組織
その集会はいつから始まったかは分からない。
しかし、すでに十数年以上続いていた。
はじめこそ、経営者達の情報交換の場所だったが、帝国の経済発展に伴い参加者、規模が大きくなっていく。
やがて銀行家が資金援助を始め、その資金を政治家への献金として使い、元老院に影響を及ぼしはじめ、官僚が加わり経済政策へ干渉し始める。
現在では帝国経済の一部を動かすようになった。
だが、分割民営化の前に変質する。
民営化への議論が行われた時、この組織でも議論になり一社か、分割かで話し合いが行われた。
結果、分割化が最も利益になると判断し、分割化を推し進めた。
主要なポストにいる同志に連絡を取り、分割民営化を推し進めようとした。
しかし、昭弥の強固な反対意見により頓挫するかに見えた。
だが、昭弥が亡くなるという事件が起こり、事態は急変。彼らの主張である分割案が通ることとなった。
各所の同志が分割化を推進、結果、彼らの組織はRR設立委員会で主要メンバーとなり分割化に大きな影響力を発揮。
そのためRR創設ではその主要経営陣を彼らの集会から送り出していた。
メンバーは会議の度に、変わっているが、誰もが経済界の中で一目置かれている存在、金を持っている、影響力がある、特定業界の絶対的支配を行っている、経済政策の重要部署を任されている、といった面々だった。
その中最初に発言したのは新参者の女性、ラケルの偽名を名乗る者だった。
若いが、帝国中枢の情報、特に宮廷内部、軍事や鉄道に関する情報、それも最上級の秘匿情報を正確にもたらすため、メンバーの一人から推薦されて参加していた。
「RRの再統合案が出ている、との情報が入ってきました」
暗い部屋の中で女性の声が響くと他の参加者の雰囲気が一変した。
驚きのあと、怒りに変わった。
「RRの経営陣ポストは我々の利権だ。天下り先として重要だ」
会社組織はピラミッド組織、上に行くほどポストは少なくなる。
トップが何人もいたら船頭多くして何とやらだ。
しかし、同期は何人もいるし、彼らを昇進させなければモチベーションと、トップに対する求心力を維持できない。
何年も昇進なしでは部下の士気が上がらない。
だから、よそにポストを作って底へ子飼いの部下を送り込んで甘い汁を吸わせ影響力を維持する。
参加者の多くは起業家、経営者、官僚などでRRが出来たのは、そうしたポストが一気に増える――役員報酬の良い会社が十数社も増えるので都合が良かった。
分割民営化が迅速に推し進めたのも、彼らがポストを獲得するために裏で結びつき、大臣であった昭弥が亡くなった混乱を突いて、一挙に成立させたからだ。
結果、彼らは分割民営化の功労者となり、RR各社のポストに就いているし、一部のポストを配下の飴として用意している。
他にもRR各社の一部契約をメンバーの会社で独占しており、その収入も彼らの権益の一部だった。
そのおいしいポストと権益を今度選ばれた鉄道大臣は再統合により潰そうとしている。
「経営陣ポストは確実に減らされます」
報告してきたラケルが書類を差し出しプロジェクターを使って投影した。
RR統合計画案とタイトルが書かれた書類には、RRの経営陣ポストを減らすと書いてあった。
「案の一つではないのか?」
「右下の印章をご覧ください。すでに鉄道省内で裁可されています」
大臣であるテルの印章が押されており、承認されている決定案と言うことだった。
「なんとしても、防がねば」
メンバーの一人のつぶやきに他のメンバーも同意した。
鉄道省内で決まったとなれば、あとは政府へ
「株の購入を行い、保有比率を高め議決権を握るべきでしょう。国債の発行で株式を購入し議決権を握る計画です」
RRは民営化に伴い株式の売却が行われていた。その売却益が、国に一部納められていたが売買手数料などで財界も潤っていた。
「株を手に入れる方法はあるのか」
「既に一部を購入し確保しています」
「手早いな」
「疫病騒ぎでRR各社の株価が低迷しており購入するべきと考えていました。勿論、複数の名義を使い、購入者の把握が困難になるようにしてあります」
不用意に大量に株を保有していると議決権、会社の経営権を握られると警戒して目を付けられる。
だから他人名義で少数ずつ購入して当局に気取られないようにしていた。あとは浦で名義人ごと譲渡すれば良い。
「ふむ、では君が購入した分を我々が買うとしよう」
「ありがとうございます」
「今のうちにRR各社の株を買い占め、議決権を掌握。鉄道省が介入できないようにする。分割民営化は我々の聖域だ」
「費用はどうする?」
「疫病対策で政府が行っている緊急経済援助の援助金を使う。株価維持を目的に投入すれば名目は立つ。回ってきた金を我々が使っても良いだろう。疫病で下手に活動できない分、投資で利益を確保しなければ」
『同意』
参加者達は、そう言うと席を立ち、部屋を後にした。
最後に残った、報告者の女性ラケルは口元に笑みを浮かべていた。




