表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
652/763

再統合への問題

「分割された会社を一つに纏めるのか?」


 オスカーは確認するようにテルに尋ねた。


「帝国全土を結びつけるのに、物流を効率よく行う為に必要だ」


「大きいと効率悪いだろう」


 国鉄が分割された理由は巨大すぎて管理が行き届かなかったからだ。再統合するとなれば、その点を問題にされるのは目に見えている。


「だからといって動脈を分割したままだと、それぞれの鉄道網ごとに分裂することになる。古代帝国分割と滅亡、その後の暗黒時代を繰り返す事になるぞ」


 かつてリグニア帝国は一都市国家だったがリグニア海周辺に覇を唱えるまでに勢力を拡大した。

 しかし、拡大しすぎたために各地で問題が発生した。

 帝都であるリグニアからの指令を仰ぐには時間がかかりすぎた。

 そのため、各地に諸侯、総督を送り中央にお伺いが不要なほどの大きな権限を与えた。

 確かに効果はあったが、リグニアの指示、支援が不要な存在となり、次々と独立していってしまった。

 帝国は分裂し、王侯貴族がそれぞれの領地を巡って争う中世暗黒時代に突入してしまった。

 整備された街道は荒れ果て、人々の交流、物流は途絶え、帝国としての機能はなくなった。

 ようやく大帝が現れ再統一に数百年が必要だった。

 以来帝国は中央集権国家として基盤を固めようとしていた。

 国鉄が国家の中の国家として存続できた理由も、帝国の発展に寄与していたのが大きな理由だが、大動脈である鉄道を分割しては再び帝国分裂の悲劇を繰り返すのではという、恐怖もあった。

 それだけ国鉄が帝国と同一視されている証左であったが、急激に拡大する国鉄への反感や、分割されることで得られるポストを狙っている勢力が多く、分割されてしまった。


「父さんも民営化しても分割はしないって言っていたし、防ごうとしたんだけどね」


 転移前に分割された自分の国の鉄道、一見発展しているように見えているが長距離列車が少なく、利便性が減っているように見える鉄道。

 リグニアに同じ思いはさせまいと必死に分割を止めようとした。

 だが昭弥が亡くなってしまったために国鉄は混乱。

 巨大すぎる国鉄を維持するには昭弥並みの人望と能力、知名度を持った存在がいなかったことも大きかった。

 ヨブ・ロビンのような大臣としては無能な人間が現れるのを恐れていた事もあり、残された人間が滞りなく、鉄道を動かすには国鉄は巨大すぎたこともあり、各人が滞りなく動かせるレベルまで分割するしかなかった。

 分割派が元老院へ多数派工作を行ったこともあり、国鉄は解体、分割民営化されてしまった。


「それに国鉄は元々単一だからこそ利益を出せていたんだ。各地と結ぶ列車を設定し、全国でプラスにする。一つ一つの支線は赤字でも、繋がる本線で黒字、いや支線から流れ込んでくる物流で本線を黒字にしていた。他にも様々な周辺事業、住宅、観光、産業開発で儲けていたんだ。地域ごとに分割して見たら赤字でしたというのは当たり前だ」


 一本特急を走らせても乗ってくれる人がいなければ儲からない。

 そこで、旅行会社に頼み、旅行パックや出張の手配代行を頼む。

 鉄道を建設するだけで無く、駅周辺にホテルやデパートを作ったのも、そこを駅を訪れたお客様に使ってもらい、売り上げを伸ばすためだ。

 それが、分割されたことで長距離列車、販売額が多きく利益の見込める商品が無くなってしまった。

 都市部という短距離で大勢の人を運ぶという非常に大きな商品があるお陰で巨大な利益を出すことが出来ていたが、本来十分に商売になるはずだった事業が無くなり、売り上げが減っている。


「会計基準を変更すれば、周辺事業でかなりの儲けが出るはずだ」


「だが分割化された会社を纏めるのは困難だろう。利益を出している会社もある」


「RRアルカディア・チュニスが問題なんだよな」


 最大の勢力はアルカディアとチュニスの路線を運営するRRアルカディア・チュニスだ。

 ここは、新帝都であるアルカディアと裏玄関であるチュニスを持っており、両都市の都市交通とその間を結ぶ都市間交通で絶大な収入を得ている。

 特に大アルプス峠を通り抜ける連絡トンネルは、リグニアの物流を支える大動脈で貨物会社が多数の列車を通らせており、通行料だけでも収入が凄い額になっている。


「感染症で打撃を受けているとはいえ、元々の収入と交通需要が大きくてRRの中でも大きく、成功例の筆頭だ。再統合になれば絶対に反対する」


 国鉄時代からドル箱で、アルカディアを筆頭とする高収入源から辺境へ予算を回す事だえ鉄道網を拡充していた。

 辺境へ金を出す必要がなくなったので、利益が大きくなるのは当然だった。


「他にも大都市圏を持つRRは反対するだろうな」


 感染症で人出が少なくなって収入が減っていてもエッセンシャルワーカーの輸送や、消費地への物資輸送で貨物から通行料を得ている。

 辺境で極端に路線が長くて利用者が少ない場所で赤字だらけのRRは国の補助金目当てに賛成するだろうが、収入源がないのに補助金を出すことは出来ない。


「何か方法はないか?」


「統合することで利益がある事を示せれば良いんだが。思いつかない。あとは困ったことがないと無理だな」


 テルは呟いたとき、緊急連絡が入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ