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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第三章 リニア新幹線
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自然振り子式電車

「昭弥様が完璧じゃなかった?」


 息子であるテルの意外な言葉にオスカーは思わず声を上げた。


「本当かよ」

「ああ、結構失敗しているよ。例えば振り子電車なんか良い例だな」

「振り子電車?」

「走りながらカーブを曲がるとき、外に向かう力に対抗するために身体をカーブの内側に曲げるだろう」


 遠心力と呼ばれる力で円運動を行うと円の外側に向かう起こる。


「鉄道でも起こる。カーブを通過しようとすると遠心力がかかって外側に車体が傾斜して酷い場合には外側に横転する」

「そんな事故は少ないよな」

「ああ、国鉄では少ないよ。新幹線なんて一部区間を除いて四〇〇〇メートル以上の半径を持っているし、在来線でも時速一〇〇キロを越える速度で走れるようになっている」

「問題ないだろう」

「ああ、当時は」

「当時?」

「開業当時は問題なかった。いや過剰な位だった。時速一〇〇キロで線路を爆走するなんて夢物語だった」


 早歩きと変わらない時速六キロ程度だった鉄道が時速一〇〇キロで走らせよう、と唱えるなど文字通り異次元の発言だ。

 転移者でなければ決して唱えることなどなかっただろう。


「それでも何とか達成し、おかげで圧倒的なアドバンテージをルテティア王国鉄道は獲得し、その後帝国鉄道に対し優位に立った。そして、国鉄時代には主流となり文字通り帝国の大動脈となった」


 ここは歴史の教科書にさえ書かれている。二十年程度前の事だが、千年以上の歴史を持つリグニア帝国の歴史を見ても、昭弥が起こした鉄道普及ほどの大事件は見つける事は出来ない。


「しかし、自動車や航空機などが発達し、競争を挑んできた。中でも自動車は町の道路を通じて何処へでも行く所とが出来る。鉄道の強力なライバルとなった」

「確か、シェアが奪われているんだよな」

「ああ、父さんの代から激しい競争になった。そこで少しでも奪回するために利便性の向上、具体的には所要時間の短縮を行ってきた。そのための手段として高性能車両によるスピードアップ、きついカーブでも速度を落とさずに走れる車両の製作を行った。その車両に使われる機構の一つがカーブに応じて自ら傾斜する振り子式電車だ」


 カーブで外側に肩無いえ最悪脱線転覆してしまうのなら、カーブの間、自らカーブの内側へ傾斜する車両を作ればそれまでよりも速い速度でカーブを通過できると考えて導入した。


「遠心力は馬鹿にならないからね。スピードが倍に上がると遠心力は四倍になる」


 遠心力を求める数式は、重さ×速度の二乗÷曲率半径である。

 速度が倍になると遠心力は二乗されるため二倍にスピードアップすると遠心力は四倍になってしまうのだ。


「これを自然振り子式で緩和して、本来の制限速度よりプラス二〇キロぐらいアップできるはずだった」

「たった、二〇キロか」

「カーブの前後で減速と加速をしなければならない事を考えると定速を維持したまま通過できるのは大きい」


 所要時間短縮のネックになるのが減速箇所とその前後の加減速だ。

 定速と比べれば減速しただけで遅れていくし、遅れを取り戻そうと加速しても制限速度以上は出せない。

 停車駅が多いと所要時間が増えるのと同じで止まりはしないが速度を遅くするとその分所要時間が増えるのだ。

 それに運転士も加減速のコントロールが難しい。

 自転車で急カーブを曲がるとき、減速し再び加速するために漕いで苦労するのと同じだ。

 減速箇所を減らすだけで、スピードアップの効果は大きい。


「素晴らしい話なんだが、失敗したんだよな」

「……うん」


 悲しげにテルは認めた。


「何で失敗したんだ」

「乗り心地がね、良くなかったんだ。本当なら良くなるはずなんだけど」

「何でだ?」

「車体が外側に傾くと横に引っ張られるような感じがしないか?」

「時折あるな」

「バネを使った古い車両だと遠心力が加わる上に車体の傾斜で外に傾くから、四横に引っ張られるような感じがするんだよね。で、横に引っ張られるから乗り心地が悪い」

 バスに乗っていると急カーブで横に揺られて不快な思いをするのと同じだ。

「だが自然振り子方式だと、カーブに合わせて内側に傾斜するから、遠心力が床方向に向かう。そのため、直進と同じように下に向かって引っ張られるから、乗り心地は良くなるはずだったんだ」


 正確には遠心力と重力の合力が車両の床に対して鉛直になるよう車両を傾けている。

 力が加わる方向と床の傾きが合わさり、真下になり、違和感を感じずに過ごせ、壁側によろめくことが無くなるはずだった。


「何で失敗したんだ?」

「傾きの方向が力の方向とズレやすいんだよ。応答性が悪くて遅れて修正されるんだ」


 遠心力を検知してから車体が傾くため、カーブの初めのうちは横に遠心力が働き、旧式のバネタイプと同じ状態になってしまう<振り遅れ>――昭弥命名の現象が起きてしまった。


「しかも、戻るのも遅れるから、カーブを越えても車体は傾いたまままだ」


 遠心力が一定以下に下がらないと車体が戻らない、戻ってもバネのように車体が揺れてしまう<揺り戻し>という現象が起こってしまった。

 そのため直線に戻ったはずなのにカーブのような傾きがあるため、視覚と感覚のズレが起こる。

 そしてカーブを通過する度に、似たような感覚に襲われる。


「振り子式に乗っているとそんなことの繰り返しだ」

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