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アナログなGAFA

 テルはオスカーに持論を展開した。


「人口希薄と言うことは、それだけ土地が余っている。その分土地が安く買えるからな。大工場を作るのが楽だ。安く出来た工場に産地から鉄道を使って原材料を運び込み製品を鉄道を使って大消費地に出荷すれば良い。旅客が減っていても貨物でやれる。市街地に囲まれてしまった工場も出荷に便利な港周辺を除いて、内陸部へ移転させれば良いんだ。空いた土地は住宅街にして売り払えば儲かる」


 もしテルの話を昭弥が聞いていれば、開拓時代の米国か、タワマンの建設著しい武蔵小杉を例に挙げただろう。

 武蔵小杉は昔は川崎などへ工場製品を出荷する工場が立ち並んでいたが、徐々に市街地化していき、工場が移転。

 複数の路線が交差している利便性がデベロッパーに見いだされ、次々とタワマンが建設され人気の町になった。

 急激な発展で問題が出ているが、工場の町から市街地に変わった典型的な例だ。


「でも貨物はトラックに奪われているだろう」


 オスカーは指摘した。

 いくら工場を郊外に移転させても、トラックに奪われたままでは貨物の復権はない。


「確かにトラックの方が機動性が良い。好きな時間に、道路さえあれば自由に運ぶことが出来る。だが、長距離は鉄道の独壇場だ」


「けど、貨物は酷い成績だぞ。有利には思えないが」


「さっきも言ったとおり、鉄道路線が寸断されているんだよ。それに貨物会社は全くといって良いほど自社路線を持っていない」


 貨物会社は、操車場とそこへ通じる連絡線以外に自社路線を殆ど持たない。


「だから、旅客会社の線路を借りているんだが、赤字路線を抱えるのを嫌がっていて周辺部ほど、他社への接続線を廃止しようとしている」


 貨物会社は列車を走らせる時、利用料を支払って旅客会社に線路を借りる。

 だが、その路線の一部、特に大都市から大都市へ向かう路線の途中の山間部や会社の境界線近くを廃線や第三セクターへ切り替えている。

 線路が寸断されているため、長距離を走る列車を設定できず、貨物のドル箱である長距離列車を設定できず減っている。

 更に旅客会社が自社の列車を優先しているため、大消費地である大都市への貨物列車運転に大きな制約が出ているためだった。

 しかも、複数の会社が乱立しており利用料が会社を跨ぐ度に初乗り運賃が掛かり、費用がかさむ。長距離になるほど、複数の会社を跨ぐため、利用料が高騰するという悪循環に陥っている。


「それでよく鉄道会社に利益が出るな」


「旅客で利益が出るように仕向けたらそうなっているんだよ。貨物より大都市圏で旅客列車を運転している方が利益が出ているからな。まあそれも疫病のせいでお終いだが」


 人口密度の高い都市で流行しやすい感染症のため都市封鎖や外出禁止令が出ており、人出がなくなった旅客列車の収入はゼロと言って良い状態だ


「それでも減るのが多すぎないか? 他の関連企業の業績も下がっている」


「国鉄の時はソフトで利益を出していたからな」


「ソフト?」


「人が買いたくなる商品だよ。特に高付加価値の商品は額が大きいだけに利益が大きい。それが無くなった」


「どうして?」


「国鉄は徴税の代行もやっていたんだよ」


 帝国中に鉄道網を張り巡らせた国鉄は事実上のネットワークを作り上げていた。

 そして鉄道の駅は人、物、金が集まる場所のため税金の徴収も簡単だった。

 だから、徴税業務を一部、国鉄が駅で代行していた。


「横領していたのか」


「まさか、手数料も格安でやっていたよ。けど納税者のデータを貰っていたんだ」


「なんで?」


「高額納税者というのは金持ちと言うことだ。彼らが喜びそうな商品を開発して売り込んでいたんだよ」


 昭弥が源泉徴収を行ったり印紙収入を増やしていた理由はそこだった。

 大規模な納税者リストを統計的に分析して、彼らがどのような商品を必要としているか知り、それを鉄道事業と絡めて利益が出るようにしていた。

 つまりアナログなGAFA、それも全てを足し合わせたような存在が国鉄だったのだ。

 個人情報保護? 何それ美味しいの? なレベルのリグニアの帝国民の情報リテラシーにより特に問題視されることは無かった。

 それを良いことに昭弥は結構派手にやった。

 ただ、昭弥の名誉のために言っておけば、納税者データで所得の少ない貧困層を見つけて彼らの多い地域に工場を建設して職を斡旋したり、教育を施したりして豊かにしていた。

 市街地から郊外へ工場移転を促進していたのもそのためだった。

 国民の利益になったのも間違いない。

 安い賃金で雇えるという側面もあるが、雇用が生まれたことで低所得者層が貧困から脱却できたことも事実である。


「他にもいろいろとデータを集める事業があったんだ。でも徴税などのそれら事業も民営化によって国家事業を民間に任せることが出来ないから分離してしまった。それ以降は活用できなくなり、収入が減っているんだ」


 そして情報の必要性、有効性を理解していない連中によって分割された国鉄は持っていたネットワークを切断されスタンドアローン状態の鉄道会社が多数出来た状態になってしまった。

 最初こそ各社は惰性で利益を確保していたが、徐々に他の産業に客を取られている状況だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大陸なのに日本みたいですね。アメリカだとたとえ会社跨いでも貨物天下で旅客は後回しですが。 旅客偏重なのは日本式で町含めて造っていったからかな?あとパナマが無いからかな?
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