新たな事業
「なんとか再統合案を可決して再統合に成功したな」
ガンツェンミュラーの告発文書で反対派を一掃したテルは無事に再統合案を飲まさせた。
法案も元老院での決議で無事に可決され成立。
各社の決算に関しても疑問が持たれ株価は暴落。予想より低価格で株を取得できたため、統合は順調に進んでいた。
軍の支援、支持があったことも大きかった。
経済優先で各地の路線が廃止になり迂回を余儀なくされ軍隊輸送に大きな支障が出てきていたからだ。
廃線を復活させ鉄道網を整備することを約束して支持を取り付け元老院の軍隊経験のある議員を抱き込んだことも大きい。
地方もこれ以上廃線にされては堪らないと団結して法案を支持した。
リストによって分割民営化を声高に唱えていた連中が一掃されたことも大きかった。
「けど、一社にまとまったとしても、RR時代と変わらないように見えないが」
「だな。巨大な鉄道網が出来ただけだ」
オスカーの意見にテルは同意した。
鉄道は線路があっても列車が走らなければ意味がない。
ただ走らせれば良いだけではなく、便利な時間に、便利な車両で、便利なダイヤで運転しないと乗客は利用してくれない。
人の居ない朝夕や昼間に各駅停車を動かしても利用してくれる人がいないので収入がなくなる。
鶴見線のような周辺の工場労働者のために朝夕のみ動かす路線もあるがこれは例外。
通常はラッシュ時に合わせて増発する。
長距離なら早い時間か遅い時間に最終を組んだり、途中停車駅をできる限り少なくするなどの配慮を行って運転する。
全国的なネットワークが再び結ばれた今、遠隔地を結ぶ列車を編成する作業に入っていた。
「それだけだと不完全だ。何か、大きな計画を入れた方が良い」
オスカーの意見を認めたテルは考え込んだ。
一都市圏の中の交通網を担うだけの私鉄では出来ない、帝国中に鉄道網を張り巡らせている国鉄だから出来る事。
既存の路線や長距離列車の復活などは、行っているが分割前に戻っただけ。
それだけでも十分に効果はあるし意義はあるのだが、またいずれ同じ事、分割民営化がが起きてしまう。
出来ればもう一つ大きな事業が、帝国全土に利益をもたらす事業が必要だった。
「貨物はともかく、旅客は需要が見込めません。航空機に奪われています」
レイが報告した。
調査部に命じて長距離列車を導入した場合の旅客需要、定員がどれだけ入るかを調べさせたのだ。
結果は、長距離ほど航空機に奪われるという当然の結果に終わった。
「やっぱり速度では勝てないな」
テルの父親である昭弥が言っていた五時間の壁――新幹線への乗車時間が五時間を超えると速度の速い航空機にシェアを奪われる。
三時間以内なら新幹線が圧勝、四時間だと拮抗する。
もともと遠隔地への旅客需要が少ないと言うこともあるが、長距離旅客列車の運行、採算という観点から見ると厳しい物がある。
「でも、長距離は貨物だろう。旅客の収入もまあまあ良いし他の旅客列車でも需要はあるぜ」
慰めるようにオスカーはいう。
口先ではなく事実ではあった。
長時間を掛けて良い貨物の収入の推移は良い。陸上の貨物輸送ではやはり鉄道以上の手段はない。
そしてテルの父親である昭弥が、新幹線の需要増大のため、広大な帝国の路線を活用しようと新たな車両開発に取り組んでいた。
新幹線の居住性向上のために、通常より幅が広く前後の間隔が広いランクの高い座席を使った車両が出来たり、いくつも個室――ソファーのみならずベッドやトイレ、果てはシャワーまで付いた車両が設けられたコンパートメント車両を作り、車内の快適性を、少なくとも航空機より快適過ごせる車両を作った。
航空機より重量制限が緩い事を利用して豪華に、居住性を良くしてハイレベルなサービスを得たい、快適に移動したいという乗客を取り込む事を目指した。
当然、価格も高いが、客単価が高くなるので収入アップに繋がっている。
寝台新幹線もその一つで、寝ている間に目的地に行きたい、時間を有効活用したいという乗客に人気だ。
他にも鈍行タイプの車両も人気だ。
こちらは新幹線より遅いが車両が安く作れるので料金が安く済み、若者の間で人気だ。
昭弥が<ムーンライトながら>などを参考にして特別料金なしに乗れる列車にした。
通常の切符を買い座席を予約して利用するのが基本だが、旅客船のような座敷席やベッド、個室なども付いており、その日の気分で利用出来る。
在来線を通るため非常に時間が掛かるが、安いため時間のある若者に人気だ。
「ただ、格安の在来線長距離列車は新興の高速バスに取られている状況です」
「ぐっ」
レイの報告に言われてオスカーは黙った。
高速道路網の整備により、高速バスも発展が著しい。
格安の上に、小型のため採算ラインが鉄道より低く、小回りがきくためにルートを自由に設定できるし、駅から駅へしか行けない鉄道と違い、道路さえ有れば何処へでも、有名な観光地や建物の前にまで行けるバスの方が利便性は高い。
鉄道ほどではないが快適性を高めるため座席の間隔が広くなったタイプが出てきている。
さらにベッドを敷き詰め寝ながら移動できる寝台バスなど言うものも出来ている。
事故が起きた時に被害が酷そうなので、規制する動きもあるが道路の管轄部署の動きが遅く未だに対処していない。
対処を要請しているが、管轄が鉄道省のライバルである内務省のため動きが鈍い。
だから、結構なお客が奪われている。
「航空機とバスからお客を取り戻さないと。出来れば新たな需要を掘り起こして利用者を増やせるような事業を立ち上げないと」
テルは呟きながら考える。
そして、ある事業をひらめいた。
「リニア新幹線だ」




