現場へ向かう
「さて、とりあえず指揮権は確立したので、現場は救助を優先するようにお願いします」
「了解! でも人手が足りないぜ」
トンネル内は複数の車両が立ち往生しており、避難誘導に人員が足りなかった。
「保線区の人員を総動員しているが、足りない。応援を呼んだが来てくれるかどうかは不明だ」
責任者に人望が無いからではなく、事故でダイヤが乱れているため、救援部隊を編成して送り込めていない。
道路も一応あるが、RR上層部が勝手に送り込んだ復旧用の車両と人員が殺到してきているため、それらを捌くのが難しかった。
「人手が足りないから、来た奴は全て救出作業を命じているが、現場に強い連中が欲しい。それと、救出したお客様の保護のためにテントや食料が欲しい」
その時、多数のローター音が鳴り響いた。
軍のヘリコプターが次々と着陸し、保線要員を降ろしている。
「連絡トンネルに配属されたことのある人員を集めて空輸しました。彼らを使って誘導してください。他にも有用な人材が後から送られてきます。テントを始めとする支援物資も送られてきます」
「助かる」
責任者は笑顔で感謝した。
大臣としての権限で、軍務省に支援要請を出し、救援物資を輸送して貰っていた。
数は十分に足りているはずだ。トンネル内を走行する列車の平均本数と乗車率に余裕と予備を加えた数を割り出して送り込ませている。
救助対象の人数を素早く計算して指示を出せるのは、テルの資質といえた。
当然、救助にあたる救助隊員の支援も抜かりない。
現場が上手く回っていることを確認したテルは宣言した。
「じゃあ僕は出発します」
「どこへ?」
テルの音馬に責任者は驚いた。
「スペース三号の残っている現場ですよ。この近くに広軌鉄道と反対方向へ向かう新幹線が停車しているでしょう」
現場に近く、救助要員が送り込めていない重要な場所だとテルは判断した。
「だが、危険だ」
「他に行ける人がいるんですか?」
「でもな、大臣を行かせるとなると」
「実習で何処に何があるか知っています。それとも他に適任者が」
「俺が」
「複数箇所ある救助現場の全体調整を誰が行うんですか? やってくる要員の人員配分を決められるのは保線区の責任者だけですよ」
「それなら大臣として事故の後対応をしろよ」
「お客様を放っておけと」
責任者にテルは真っ直ぐ瞳を向けた。
最後に責任者は折れた。
「……ああ、もう勝手にしろ。救援要員を何人か割いてやる」
そう言って手近な人間を呼び集めてくる。
こうなったテルが頑固なことは実習の間に知っている。
それがテルの悪いところであるが良いところであり、責任者も好んでいた。
「ありがとうございます」
お礼を言ったテルはモーターカーに乗り込み、トンネル内に向かった。
そして立ち往生している車両にすぐにぶつかった。
「これ以上は進めませんね」
モーターカーはレールの上しか走れない。迂回できるようには作られていなかった。
出来たとしてもこのトンネル区間の中は単線仕様で横を通り抜けるだけの空間もなかった。
「連結して引き出してくれ。こっちは閉鎖されたルートを使って救出する」
トンネル壁面にある横穴用の入り口を見つけたテルはモーターカーの運転士に命じた。
「危険です! ろくに地図も無いのに」
「大丈夫だ。一度入ったことがある」
鉄道学園時代、保線の実習で入ったことがあり、内部の構造は今でも鮮明に覚えている。
「陸軌車を借りていくぞ」
後ろから付いてきている陸軌車――車輪を装備した自動車で、レールの上も道路の上も走れる特殊車両で、車体下部に設けたジャッキとターンテーブルでその場で方向転換も可能だ。
いくつかタイプがあり、最も小型のタイプを持ってきた。
このタイプなら狭い通路でも走れるはずだ。
テルは持ってきた鞄を陸軌車へ移していく。
「そんなものを持って行くのか?」
鉄道省を出てきたときから気になっていたオスカーはここぞばかりに尋ねた。
「使う必要が無ければ良いんだけど、念のためにね」
テルは鞄を乗せ、付いてくる隊員に指示を終えると通路の扉を開き、小型車を方向転換させ、救助隊員を呼び乗り込んだ。
「急ぐぞ! 出発だ!」
テルは自ら運転し、かつて点検用に使われていた通路への扉を開けて内部へ入っていく。
幾度も使ったために地図がなくても正確に事故現場へ向かっていくことが出来た。
「クッ 扉が錆び付いて開けにくい」
扉を開けようにも、使われていなかったため蝶番の部分にサビが出来て開けにくい。
強引にこじ開けていくが奥へ行くに従って、扉が重くなっていく。
「ダメだ! 開かない」
だが現場へ至る最後の扉が開かない。
さびているのか事故の余波で扉が変形して開かないのか分からない。だが開かないことだけは確かだ。
「退避しろ! 爆薬を使う!」
テルは、持ち出してきた鞄の中から、粘土のような爆薬、プラスチック爆薬と雷管を取り出す。
鉄道学園の実習と軍隊時代に爆薬を使った経験があるテルは手早く扉の蝶番とロック機構の位置に爆薬を仕掛けていく。
電気信管に導線を接続して壁の裏に避難して点火装置に付ける。
「点火するぞ! 対爆姿勢をとれ!」
付いてきた救助隊員が、全員爆風を避けるため壁に張り付いているのを確認してからテルは叫んだ。
「点火」
テルはスイッチを押した。




