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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第三章 リニア新幹線
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リニア新幹線開通

 地下のホームのその車両は入線していた。

 表面は飛行機を思わせるような滑らかな車体表面と小さな窓。

 先頭車両は鋭角に、だが滑らかな曲線を描き空気を貫いていくようなイメージを与える。

 実際間違っていない。

 空気と衝突することによる抵抗と騒音を低減するために、計算し実験して完成した形だからだ。

 時速五〇〇キロを出すには、無視できない要素だった。

 それだけに特徴的で大勢の人が一目見ようと集まっていた。

 停車しているホームだけでは足りず、隣のホームにも大勢の人々が集まっていた。

 そこへ、テルが進み出る。

 先頭車両の横、規制線で仕切られ人が、まばらになった空間、中心に置かれたマイクへ進み出て宣言した。


「ここにリニア新幹線の開業を宣言いたします」


 約半年ほど遅れてリニア新幹線は開業の日を迎えた。

 昭弥の時代から準備されていたこともあり、リニア新幹線の建設は順調に進んだ。

 陥没事故もあって工期は遅れたが、ほぼ予定通りに進めることが出来た。

 反対派の勢いは徐々に小さくなっていった。

 劣勢に立たされたことに危機感を覚えた一部の反対派が過激な行動に出たり、こじつけた主張を繰り返すようになったために周りが付いていけず離脱する物が相次ぎ、加速度的に少数派に転落していったのも大きな理由だ。

 反対派が少なくなったために計画は進んでいった。

 さすがにテルが始めた第二リニア新幹線の建設は始まっていなかったが、予定は進んでいる。

 問題となっているのはサイレンチウムコリス内の建設ルートなのだが、テルの思惑通りサイレンチウムコリス内の二大都市が互いにリニア駅を誘致するべく壮烈な誘致運動を行ったため対立状態に陥っていた。

 首長はこの事態を収拾できず、混乱は深まるばかりだった。

 そのためテルの思惑通り二大都市の中間点に駅を設立し在来線で結び、周辺開発を行い第三の都市としてキャスティングボードを握ろうという計画が現実味を帯びてきていた。

 テルが開業を宣言しテープカットを終えると駅長がホームを確認し大声で叫ぶ。


「信号良し! 時機良し! 一番列車発車!」


 駅長が発車の合図を送るとリニアはゆっくりと動き出した。

 最初は完全自動化も考えていたが、安全性を考えて運転士を乗せることにした。

 いずれ完全自動化も導入される事になるだろうが、まだ先の話だ。


「さすがテルだな」


 控え室に戻ったテルにオスカーは話しかけた。


「あの鉄道神昭弥様の息子、出来が違う」

「そんな事無いよ」


 テルはあからさまに否定した。


「それに父さんは神格化を拒絶しているよ」

「そうだけど神みたいな物だろう。帝国をここまで発展させた偉人なんていない。第一、こんなことが出来るのは、昭弥様か、昭弥様の息子のテルだけだろう」

「父さんがやったことは誰にでも出来る。少なくとも七、八割の人が出来ることだ」

「でも、こんなに発展させることが出来るのは、昭弥様かお前以外いないだろう」

「そうかもしれない。けど、他にも方法があるかもしれない。父さんの方法は、上手くいった、あるいは上手くいくように修正しつつ、行うだけだ。同じようにやれば誰でも出来る」

「父親を低く見ているのか」

「違う、父さんを尊敬しているよ。だからこそ、言うんだ。父さんが目指していたものを理解しているから。父さんは誰にでも出来ることを組み合わせて実行しただけだ。技術者として技術――誰にでも出来ることを組み合わせて同じ結果が出るようにしてきただけだ。父さんがやったことは誰にでも出来る。父さんだから出来たというのは、父さんをけなすのと同じ事だ」


 テルは断固たる口調で言った。

 人々が奇跡と呼ぶ鉄道事業の多くは理論と実例を元に行っている。

 予測を立て、万が一の代替案を作り上げ、失敗した時には直ちに修正する手はずを整えていた。

 成功させるためにありとあらゆる事をしていたのだ。


「僕なんてまだまだだよ」


 悲しそうに言って疲れたと言って別室へ移動した。


「とは言っても、テルも凄いんだよね」


 テルが去った後、オスカーとレイの二人は話した。

 テル自身は勇者の力が無くて劣等感を抱いている、普通の人間だ。

 だが、普通の人間が出来る最高レベルにまで体と頭脳を鍛えている。

 それでいて、一般人の能力をキチンと把握している。

 なにより、一般人の考え方、思考法を理解している。どんなことを言えばどう反応するか、感性と理性で理解しているので動ける。

 何より、自分が一流でない、限界があることを知っているので、人に任せることが出来る。

 それらの能力をバランス良く高レベルで調和させている。

 だからトップとして非常に有望視されていた。

 大勢の人が、それも人間だけでなく兄弟姉妹の多い獣人相手でも意思疎通、思考の理解が出来るため、自他の言動が相手にどのような影響を与えるか知っている。

 そして、一般人がどれくらいの力を出せるか、何が出来るか、出来ないかを知っている。

 以上を踏まえて、相手に仕事を任せる事が出来る。

 簡単に権力や権限、資金を渡すことが出来るので多くの人が能力を発揮し、テル一人で行うより何百倍もの成果を、各方面で上げることが出来る。

 だからこそユリアは後継者にと考えていたし、クラウディアもテルに忠誠を誓おうと考えている。

 勇者の力を持っていても所詮は一人、出来る事は限られている。

 広大な帝国で起きる無数の事件を全て一人で解決することなど出来ない。

 だが人に任せることの出来るテルは、いくつもの事件に対応できる。

 ただ、テルは誰にでも出来る事をやる、いや、誰にでも出来る事でなければならないと考えているため、自らが卓越しているとは考えていなかった。

 そして昭弥が凡人である事を誰よりも知っているため、打ち立てた成果に匹敵する事が自分に出来るかテルは不安に襲われる。

 立太子に踏み切れない理由はそこだった。

 父親以上の成果を示していないのに、皇太子、ついで皇帝になどなれない、と考えていた。


「十分、やっていけると思うんだけどな」

「そこは、実力と自己認識のズレだからね。修正が難しい」


 オスカーのつぶやきにレイは答えた。

 偉大すぎる父親を持つテルの苦悩、凡人でありながら遂行できるか心配だった。

 父親が同じく凡人でありそれでもなお成果を上げた前例があるが、同じ事が出来るとはテルは思えなかった。


「それに父親が上手くいったのは生まれた世界の成功例を見てきたからだと思っているところがある」

「前例は発展した帝国鉄道の中に十分にあるだろう」

「いや、計画にあるのはリニアまでだ。その先の計画は昭弥様の計画でも殆ど無い。せいぜいリニアの線路を全て覆って真空にしてその中を時速一〇〇〇キロ以上で走らせるくらいだ」

「十分とんでもな計画だ」

「まあ、それがぶっ飛んでいるのは認めるが同時にチャンスでもある」

「チャンス?」

「昭弥様が何も計画していない領域にテルが踏み出すんだ。ここで成果を上げれば、テルの自信になるはずだ」

「確かにな、なんとしても成功して欲しい」

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