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地獄のトンネル事故現場

 爆発して扉がテル達の方へ倒れてくる。


「良し!」


 扉が倒れるのを見て慣性を上げるテルだが、すぐに黙り込む。

 目の前から白い煙が入ってきて視界を奪う。


「換気扇を用意しろ! 煙を押し返して避難路を確保するんだ!」


 テルは付いてきた隊員に指示すると前に走っていって事故現場を確認した。


「ひでえ」


 思わずテルは呟いたのも仕方なかった。

 目の前の光景は地獄絵図と言って良いだろう。

 トンネルは二重構造になっていて上を新幹線と在来線が、下を広軌鉄道が走っている。

 そして所々、広い大空間があり、そこは鉄橋でトンネルとトンネルを結んでいる。

 事故を起こした新幹線が脱輪して、外れた車両が、トンネルの入り口にぶつかり、下の広軌鉄道の鉄橋に落下している。

 しかも、ギアボックスからオイルが漏れて火災を起こしている。

 運悪く広軌鉄道を走っていた貨物列車は事故現場へ突っ込んでしまっている。

  照明が付いていないことから変電装置もやられているため、トンネル内の他の列車、現場近くの新幹線車両も動かすことは出来ない。


「新幹線の車両へ行って、生存者を探せ! 周囲も確認して確保した避難路に誘導するんだ」


 テルは付いてきた救助隊員に命じて停電で停止した車両に駆け寄る。

 火災を起こしている車両は後回し。

 消火の道具など持ってきていない。

 助け出すだけで精一杯だ。


「車両が変形して扉が開かない。魔動鎧でこじ開けろ!」


 魔力を力に変換するパワードスーツである魔動鎧を着た隊員が列車に近づいていく。

 アルミ製の車体に爪を突き立て扉を引き剥がして脱出路を確保した。


「さすが」


 元々はテルの妹が非力なテルのために作り上げた物だが、使用者の魔力をあっという間に吸い取る上に力が過剰。試運転の、時暴走して山に突っ込み魔力切れで気絶して生き埋めになった。念のために救急用に内蔵させた酸素ボンベのお陰で酸欠は免れ、クラウディアをはじめとする他の兄弟姉妹が山を吹き飛ばしてテルを助けなければ危なかった。

 だからテルは二度と装着していない。

 しかし、魔力の大きい勇者やそれに準ずる人間には圧倒的な力を与えるために特殊装備として軍の一部へ製造配備されている。

 古巣の空挺軍にも航空機に乗せられるほど小型かつ軽量でありながら攻撃力が優れているため、配備されている。

 今回の事故では狭いトンネル内での作業に使えると判断して持ってこさせた。

 見事に役に立ってくれてテルは嬉しい声を上げた。


「急いで誘導しろ!」


 人は緊急事態、生死に関わる事態に陥ると精神の平衡を保つため正常性バイアス――自分は大丈夫だと思い込み死の恐怖から発狂するのを防いでいる。

 そのため、火災現場で火が近くに迫っているのにのんきに見ている見物人が出てくるし、巻き込まれる人間も出てくる。

 事故現場でも同じで留まっていた方が良いと考えて、事故現場近くに残ってしまう人がいる。


「救助隊です! ここは危険です! すぐに避難してください!」


 テルは可能な限り叫ばせて危機感を煽り、留まっていた動かした。


「避難は順調です」


「そうか」


 安心していると、下の広軌鉄道の方で爆発が起こった。

 新幹線のギアボックスから漏れたオイルが燃えだし火災を起こしていた。

 台車のギアボックスは巨大なため、大量のオイルがあり、火災でも燃え尽きず、流れ出してしまっていた。

 上の新幹線の橋桁から下の広軌鉄道へ雨のように降り注ぎ、レールと側溝を伝い広軌鉄道の車両の真下まで燃えながら広がっていった。

 しかも広軌鉄道の車両は標準軌の倍の三メートルの軌間であり、台車の大きさは容積で八倍。使用しているオイルの量も八倍だった。

 台車が炎であぶられて内部のギアオイルを加熱させ燃え上がらせる。

 さらに列車の種類も問題だった。

 停車していたのは貨物列車だったが、車運搬用車両、通称カートレインを繋げていた。

 車をそのまま車両に乗り入れて目的地まで運んで貰う車両で、険しく自動車用のトンネルのない大アルプス走破に使われていた。

 当然、トラックなどもそのまま入っている。走行用の燃料、軽油もしくはガソリンを積んだまま。

 外部の火災であぶられ内部の気温は急上昇。発火点を超えて燃えだし、車は爆発炎上した。


「畜生! カートレインか! 中の車が燃えだした!」


 事態をすぐに悟ったテルは叫んだ。


「車にしては燃えすぎじゃないのか」


 激しい炎を見てオスカーは尋ねる。


「その通りだ! 煙が異常に黒い、化学薬品も運搬しているな」


「普通危険物は運搬禁止じゃないのか」


「多分、書類を偽造しているか、黙認しているんじゃないのか」


「ひでえ話だ」


「人間がやることだ。手落ちに、不正や裏切りが起きても不思議はない」


 テルはしみじみと言う。

 父親の昭弥が私欲のために誘拐されたり、手ひどい裏切りが会ったことは聞いていたし、テルも兄弟姉妹の隠し事や善意の明後日への暴走で家が吹き飛ぶ事や悪魔召喚で出てきた悪魔とドンパチを経験しているだけにその言葉には、過剰なほど説得力があった。

 テルとオスカーが叫んでいる間にも火災は広がり、構造物を燃やし始めた。徐々に標準軌の支柱の耐久性を奪っていき、限界点を越えてしまった。


「崩れるぞ!」


 ついに耐えきれなくなった鉄橋が折れ、崩れてしまった。

 そのまましたの広軌鉄道を破壊し、更にその下の路盤を貫いた。

 そして開いた穴から、魔物、モンスターが現れた。

 黒い身体からコウモリのような翼を生やした鋭い爪を持つ生き物。


「ガーゴイル!」


 迷宮に住む典型的な魔物の名前をオスカーは叫んだ。

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[一言] 日本坂トンネル再び
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