怪我の功名?
大剣を構え大威力の技を放とうとするクラウディア。
それも事故現場の近くでだ。
大迷宮とはいえ、山を吹き飛ばすほどの威力を持つクラウディアが攻撃を放ったら、周辺被害は大きい。
周囲の壁には亀裂が入り、水までしみ出している。
亀裂は周囲を覆うように広がり始めており、下手をすれば一気に崩落する可能性がある。
「ま、拙い」
天井が崩落し生き埋めになる想像が頭をよぎったミデアは思わず悲鳴じみた声を上げ、その声で事の重大さを感じ取ったオスカーは震え上がった。
周りの隊員や避難中の乗客も恐怖でその場に止まってしまう。
「はあああっっっ」
そんな空気を知らずクラウディアは今まさに技を放とうとした。
クラウディアの闘気に煽られるように列車火災の勢いも更に増し、現場は異様な熱気に包まれる。
ドラゴンもクラウディアの練り上げつつある技に怯んでいるのか、後ずさりしている。
「姉上! あそこの岩壁を壊して!」
その時、テルは言った。
「おうっ」
テルの言葉に反応したクラウディアは、言われたとおりの場所に向かって大技を繰り出した。
すでに限界に達していた岩は地下水の圧力もあり簡単に砕けた。
大量の水が流れ込み、穴に入っていた車両に降り注いで火を消した。
「成功」
テルはその様子を見て歓喜の声を上げた。
岩肌が濡れているので地下水があると思ったが、予想以上に多かった。
火災が抑えられる程度しか期待していなかったが、火災を消すほどとは思わなかった。
「今のうちに逃げろ! 避難するんだ。俺は姉上を回収してから戻る」
「お、おう」
大量の水に押し流されて気を失っている姉に向かうテルをオスカーは見送りつつ指示に従った。
「姉上、気持ちは嬉しいんですが、もう少し考えてください」
気を失っているクラウディアを担ぎ上げたテルは確保した避難経路に戻っていく。すると入り口には人だかりが出来ていた。
「テル。後続の救援隊がやってきた。これで救助活動が進むぞ」
「そうか、良かった」
装備を調えた後続が次々と出てきて事故を起こした新幹線と取り残された新幹線に取り付いていく。
洪水で火災は消え去り、先ほどの混乱の中でドラゴンの姿も消えており、混乱に拍車を掛ける存在が居なくなったことから救助作業は順調に進む。
救助した人々は皆、無事に地上に送り出すことが出来た。
「じゃあ、俺たちも地上へ待避しようか」
「そうだな」
いくら初期対応が重要な事故現場でも長時間の作業は危険すぎる。
救助者が事故を起こす危険もあり撤退するのは妥当な判断だった。
「いや、待ってくれ」
だが、昭弥は制止すると事故を起こした新幹線の車両に戻っていった。
「おい、どうした」
「事故を起こした車両を確保する」
「救助作業が先だろう」
「当然だ! だが、確保しておかないと壊されたり埋められたりしたら困る」
新幹線を真似て高速鉄道を作った私鉄が事故を起こした時、証拠隠滅のために事故現場の近くに穴を掘って埋めた事件があった。
「事故究明のための必要な証拠物件を確保しておかないと」
「そういうことは後続に任せておけば良いだろう。冒険者や信頼の置ける部隊に任せておけば良いんだよ。十分に居るだろうが」
「それもそうか」
オスカーの言葉にテルは頷いて、指示に従った。
「はあ、やれやれ」
オスカーは安堵のため息をついた。
テルは優秀で真面目なのだが、少し前のめり過ぎる。
前に向かって進みすぎるのは悪い癖だった。
最前線に立って部下を鼓舞して引き連れていく前線指揮官ならともかく、全体を指揮する最高指揮官としては指揮や指示をしないのは欠点である。
そのことを指摘して修正するのが自分の役目であるとオスカーは心得ていた。
「さあ、帰って現場の指揮だ」
「鉄道省に戻れ」
オスカーに突っ込まれながらもテルは後続によって安全の確保された通路から地上へ戻っていった。
そして現場本部に戻るとテルは他の事故現場の現状を確認する。
とりあえず順調に救助作業は進んでおり、後方支援などは鉄道軍の支援もあって、十全に機能していた。
救助優先だが現場保存も確約され、作業終了後に現場検証、終了後は鉄道事故調査委員会に引き渡されることとなった。
全てが終わるとテルは現場を後にした。




