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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第三章 リニア新幹線
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テルの報復処置

「具体的には?」


 レイがテルにサイレンチウムへの対処法を尋ねる。


「嘆願は認めよう。だが事業の主体となるのは国鉄だ。事業の下請けを決める権限もある」

「ああ、首長の支持勢力ではなくライバル、あるいは反対派の業者に仕事を依頼するのですね。しかし偏った選び方は無能な人も居るのでは?」

「自然保護をお題目に言っているからな。公共事業で自然破壊するような事業を停止しているから建設業者は首長を敵視している人々が多い。問題ないさ。山岳観光鉄道の建設も優先順位を首長のライバルの支持基盤を優先して開発を行う」

「ひでえな。RR時代の贖罪じゃないのかよ」


 悪辣な罠を仕掛けてくテルに傍らで聞いていたオスカーが突っ込む。

 本来ならキャラ的にレイの分野だ。

 だがテルも必要に応じて手を汚すし悪辣な罠を仕掛ける。

 執事であるレイに影響されたようにみえるが、環境がそうさせたのか。


「これぐらいしておかないと後々までつけあがる。こちらも言われっぱなしじゃない、対抗手段があるところを見せつけないと、一方的に要求してくる」

「くわばらくわばら」


 テルの本気にオスカーは怯えた。


「だがまだ足りないな。よし、もう一つ爆弾を落としてやる」

「何をする気だ?」


 追い打ちを掛けようとするテルに恐る恐るオスカーは尋ねた。


「なに、第二リニア新幹線を通すだけだ」

「あの台車交換タイプを通すのか?」

「いやフル規格で作り上げて停車駅も設ける」

「またとんでもない物を作るな。既に建設中の奴があるのにもう一本通すのかよ」

「将来、延伸するし、大都市圏を短時間で結ぶので直通列車を多数設定した方が儲かる」


 人口が一千万を超える大都市圏を結ぶ列車と、人口が希薄な地帯を走る列車では前者の方が利用者も多く収入が多い。

 最短距離を結ぶ路線を設定したのも無理はなかった。


「だが、大都市間のみ、地方を結ばない鉄道が存在して良いのか、いや否である」


 テルというか父親である昭弥の影響だった。

 昭弥は地方の鉄道が次々に廃線となっていくのを見てきた。

 モータリゼーションでも鉄道の役目はまだあるはずだ、と考えており各地で鉄道利用を促進、なおかつ人々の利益になるように尽力してきた。

 その意志はテルも引き継いでる。

 確かに大都市間を結んだ方が需要は高く長距離で運賃収入も大きい。

 だが、その間、多くの人々が暮らす地方を蔑ろにして良いのか。

 口先だけの首長が嫌いだからといって無視して良い話にはならない。


「そこで大都市間、アルカディアとチェニスを最短で結ぶ直通路線の他に周辺自治体を結ぶ第二のリニア線、在来リニア線とも呼ぶべき各駅停車の路線を作る」

「停車駅が多いと所要時間多くなるんだろう」

「在来線でも相互乗り入れを行ったために所要時間二時間以上の列車がある。それにリニアは加減速性能が良いから損失は従来の鉄道より少なくなる」

「だったらはじめから停車駅を作れば良いだろう」

「損失が少なくても確実に出てくるし、停車駅が多いとより酷くなる。この場合は直通と停車駅の多い方に分けて作った方が良い」

「なるほどな。なんだかんだで考えているんだな」

「ああ、それに連絡線の新幹線も複々線だ前例が無いわけではない」


 通行料が多いため複々線化した新幹線ルートは多数ある。

 停車駅を作らなかったのは、地域貢献の役割を在来線に任せていたからだ。


「一応接続するとはいえ別の交通機関であるリニアでは停車駅別に路線を作る必要も出てくるだろう。これはその先行事例だ」

「一応、考えているんだな。で、ルートはどうする?」

「サイレンチウムコリスにある程度任せる」

「太っ腹だな。贖罪か?」

「いや、分裂状態にしてやる」

「どうして分裂させる! いや、何故任せると分裂するんだ!」

「サイレンチウムコリスには二つの都市があって自治体の政庁所在地と工業都市の二つに別れている」

「普通、一カ所に集まらないか?」

「工業都市は公害とかの問題があって嫌がられるからね。で、政庁所在地とは離れた場所に建設された。だが、新帝都に近い事もあり企業がこぞってあっという間に工場を建設。今では政庁所在地を超えて税収も人口も多い」

「うわあ、トラブルが起きそうだな」

「すでに起きているよ。自治体の議会は二つの都市の出身議員で混乱状態だそうだ」

「嫌だな」


 中隊長をしていた時、部下の小隊長同士の仲が悪く、ギスギスした雰囲気で居心地が悪かったことをブラウナーは思い出した。

 致命的にならなかったのは、すぐに戦闘が起こり、敵に対して一致協力したからだ。


「……まさか、首長、自治体の団結を図るために俺たちのリニア建設に異議を唱え一致団結させたのか」

「その目論みもあっただろうね」

「汚えな」

「だから容赦しないよ。リニアをどちらの都市に通すか決めさせる。ウチの都市にしろと二つの都市の間で争いが起きるだろうね」

「血みどろの争いか。どう収拾付けるんだよ」

「対立が頂点に達したところで、両都市の中間にリニア駅を作ってそこを結ぶ在来線を新設する。ちなみにリニア駅周辺は国鉄が宅地開発して国鉄の利益に、あわよくば国鉄支持派の議員や首長候補者を出せるような第三の都市に成長させる」

「ひでえ」

「これぐらいしたたかにやらないと経営者なんて出来ねえよ」

「相変わらず恐ろしいな」


 テルのやり方に改めて戦慄するオスカーだった。

 こういうのはレイ・ラザフォードの役目だと思っていた。

 テルが軍隊にいたとき部下からの人気があり、いつも抱き付かれていた。

 上官としての威厳がないのでどうにかしようと思っていたが命令を聞くような連中ではなかった。

 その時、レイが噂を流して止めた。


「テルは抱き上げた相手の体重がグラム単位で分かるんだ」


 それを聞いた部隊員はテルに抱き付くのを止めた。

 体重を知られるのが嫌だったからだ。

 嘘か本当か分からない、むしろテルなら、異様なほど小器用なテルならその程度のことはやってしまうだろうという不思議な信頼感もあり、抱き付くのを止めたのだ。

 そのレイの手腕にオスカーは呆れたものだ。

 執事のやり口を主人も真似るという事だろうか。

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