モンスターパニック
「何でこんなところにいるんだ」
驚いていると橋脚が付く破って出来た穴から出てきたガーゴイルは、オスカーに向かって一直線に飛んでくる。
鋭い爪がオスカーの身体を貫く寸前、テルは拳銃を引き抜きガーゴイルの向かって発泡した。
胴体に穴を開けられたガーゴイルは悲鳴を上げて墜落していった。
更に迫ってくるガーゴイル数匹を拳銃で狙って撃ち落としつつ、説明する。
「ここは元々モンスターがわんさかいる大迷宮だからな」
場慣れしているため、武器を操る動作に何の迷いもなく、毎日繰り返す日常の生活の一部のように淀みなく、淡々と行っている。
「オスカー、右側で援護、頼む」
大声を上げながら、テルはオスカーに後ろの荷台に載せていた銃器を投げ渡す。
「お、おう」
ショットガンを渡されたオスカーは、テルの指示通りに右側に行き、テルの死角を援護する。
初陣の時も異様なほど場慣れしていた上に、どんな激戦でもテルは冷静に部隊を指揮してきたのをオスカーは間近で見ている。
さすが勇者の子供と言ったところだが、本人は「勇者の素養の無い凡人だよ」と言っている。
だとしても勇者以外の才能、あるいは異様なほどの経験がテルという天才を作り出していた。
「しかし何でそんなところに作るんだよ」
衝撃から立ち直り武器を持ち反撃して余裕が出来たオスカーは文句を言い始める。
「大迷宮が大アルプス山脈貫いていたからな。その中に線路を敷設して鉄道トンネルにしたんだよ」
「何処の馬鹿だ! ダンジョン使っての中に鉄道トンネル作った奴! 普通に穴掘れば良いだろうが!」
オスカーは叫びながら受け取ったショットガンを魔物が密集しているところへ銃口を向けて発砲する。
「当時はそんな技術無かったんだよ」
ダンジョンの中にレールを敷いて鉄道トンネルを作った奴の息子がしみじみとに言った。
「通すならダンジョンの中を通す方が真面目に穴を掘り進めるより早い」
「手抜き過ぎだろう! てか、技術が発展したなら普通にトンネル作れよ。チェニス田園都市鉄道は山脈貫通させただろうが」
「えらい難工事だったそうだけどね」
トンネル工事でなかなか帰ってこれなかったテルの父親である昭弥の言葉を借りれば、黒部と中山と鍋割山をいっぺんにやるような難工事、だそうだ。
黒部と中山と鍋割山の事は知らないが、モンスターを相手にするより大変だと言うことはテルには分かる。
「新たに掘るより既存のトンネルを活用した方が安上がりだ」
「モンスター相手にする苦労に比べれば楽だろう。新しくトンネルを掘るくらい楽勝だ」
ちなみにその新しいトンネルを掘り上げたのはオスカーの父であり、近くにダンジョンがあるのに使わせない当時の総裁ヨブ・ロビンをことあるごとに罵り、ダンジョンを掘り進めたかったと日々嘆いていた。
掘った距離より土砂で押し返される距離が長いって、どんな地獄だ! 一撃で死ぬモンスターを相手にした方がよっぽどマシだ、と罵ったという話が残っているが、オスカーは知らない。
「モンスターがこんなにいるんじゃ危険だろうが」
「普通はトンネル、線路に入らないように定期的に駆除しているんだが、サボっていたようだな」
勿論線路へ進入する危険を考慮して定期的に討伐隊を編成してトンネルに入ってこないようにテルの父であり、大迷宮に鉄道を敷いた張本人である昭弥はトンネル周辺のモンスターを駆逐していた。
換気口に住み着いたスライムが自らの油脂と煤煙に付いた硝酸と硫酸が混ざってダイナマイトスライム、叩くと爆発するという厄介極まりない新種のモンスターが昭弥の前に現れ、死にかけた事もあってその辺りは徹底していた。
だが時が流れ、そのような苦労話が語り継がれず途絶え、通路が閉鎖されて、管理が行き届かなくなってモンスターが繁殖したようだった。
「畜生ううううっっ」
その手抜きの代償をテルとオスカーは、受けたていた。
しかし、現役を離れているとはいえ軍人として訓練され激戦をくぐり抜け、通常ではあり得ないほどの修羅場をくぐり抜けたテル達は、次々と魔物を倒していく。
「しかし、きりが無いな」
テル達に向かってくるモンスターは相手に出来る。
だが開いた穴から次々とモンスターが出てきており、一部がテル達を迂回して現場へ殺到し避難していく乗客を襲っていく。
「うわああっっ」
二人の薄い防衛線を突破したモンスターが救助作業をしていた隊員と乗客を襲い始めた。
「危ない!」
テルは素早く銃口を向けて倒す。
「テル! 危険だぞ。どうするんだ」
銃を撃ちながらオスカーは訪ねる。
二人だけで守り切ることは出来ない。
魔動鎧を着た隊員が盾になり、応戦している。魔動鎧の力は圧倒的でガーゴイルを掴むと腕を引きちぎった。
しかし、出てくるモンスターに対して隊員の数が圧倒的に少ない。
通路まで後退すれば、救助隊員を守れるが列車に取り残された乗客が襲われる。
決断が必要だった。
「うわああっっ」
通路入り口近くで魔物が暴れていた。今向かっても間に合わない。
万事休すと思ったとき、魔物が胴を貫かれ地に落ちた。




