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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第三章 リニア新幹線
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公聴会

 元老院公聴会は特定の事案に対して利害関係者など一般の意見を聴取する委員会である。

 時の重要な問題を元老院の名の下に審議する。

 今回の公聴会はリニア事業全体の可否を問うためのものだった。

 ただ問題なのは質疑応答をする人選だった。

 何処でもそうだが、誰が公聴会の中心メンバーになるかが問題だった。

 特に反対派が就任すると激しく攻撃してくる。

 今回の場合はかなり問題のある人物といえた。


「それでは尋ねたいと思います」


 質疑の中心に立ったポーラ・ワトソンは最悪の部類に入るだろう。

 民衆の代弁者を標榜し環境保護、労働問題に関わる彼女は、様々な問題に対して噛みついてくる。

 それも節操もなくだ。

 ある問題で貢献していると賞賛するが、別の問題で害悪を垂れ流していると判断すると激しく非難してくる。

 口から出てくるのは表面的な問題に終始しており、批判は口先だけが殆どで内容が浅い。

 ただ見栄えが良いし単純明快な語り口のため、耳に残りやすく民衆からの支持が強い。


「では鉄道大臣カエサリウス・昭輝・コルネリウス・ルテティアヌスに尋ねます」


 皇族を意味するルテティアヌスを淀みない口調で言うところはさすがだ。

 例え皇族といえど、容赦はしないという現れ、のように思える。

 容姿のため、地味な見てくれのために皇族とは思われないことの多いテルが本名で呼ばれると皇族である事を思い出させてくれる。

 それでもなお、態度を改めずに話しかけてくるのは特別扱いされるのが少し気後れするテルには心地よい。

 ただ、ポーラが相手の地位、テルが皇族である事を念頭に置いているか甚だ疑問であるが。


「大臣リニアは本当に必要な物でしょうか」

「時速五〇〇キロ以上で移動できる高速移動手段は、広大すぎて端から端まで何千キロもある帝国には必要不可欠なものだと認識しております」

「現状でも新幹線は時速三二〇キロ、将来的には三五〇キロも目指すとされています。たかだか一五〇キロ向上させる為に莫大な国費を投入するのですか」

「三時間以内に到達できる距離が伸びます。三時間乗車で移動できる範囲は四〇〇キロ増えます」

「どうして三時間までなのですか?」

「それ以上ですと飛行機と競合します。五時間以上だと飛行機に負けます」

「ならば飛行機と空港建設に力を入れるべきでは?」

「残念ながら飛行機は燃料消費量が激しく、一人の輸送コストが上がります。その点ではリニアは経済的です」


 その時ポーラはにやりと笑った。


「経済的とおっしゃりますが、リニアは現在運転している新幹線の3倍のエネルギーを消費するそうではないですか。これで経済的と言えるのでしょうか」

「リニアが在来型の新幹線よりエネルギーを3倍消費するのは、ご指摘の通りです。ですが在来型新幹線は飛行機の1/10のエネルギーで走ることが出来ます。リニアは飛行機の1/3のエネルギーで走る事が出来るので非常に経済的です」


 比較対象を限定したために間違えた、あるいは世間をミスリードさせるためにあえて燃費の良い方だけを取り上げたようだ。

 ポーラは押し黙っており、テルは追撃に入った。


「何より飛行機よりも輸送容量が大きく都市の中心部まで走る事が出来ます。都市中心部に空港を作るとなると広大な土地が必要な上に騒音の問題が出てきます」


 飛行機で問題となるのが空港の騒音だ。新幹線も時速三〇〇キロ出すと相当な騒音を出すが、市街地近くは速度を落とし静かに動ける。

 しかし、飛行機は轟音を出すプロペラやジェットエンジンを作動し続けなければ動けない。

 移動需要の多い都市中心部へ簡単にアクセスできるという点で鉄道とリニアは優れていた。


「しかし電力を御幅に使うでしょう。そのための電力は確保できているのですか」

「新エネルギーによる発電の目処が立っております。電力は潤沢に供給出来ると判断しています」


 因みに新エネルギーとは原子力の事だ。

 昭弥は、産業の発展に伴い電力不足になると判断。

 原子力発電所の研究開発建設を行った。

 福島原発の事故はあるが、石油資源を使わず、安定して大電力を生み出せる原子力は必要不可欠と判断し、建設した。

 多大な幸運もあり、発電用原子炉の建設に成功。

 実用化していた。

 ルテティアで原子力事故が無いこともあり、反対派がいなかったのも大きな理由で、予算以外は好き勝手に使い込み、作り上げたのだ。

 勿論福島の事故を昭弥が忘れた訳では無く、地殻の安定した土地に建設し、放射性廃棄物の処分場も砂漠のど真ん中やツンドラの奥地など人口希薄地帯に建設。搬入には鉄道を使う事でコストを抑えていた。

 反対派が少ないことを利用して迅速に起てあげたのだ。

 ある程度、メタ知識があり、不要な防護処置や安全対策を省略――内陸部の河川に作り津波対策はなし、地震の無い場所に作り耐震設計を不要に、高電圧送電線を整備し遠隔地からでも大消費地へ電力を最小のロスで給電するなどの処置を行ってコストと資金を削減していた。

 安全対策も幾重にも重ねており、安全に動かせると昭弥は自信を持っていた。

 テルも原子炉で多大な苦労を背負ったが、報われて何よりと思っている。

 だからテルは自信を持って言った。


「電力供給に問題は無いと判断しています」


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― 新着の感想 ―
[一言] 久々の登場、ポーラ・ワトソン。相変わらず脳内お花畑のようで。いい加減に退場しろ!と言いたくなります。
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