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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第三章 リニア新幹線
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反対派に説明する理由

「し、しかし、建設には多大なコスト、予算が必要です」


 電力問題に自信を見せるテルにポーラはなおも食い下がる。


「何もせずに得られる物があるというのですか?」

「大規模な発電所ではなく、貧困で困っている人達に救済予算を与えるべきでは、と言っているのです」

「彼らに仕事を与えるために建設するのです。現在、電力供給は逼迫しており、新たな発電所が必要となっています。国鉄は新しい発電所を多く作り、リニアだけでなく帝国への電力供給も行おうと考えています」

「しかし、電気が得られても使えなければ、電力を使うどころか、日々の食料にも事欠いている人々が、都市部だけでなく地方にもおられます。それどころか、人口が少ない地域を結ぶ第二リニアの建設さえ計画していると聞きます。利用者の少ない地域へリニアを建設するのは無駄では」

「それでしたら、リニアが解決してくれます」


 テルは自信を持って言った。


「リニアの駅を開設すると共にオフィスビルや住宅などの周辺事業を展開します。これらの事業を展開することで、多数の雇用を生み出します。また、住宅の売却益により建設費の償還、周辺人口の増大による旅客需要の増大が期待され、経営の安定化も期待できます」


 何もない場所に格安で土地を購入し、鉄道を通して利便性を高め、土地の価値を増大させ売却して利益を得るのは鉄道事業の常套手段だ。

 住人は利用者になり得るし、周辺事業でも儲かる。

 そもそも鉄道本業での収益など鉄道会社グループ全体の二割程度しかない。

 他は不動産やレジャー、百貨店、観光などで稼いでいる。


「地方振興、格差是正が行える、最良の計画であると自負しております」


リグニアで問題になっていることの一つに都市と地方の格差があった。

 収入格差も操舵が移動の格差がある。

 大都市ならば、整備された地下鉄や交通機関で何処へでも行けるし、新幹線や飛行機で他の大都市へも簡単に行ける。

 しかし、地方だと大都市へ行くだけで時間がかかるし、他の大都市へ向かうなど論外だ。

 昭弥が半ば執念じみた熱意で標準軌と車両の規格化を進めたのは、在来線と殆どの私鉄で新幹線を乗り入れさせ、所要時間を短縮し、地方と地方を結びつけるためだった。

日本以上に交通の利便性は良くなった、と生前珍しく自慢げに話していたほどに、この事業に誇りを持っていたし、人々の役に立っていた。

 だが、残念なことにそれでも限界はあるし、新幹線の平均営業速度三〇〇キロを超えることが出来ないので、これ以上の所要時間の大幅短縮は望めない。

 一部で三五〇キロの運転が行われているが、遅延時の回復運転の時、一割から二割増しの速度で運転すると事実所時速四〇〇キロ異常が出せる性能を確保する必要があり、車両にも線路にも負担が大きく、一部を除いて実行できそうになない。

 だが、リニアによるスピードアップが出来たなら、時速五〇〇キロ、将来的に六〇〇キロを超すことが出来たなら所要時間は新幹線よりも短縮される。

 乗り換えの不便はあるが、十分に利便性は高まるはずだ。

 地方と大都市部の格差是正は帝国の問題でもあり反対派も様々な提言を行っている。反対することはないだろう。


「し、しかし電磁波による身体への影響が懸念されます」

「実験線での検証により人体への影響は限りなく低いことが実証されています」


 数十キロに及ぶ実験線で検証を行っている。

 さすがに軌条に入れる事はないが、立ち入り禁止の仮名甘い近くまで行くことが出来る。

 一般人が通るのはそこまでだから、そこで電磁波の計測をすれば危険かどうか分かる。


「し、しかし乗車している方々が」

「車内の電磁波も問題ありません」


 幾度か実験線で試乗会を行っているが気分を悪くされた人は獣人を含め居なかった。


「ですが後の世代に影響が出るかもしれません」

「その研究も行われていますが、問題ありませんでした」


 微弱電磁波をハツカネズミに当て続けて、世代を超えても大丈夫かどうか昭弥の時代から研究していた。

 現時点でも継続されているが、世代を超えても全く問題が無かったことが分かっており、ゴーサインを出していた。


「ですが長大なトンネルを通るので湧き水の問題が」

「他のトンネルでも同じですが。同じように解決できます」

「市街地の地下四十メートルを走行するのです、万一先のような陥没事故が起きたら」

「市街地の地下鉄は更に深いところを通る路線もあります。リニア新幹線のみを目の敵にするのは不当です。何かリニア新幹線のトンネルが特に危険だという根拠でもあるのでしょうか?」

「では……」




「次から次に、脈絡もなく問題を出してくるな」


公聴会が終わった後、オスカーがウンザリとした表情で昭弥に言う。

 質問に立っていたのはテルだが、質問者の質問が細かいことばかりで聞いているだけで疲労を感じる。


「大丈夫かテル」


 聞いているだけだったオスカーでも疲れるのだから質問の矢面に立ったテルの疲労は並大抵のことではないはずだった。


「大丈夫だよ」


 意外と元気な声が返ってきてオスカーは驚いた。

 やはりテルは違うのか、鉄オタというスキルは常時バフでも掛かっているのだろうか、それとも鉄オタという別の種族で鉄道関係の能力は三倍になるという種族特性でもあるのか。

 妄想じみた考えだが、元気なテルを見るとオスカーは疑ってしまう 。


「まあ、しかし反対派の説得は大変だな。連中を賛成させるのは難しいぞ。というか反対することが目的化している」

「いや、過激な反対派を説得するつもりはないよ」

「しないのか?」

「ああ、ああいう手合いは構っているだけ無駄だ。オスカーの言うとおり、こちらが対応しても認めず屁理屈を持ち出してずっと反対し続ける」


 反対を続けるのが目的となっている相手をするなど時間の無駄だ。


「じゃあ、どうして反論を続けるんだ」

「リニアの賛成者を増やすためだよ。反対者がいても、理解が出来なくて分からなくて不安だからとりあえず反対という人が多い。そんな人達に疑問点を一つ一つ答えて理解して貰って、賛成に回って貰うのが目的だ」


 人は未知のものに対する恐怖が大きい。

 そのため反射的に反対に回る。

 しかし、一度利便性を理解して貰えれば、賛成に回って貰える。


「父さんもそうやって鉄道を敷設していったんだ。なら、見習って地道に説得する。反対派が出していた質問の一部は皆さんの疑問点だから誠実に答えないと」

「でも、連中こじつけたような質問も出してくるぞ」

「そんなのは完全に無視だ」

「いいのか?」

「付き合っていられない。そもそも、その程度の疑問で普通の人が不安になることはないだろう」

「確かに」


 遙か先の障害など考えても仕方ないと思える。


「さあ、帰って今回の公聴会の要点を纏める。人々が疑問に思っていることに答えたという証拠を、疑問に対する答えをポスターにして各駅に張り出して理解者を増やそう」

「宣伝か」

「そうだよ。こうやって地道に支持を増やしていくしか計画は実現できないんだ」


 多くの利用者がいなければ計画は失敗する。例え強行して建設しても利用者がいなければ赤字だ。

 鉄道は人々のために使われてこそ鉄道だという信念が昭弥にはありテルもそれを継承していた。


「リニアを完成させるためにこうした努力は惜しまないよ。必要としている人を見つけて使って貰うためにもね」


 テルは自分の仕事に戻っていった。

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