表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第三章 リニア新幹線
703/763

沿線火災1

 それは旧帝都リグニアの近郊の街オラクリポンテムで起こった

 近くに古い神殿があり、そこに通じる橋があり、橋の前の街として栄えた。

 しかし、鉄道が通じた今は、ベッドタウンになり、住宅街に変わっていた。

 近代化の波は街だけではなく行政にも及び、自警団ではなく警察が治安を担うようになっていた。


「ふんふんふーん」


 この日も警官二人が自転車に乗ってパトロールを行っていた。

 犬人族のロルフが先任としてリーダーとなり、順路を回る何時もの巡回になるはずだった。


「火事だーっ」


 大声がしてすぐに自転車を走らせると、アパートから煙が出ていた。


「大変だ!」


 若い人間の警察官が叫んだ。


「そこの店舗で本署に通報しろ!」


 ロルフは部下にに命じて近くの店舗で電話を借りて通報させる。


(畜生軍隊に配備されている個人用携帯無線機があればな)


 軍隊から退役して入ったロルフは心の中で吐き捨てた。

 遠隔地でも伝令なしに通信できるあの装備が懐かしい。

 あったらすぐに警察署に通報できるのだが。

 残念ながら生産している軍隊と国鉄の仲が悪い警察に配備されていない――上層部が毛嫌いしているようで、手元にない。だから近くの店舗に入って電話を借りて通報するはしょうが無い。

 その電話も鉄道省や国鉄が作り出したものなのだから、無線機も入れてくれと言いたかった。


「火事だ! 皆! 速く逃げるんだ!」


 アパートの前に来るとロルフはは避難誘導するため大声を張り上げた。


「おい! 待て! アパートは火事だ! 逃げろ!」


 アパートに向かって駆ける人が居たのでロルフは腕を掴んで止める。


「中に足の悪い祖母がっ!」

「!」


 聞いた瞬間ロルフの背中に悪寒が走った。

 足が悪いのでは逃げ遅れた可能性がある。


「部屋は!」

「一階の一番奥です!」

「そこに居て!」


 次の瞬間ロルフは駆け出した。

 隣の部屋の窓から激しく炎が出ているが、躊躇無く飛び込み、一番奥の部屋の前へ。

 幸い火はまだ回っていない。


「どりゃっっ」


 幸いして、ロルフがドアを蹴飛ばすと簡単に内側に吹き飛んだ。


「安普請で良かった」


 一瞬、玄関近くに逃げてきていたらという想像が頭の中をよぎるが、ドアの影に人影はなかった。


「誰か! 居ませんか!」


 ほっとするのもつかの間すぐに部屋の中に駆け込んで大声を出す。

 再び声を上げようとするが煙と熱が期間に入ってきてむせる。


「ごほっごほっ」


 自分のむせる声とは違う声をロルフは聞き取った。


「誰か居るんですか!」


 声を出しながら部屋に入ると、そこにはうつ伏せになった老婆がいた。

 這いずったのか、服がしわくちゃになっていた。


「大丈夫ですか」


 駆け寄ると弱々しいがロルフの制服の裾を掴んだ。

 生きてる。

 助けられるという希望がロルフに力を与えた。


「しっかりしてくださいね! 今助けますから!」


 ロルフは大声で言うとすぐに担ぎ上げて、入ってきたドアから抜け出そうとした。

 しかし、二階への火の手の回りが早く、天井から太い柱が落ちてきて玄関を塞いだ。


「この安普請が!」


 入ってきた時は逆の意味で建物を罵ると回りを見る。

 奥に磨りガラスの窓があった。


「おりゃっ」


 窓へ体当たりしてガラスを突き破る。

 が、すぐにフェンスにぶつかった。


「畜生! 塞がれている!」


 火の手から逃れるのに何故、奥の窓から外へ行かず老婆が玄関に向かったのか、ロルフは理解した。

 しかし、ロルフは犬人族だった。


「おりゃああっっ」


 ロルフは片手で老婆をしっかりと引き寄せもう片方の腕でフェンスによじ登った。

 獣人の膂力は凄まじく、ロルフの身体を一挙に引き上げ、フェンスの向こう側まで飛ばした。


「とうっ」


 自らが作り出した放物線の頂点で老婆を身体の正面に回し、両腕で身体に中心に抱きしめ保護し、着地した。

 その甲斐あって老婆に怪我はなかった。


「ふう、助かった」


 ロルフは安堵して、周囲を見渡して、凍り付いた。

 自分の足下が大きめの石が敷き詰められ、その上に木の板に釘で固定された二本の鉄棒が横たわっている事に。

 軍隊時代に駐屯地と戦地の往復で何度も使った鉄道のレールである事に気がついた。

 そして、このアパートの裏面が線路に面していることを今更ながらに思い出した。

 しかも近くの踏切からカンカンカンという音が聞こえてきた。

 決して消防車のサイレンの音ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ