再統合の諸課題
「無茶だな」
国鉄を復活させるというテルの言葉にオスカーは反射的に答えた。
「各地にRRが有るんだぞ。そもそも経営を合理化するために分割民営化したんだろうが」
「だが民営化して経営陣が増えている。しかも彼らは、ど素人だ」
会社は営業などの現場職、係長や部長などの管理職、社長や取締役などの経営陣からなる。
これまでの国鉄経営陣は総裁の下に十数人の理事会がいてこれが経営陣になっていた。
しかし十数社に分かれたRR全てに経営陣が加わっている。
経営陣は、会社の方針を決めたり大きな契約案件を持ってくるのが仕事だが、ここが機能していない。
「あれだけの事故を起こして鉄道省への連絡が事故後、二十四時間も掛かっている。事故が起きたら報告しなければならないのにな」
事故対応のために連絡を失念していた、と言ってきているが、言語道断だ。
効率優先で安全確保の視点が脱けている。
「鉄道以外の業種からやってくるからね。まあ、経済に詳しい銀行関係者や物流でお世話になる農業、鉱業なら分かるよ。けど、無関係な親族を相談役などで抱え込むのは止めて欲しい」
経営陣の人脈、天下り先の確保のために取締役や相談役の数を増やすのは止めて欲しかった。
「これらを一掃する」
現場や管理職に関してはかなり、上手くいっている。
経済効率優先、安全運転への認識不足の経営陣を一掃すれば、今からでも国鉄時代並の安全は確保できる。
人員が不足していても私鉄から再雇用すれば良い。
「それに鉄道業界全体の技量が低下している」
今回は各所のミスが重なった結果起きている。
貨物列車に違法な化学物質を積み込んだために被害が拡大した。
車両の異常を確認していたのにダイヤを優先して運転を続行した。
製造ミスが起きたのに、修正を、それも強度を低下させるような修正を行い不良品を製造会社は納入した。
「おまけにRRも台車の不良を見抜けなかった」
製造会社を信頼していたから、などという言い訳は許されない。
自分たちが使用しお客様を乗せて走らせる車両だ。納入された時、安全が確保できるか、安全に運転できるか鉄道会社自身で調べて走らせるのが、新の鉄道会社だ。
その能力が無ければ鉄道会社など名乗ることは許されない。
「なのに利益優先で根底にある安全をおろそかにするような状況は糺さなければならない」
「だけど再統合して国鉄を復活させることが出来るのかよ」
「方法はある」
テルが笑うとオスカーは顔を引きつらせた。
この手のテルの笑顔が、禄でもないこと、相手を嵌める手を考えている顔である事を、中央士官学校から知っていた。
「さすがにトンネルの復旧費用が出なくて、RRが帝国政府に財政投融資を求めてきた」
復旧金額があまりに大きい上、他にも経営上の赤字を補填するための資金が必要になっていた。
しかし銀行に金を借りるのを嫌がったRRが政府に援助を求めてきた。
「復旧費用や補償でRRは経営が悪化している。他にも疫病騒動で収入が減っている。銀行から借りようとすれば利払いで経営を圧迫してしまう。そこで各社は政府に無利子の財政投融資を求めている」
利払いという支出で経営が悪化しないように預金を預かるため利子の高い銀行ではなく税金から無利子で金を引き出せる政府に求めた。
「この提案を却下してRRの経営を悪化させる。その上で救済処置として資金を出す代わりに国有化、その上で再統合する」
「ひでえな」
災害で弱って家業が左前になった会社への資金を絶ち、暴利の借金をさせて、最後には身ぐるみ剥がす悪徳業者のようなテルの計画にオスカーは呆れた。
「どうせ、経営が悪化、あるいは悪化したように見せかけるために不要な経費を使って赤字に見せかけ、最終的には経営健全化を名目に踏み倒す気だろうな」
「絶対に貸してはならないな」
「そうやって悪化させたところで帝国が債権を発行して各社の株式を買い取り、事実上の国有化を果たす。債権の担保は株式、利子の支払いは各社の配当金だ」
都合の良いことに、事故によって各社の株価は下がっていて買収費用は比較的低額に収めることが出来る。
「すぐに始めるよ」
「だが、国有化で収益が良くなるのか?」
オスカーは疑問に思った。国有だと非効率だったので民営化したはずだ。
「民営化したときにそういう部分はカットされた。今は分割化された事による分断が弊害が大きい。ここをよくすれば収益はアップする。特に長距離の貨物列車の運転がやりやすくなる。長距離の貨物列車は陸上輸送の中でコストが一番安い。競争力は十分にある」
元々昭弥が計画していたプランに戻るだけ、十分に利益が見込める。
「早速、案を練り上げて提出しよう」
テルは大臣の権限を使い関係各部署に具体案の作成を命じた。
「それでは細かい作業と指示は私が行いますので大臣は閣議をよろしくお願いします」
レイがテルに言った。
「いや、やるよ」
「権限を委譲して貰えれば鉄道省内の事は私でも出来ます」
「しかし、閣議へ出席し関係閣僚と調整できるのは鉄道大臣の昭輝様しかおりません」
「はあ、しょうがないな」
レイに言われてテルは渋々、他の官庁、大蔵省や内務省などに調整のための書類を作成し始めた。
そのためレイの微笑、いたずらを思いついた子供のような笑い方に気がつかなかった。




