テルを助ける援護者?
「大丈夫! テル!」
隊員達を襲ったモンスターをレイピアで貫いたエルフの少女が尋ねてきた。
「絶好のタイミングですよミデアさん!」
テルの知り合いの冒険者のミデアだった。
定期的にトンネルの魔物討伐をしていたが民営化されて以来が激減している、と前にあった時文句を言っているのを聞いていた。
だからテルはトンネルの現状を知っていたし、トンネルに詳しい人物、冒険者、内部構造に詳しく戦闘能力もある人々のあてがあった。
「戦闘可能な者は前に出て牽制しつつ後退! 防衛ラインを構築! 救助隊員は、その内側で一番近い要救助者を救出! 他の要員は避難路への誘導と支援を行え!」
テルは的確に指示を出して、手当たり次第に避難させていく。
このような状況では、スピードが大事だ。
手当たり次第に助けられる人間を助けて送り出していく。
だが、穴の奥から思い金属音が響いてきた。
「ゴ、ゴーレム!」
十数メートルはありそうな巨大な人型の金属の塊が這い出てきた。
「あんなの相手に出来ないわよ」
モンスター狩りに慣れているミデア達も、これほど巨大なモンスターを一般人を守りながらゴーレムを倒すのは無理だ。
「……仕方ない、契約者を呼ぶか」
テルはそう言って大声で叫び始めた。
「大迷宮の深淵に住まう禍々しき者! 我との忌まわしき約定に従い、深き住処にあだなす者達に向かい、今ここに真の力を見せよ!」
突然のテルが、痛々しい台詞を大声で唱えた瞬間、周りにいた全員が凍り付いた。特にテルを知るオスカーやミデアは、顎が外れそうな程、口を開いていた。
そしてその驚愕はさらに大きくなる。
穴から、巨大なドラゴンが現れたからだ。
「なっ!」
モンスターの中でも最強とされるドラゴンが現れたことで、現場は引きつった。
「我が契約者よ! 盟約に従い、ゴーレムを倒せ!」
だがテルは怯みもせずむしろ命じる。
ドラゴンはテルの支持に従ってゴーレムを攻撃する。
その光景に、テルがドラゴンを従えている光景に一同は唖然とした。
「て、テル。何でドラゴンを従えているんだ」
「一寸した契約を結んでいるだけだ」
テルは、ため息交じりに答えた。
「どんな契約なんだよ」
「済まない、言いたくない。身内の不祥事だし、契約者との契約でもあるのだから」
テルは肩を落としながら答えるのでオスカーも黙った。
「……分かったよ聞かない」
「ああ、ありがとう。それより、避難を急いでくれ」
「おう、おい! お前ら! 急いで撤退だ!」
ゴーレムの襲撃が止まったのと、オスカーの叱咤もあり、救出作業は順調に進むと思われた。
だが、そこへ思いがけない事態が発生した。
「伏せろ!」
テルが叫んだ瞬間、燃えていた広軌鉄道が突然飛び出してきた。
車両はそのまま、モンスター達が飛び出してきた穴に落下して行き大火災を起こす。
そしてそれまで車両が停止していたトンネルから、ある人物が現れた。
腰まであるプラチナブロンドの髪に、くびれた体を持つ、端整な顔立ちの女性。
ユリアの背が伸びボリュームアップしたような美人だった。
「テル! 大丈夫か!」
戦闘の騒音さえ貫いて響く声で尋ねられたテルは、笑顔を顔に貼り付けたまま、ウンザリしたような声色で呟いた
「姉上……」
大声で登場した女性は、テルの同腹の姉、クラウディアだ。
ユリアに少し劣るが勇者の力を持ち、数々の功績を上げている。
だが、一つ欠点があった。
「むっ、ドラゴンか! 成敗してくれる!」
そのままドラゴンに向かって攻撃を仕掛けた。
線路の上からジャンプしてドラゴンに斬りかかる。
襲撃されたドラゴンは咆哮を上げて、回避するが、その声は悲鳴のようにも聞こえる。
「あ~っ」
その中で、テルはため息を吐いていた。
クラウディアの弱点、頭が少し弱い、理解力が低いのだ。
子供の頃から、勇者の力が発現し力のコントロールのために修行を行っていたため、社会経験が少ない。
ただユリアの血を、力こそ全てというルテティアの考え方を受け入れやすいため、力で解決しようという考え方を生まれつき持っていた。
そのため凡人で周囲の状況を把握理解し、誰にでも出来る技術をできるだけ体得し、活用する昭弥の血を色濃く受け継いだテルの方が、特に複雑な問題を解決するのに優れていた。
だからクラウディアもテルの言うことを聞く。
だが、はじめから暴走されたらテルも指示が出せない。
ゴーレムがあらかた退治されてしまっていたこともあり、状況をいまいち理解していないクラウディアはドラゴンが襲撃していると勘違いした理由でもある。
「どうするんだテル! 車両が落ちてまた燃えだしているぞ」
広軌鉄道に積まれていた荷物や車両のギアオイルが燃えて締まって大火災を起こしている。
しかも姉が暴れていて周囲の岩壁にヒビが入り始め、じわじわと濡れている。
かつてトンネルを掘ろうと大技を繰り出そうとしたユリアを、地盤にヒビが入り危険だからダメと昭弥は諫めたが、クラウディアはそんな事考えていなかった。
このままでは崩落して浸水してしまう。
「これで最後だ!」
しかもクラウディアは、ドラゴンにトドメを刺すために大技を繰り出そうとしていた。




