらない。
ようやく列車が止まったのは火災現場の前に編成の中央部分がさしかかったところだった。
「おい! 何そこで止まっているんだ! すぐに移動しろ!」
踏切近くに止まった列車の最後部、乗務員室に乗っている車掌にロルフは叫ぶ。
「緊急システムが作動してこちらでは解除できない! 運輸司令所が解除してくれないと動けない!」
「早く解除して貰え!」
「今やっている! すぐには出来ない! それより線路の安全を確保してくれ! 人が入っていると列車を動かせない!」
「分かった!」
苛立ち混じりにロルフは線路の監視を始める。
消防車が接近してくる音がするが、遮断機が下がったまま。
踏切に後ろの車両が半分ほど塞いだ状態では、開けることも出来ない。
やむをえず、交通整理して、踏切の前から車を逆方向へUターンさせ走らせる。
ごねるドライバーもいたが、腰の部分に下げた銃のホルスターに手をやったり、自分の腕に力を入れて獣人の力を見せつけて従わせる。
車が居なくなった道からようやく消防車が到着し、アパートの消火を始める。
「おい! 線路の方から消火したい! 列車をどけてくれないか!」
「今やっている最中だ!」
消防官に怒鳴られるが現状を伝えて終わりだ。
確かに線路側から消火できれば、単純に倍の水を浴びせられるし、消火も早まる。
線路側の方も広い。
しかし列車が止まっているから無理だ。
「早く移動させてくれ! 下手をすれば列車に延焼するぞ!」
火の勢いは更に勢いを増していた。列車はアパートから吹き出す火にあぶられ今にも火を放ちそうだった。
「やっているが安全確認をして運輸司令所の許可を得ないと列車は動かせないんだ!」
運転手は怒鳴り返して言う。
少しでも早く列車を動かそうと列車の回りを駆け回って誰も居ないか安全確認をロルフはしていた。
十数分も経つのに一向に進もうとしない事に焦る。
ロルフにはもう何時間も走っているように感じ、酷く焦り消耗する。
ファアアアンンンッッッッ
列車から汽笛が鳴った。ようやく動き出せる。
先頭車両近くにいたロルフは周囲を見渡し、誰も列車の近くに居ないか確かめる。
ガコンという音と共に列車は動き出し、ゆっくりと現場を離れ始めた。
一つの懸案がなくなる。踏切近くで見ていたロルフは安堵の溜息を吐いた。
だがすぐに、藻屑となった。
「止まれ!」
大声で列車を止める声が響いた。
どこの馬鹿が言っているのか。せっかく動いた列車を止めるなんて、愚かすぎる。
殴り飛ばそうと駆け出した。
怒鳴っていたのは消防士だった。彼は列車の屋根を指さしながら叫んだ。
「列車に火が燃え移っている!」
動き出した車両から、火災現場の炎とは全く別の炎が上がっていた。
さながらサラマンダーの様に赤い炎を揺らめかせながら、列車は進んでいった。
「止まるんだ!」
消防官達が叫ぶが列車は止まらない。運転席を見ると運転士が一瞬消防官の方を向いた声に気がついたようだ。
だが、列車を止めようとはしなかった。
断固たる意志で彼は列車を走らせ、止まろうとはしなかった。
「止まれ!」
一人の消防官がレールの間に立ち入り、列車の正面で大きく手を広げた。
そこで運転士はようやく非常ブレーキを作動させて列車を止めた。
列車は消防官のギリギリで止まった。
「おい、早く退くんだ!」
「屋根の火を消さないと延焼する!」
「金属で出来た車両だ! 下手には燃えない! 火災現場から離れないと危険だ!」
消防官と運転士が怒鳴り合う。
どちらも一歩も引かない迫力。
ロルフはどちらの言い分が正しいか分からず、うろたえるだけだった。
その時、車両の後ろの方でバチバチという音が響いた。
同時に、列車の灯りが全て消えた。
「断線した! この列車もう動けない!」
「消火活動の邪魔だ!」
「電気が来ないから動かせない! 乗客を避難させる! 手伝ってくれ!」
「あ、ああっ!」
運転士の声にロルフは手伝う。反対側の扉を開けて乗客を線路に下ろして、次の駅まで誘導する。
残念なことに列車の移動は僅かで、後ろが火災現場の前に止まったままだった。
火災は更に激しくなり車両をあぶり、やがて引火。
列車も激しく燃え上がった。
幸いにも、踏切が通れるようになり、消防車が停車。
三両ほどが全焼したが、火は消し止められた。
続きは
https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220020846894/episodes/16816700427053125533
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