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大臣へ

「ううっ」


 血清を注射された瞬間、テルはうなり声を上げる。


「テル!」


 部下が駆け寄るとテルの体は熱が上がっていた。


「なに……副作用か……抗体が暴れているだけだ。じきに……良く……な……る……」


 そのままテルは高熱で意識がもうろうとなり寝てしまった。

 テルの酷い熱は一晩中続き、部下達を狼狽えさせた。

 しかし夜半過ぎには熱が下がり始めテルは徐々に回復していった。


「何とか効いたみたいだ」


 昼過ぎには平熱に下がり、食欲も出てきて遅めの昼食を食べ始める。


「食い過ぎじゃないのか?」


「腹が減っているんだ」


 朝食を抜いたためか一人前をテルは平らげた。

 もう少し食べたいと思ったが、体が衰弱していることもあり消化器に影響がないよう食事を制限する。


「だが、お前が治ったんだから治療法が見つかったな」


「あんまり良くないんだよね」


 楽観的に言うオスカーにテルは否定的だった。


「何でだよ」


「見ただろう。血清を注射された後、高熱になったのを。体の中に異物を入れるから体の免疫抵抗が激しいんだ。で、薬効のある抗体は少ない。今回は運が良かった。帝国全土で行うとなると、副作用や高熱で亡くなる人が多いと思うよ」


 繰り返すが血清療法は、有効な抗体が少ない。

 抗体の純度を高める必要があるが、その方法は未だ研究途上だ。


「まあ、若い人達とか体の頑強な人達には効きそうだけどね。最終手段くらいには使えそうだ」


 何もないよりマシという程度だが、治療法が見つかってテルはほっとした。そして、思い出すように尋ねる。


「それで、町の方はどうなっている?」


「封鎖は進んでいますが」


「どうした?」


「他の町でも、帝国各地で感染者が出ています」


「どうしてだ! 封鎖したんだろう」


「工場の操業を停止したために一時解雇された工員達が故郷に戻ってしまいました。鉄道も運転停止措置をとっていません。それどころか旅客需要増大のため増便していました」


「待て、疫病が発生したら運転停止だろうが」


 例え、感染力が低くても、短時間で帝国各地へ行ける鉄道は、疫病を流行させてしまう恐れがあるため、疫病が発生した地域への運転を制限、中止を行うように決められていた。


「鉄道会社が民営化したために国の直接命令は下せません。全ては会社の決定で決まります」


「皇帝の非常大権があるだろうが」


「過剰に使用するのは不適当と判断しています。それに鉄道に関しては、手を付ける方ではございませんので」


 父親である昭弥が鉄道に対して異常なほどの情熱と行動力を発揮していたため、母親であるユリアは鉄道への口出しを一切していなかった。

 それは現在でも続き、疫病が起きても停止を命じなかった。


「兎に角、停止するように報告書と具申を」


「おい! 石田准将! どういうことだ!」


 そこへ領主が入ってきた。


「私の領地を封鎖するとは何事だ!」


「疫病が流行しているのです。帝国全土に広がらないように封鎖する必要が」


「たかが風邪だろう。重症者も死者も少ないし、そこまでする必要があるのか」


「確かに報告では重症化は二割にも満たないし死者も感染者の五パーセント未満の疫病でです。しかし感染力が高くて多くの人に罹患していまいます。帝国の人口の二割が感染し、五パーセントが亡くなるとなれば、到底看過できません」


「下等な貧民がいくら死んでも帝国は揺るぎはしないであろう」


 その言葉にテルはさすがに切れた。


「ふざけたことぬかすな!」


「なんだ、ただの帝国軍人の癖して貴族に逆らうのか!」


「疫病はやらせるような、対策もできない、いや、どれほどの重大事かを理解できない奴が貴族になって貰いたくないわ! この領地に戒厳令を敷いて封鎖する!」


「貴様にそんな権限はないだろうが」


「ならその権限のある地位に就いてやるわ!」




「やりすぎたな」


 自分の大臣任命式を終えた後、控え室に戻ったテルはメディオラヌムでの事を思い出し呟いた。

 領主への怒りからとはいえ、言い過ぎだった。

 怒った領主がテルに暴行を加えてきて返り討ちにして病院送り一ヶ月にしたのも反省している。


「ですが引き返さないのでしょう」


 テルの副官であり執事であり友人であり、油断ならない存在であるレイが言う。


「まあ、そうだね」


 責任ある地位に就いてやる、というテルの発言を真っ先に報告したのがレイだ。

 そのまま皇太子にという話にまで膨れ上がってしまった。

 しかし、帝国全土を治める術など知らないテルは、皇太子は手に余る。

 かといって軍務大臣もあまたいる先任者の上に立つのは憚られる。

 ならば幼い頃から親しみ、一時期鉄道学園に在籍していた事もある鉄道大臣にと、言って認められた。

 昭弥が、テルの意思を尊重していたこと、あまり皇族としての仕事をやらせなかった事もあり、認められた。

 ただユリアはテルが功績を立て、大臣の仕事に慣れたら、いずれ宰相、皇太子にと考えていた。


「まあ、兎に角、大臣として頑張るよ」


 そう言ってテルは、鉄道大臣の部屋に向かった。


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