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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第三章 リニア新幹線
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シンクホール

「ふうっキツいな」


 削岩機で作業をしていた作業員のギースはぼやいた。

 リニア新幹線の地下駅工事で穴を掘っている作業は大変だ。


「市街地のど真ん中で作業だからな」


 地上の人々に迷惑を掛けないよう細心の注意を払わなくてはならない。


「しかしこんな固い地盤を相手にするのは疲れるぜ」


 工事は地質を選んで行ってる。

 繁華街の大通りの真下に建設しているため、上の地下街や大通りに被害を及ぼさないように慎重に工事をする必要がある。


「まあ地質は確認済みだがな」


 予めボーリング調査で地質は確認されており、リニアの駅は固い岩盤の中に作られる。

 こうして削岩機で岩を砕く羽目になるが、安心安全が第一だった。


「さて、もう一踏ん張りだ」


 と、ギースは前の岩盤を崩そうとした。


「うん」


 だが、突如削岩機から伝わってくる振動が変わった。


「なんだ?」


 嫌な予感がして手を止めると、削岩機が穿った穴から水混じりの砂が流れ込んできた。


「拙い岩盤を貫いたか」


 地層はミルフィーユのように均一ではない。どこかに亀裂や湾曲があり、浅く、あるいは深く穿っていることがある。

 そこをギースは不幸にも掘り抜いて仕舞った。

 慌てて穴を塞ごうとするが、岩盤に亀裂が伸びていく。


「やばい!」


 すぐさま後ろに飛び退くと上の岩盤が崩れて穴が広がった。


「肌落ちだ!」


 掘削された表面の土砂や岩が剥がれ落ちる事を肌落ちと呼ぶ。

 砂の流入量は更に増えていき、止まりそうにない。

 さらに水の量も増えていく


「異常出水が起きた!」


 トンネル工事で一番怖いのが出水だ。激しいほどトンネル内を水で満たし、作業員を溺死させて仕舞う。


「異常出水! 総員待避! 待避! 待避!」


 ギースが叫ぶと坑内で作業していた作業員達は慌てて非常口に逃げ込み階段を駆け上がる。


「誰も居ないか!」


 最後にギースが振り返って誰も居ないか確認する。

 異常出水は激しくすでにギースの足下にまで水が迫ってきていた。


「拙い、全然収まる気配がない」


 固い岩盤の上部が堆積層――近くの川から流れてきた土砂が積もった走である事をギースは思い出した。

 地下水がたっぷりと含まれた砂のような地層ではこの坑道に周囲の砂も流れ込んできてしまう。


「おい! このままだと周囲の砂も流れ込んで崩落してしまう。上の通りと地下道を封鎖するんだ!」


 この一言が、この後の運命を変えた。

 ギース達は直ちに警察に通報し工事現場を出ると周囲の通りへ。

 警察がやってくる前からギース達は手分けをして地下街と通りを封鎖した。

 幸い夜明け前で交通量も人通りも少なく、封鎖は簡単に終わった。

 警察がやってきた時、通りの中心部が地下街と共に崩落。アスファルトの一部に穴が開いて陥没しているのが見えた。

 警察も異常事態に直ちに応援を呼び厳重封鎖。

 穴は徐々に大きくなっていき、二時間後には縦横三〇メートル深さ一五メートルの巨大な穴が出来てしまった。

 幸い、事故発生が人の少ない夜明けだったこと、ギース達の適切な行動により奇跡的に死傷者を出さずに済んだ。




「リニア駅建設工事現場で事故だと」


 テルが報告を受けたのは、ギース達が通りを封鎖した一時間後だった。

 その時にはすでにテレビ放送が行われ事故現場を撮影していた。

 生中継が始まった時には、すでに崩落が始まり、地上の通りが陥没していた。

 陥没した穴は徐々に広がってゆき、通りの幅一杯に穴が広がっていく様をテレビ画面で確認できる。


「すぐに対応する連中と早期復旧、工事再開の準備を頼む」

「この状況で工事の再開か? 早すぎじゃないのか」


 オスカーが言う。原因究明がなされていないのに工事を再開するなど、再発防止が採れず同じ結果の繰り返しになりかねない。


「大体予想はつくよ。周囲の砂が水と一緒に工事現場に流れ込んで、周囲の地盤が崩れたんだ」


 トンネル工事怖いものの一つに出水がある。

 トンネルが水没するのも怖いが、周囲の地盤沈下と流出も怖い。

 地質の中に水が入って地盤を支えている事があり、出水で支える力がなくなり、地盤沈下を起こしかねない。

 東京の江東区や江戸川区などで地下水の取水制限が取られているのも、昔地下水をくみ上げすぎて、地盤沈下が起きたからだし、熱海の新幹線トンネルでも出水によるものと思われる地盤沈下でトンネル上の建物に歪みが出ている。

 更に怖いのは地質が砂や泥だった場合、水と一緒に流れ込んで、周囲の地盤を一挙に流し去ってしまう事だ。

 地盤となる土砂もトンネル内に流れ込み巨大な空洞を作ってしまう。

 地面を支える部分がなくなり、巨大な穴が出来てしまう。

 今、起きているのはそんな状況だった。


「勿論、穴を埋めるのが先だ。できる限り工事がし易いようにするが、復旧を最優先にする。街のためにもね」

「鉄道優先じゃないんだな」

「人口の多い都市が発展するからこそ鉄道が利用されるんだ。街が混乱していたら鉄道も混乱する。それに」

「それに?」

「地下にはインフラ用の共同溝があるんだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 似た事故ありすぎてモデルがどれだか・・・ 第一候補は福岡かと思うけど福岡市自体で何回かあるし・・・
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