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労働団体の反発

 ヨブ・ロビンによって赤字会社と化した国鉄。

 これを改善する為に昭弥は日々改革を推し進めていた。

 自分で作った国鉄だが改変されていたり、時代に合わなくなっていた部分もあり、改革を進めなければ成らない状態に陥っていた。

 そんなある日、昭弥の元に問題が持ち込まれた。


「改革が進んでいない?」


 報告してきたのは国鉄理事の一人に任命したティーベだった。


「どういう事なんだい?」


「合理化で必要な人数が減ってきているよね」


 動力近代化によってディーゼル機関車と電気機関車が増えたことで、蒸気機関車に乗務していた投炭担当の機関助士が不要となり機関士一人での勤務が可能になった。

 また電気機関車とディーゼル機関車は蒸気機関車より整備が容易だ。材料の向上もあるが、ピストンからモーターに切り替える事によって摩耗する部分が少なくなったため整備が簡単になり必要な人員が減った。

 日本国鉄では動力近代化によって、蒸気機関車を淘汰しディーゼル車両と電気車両を導入した結果、それまでの半分の職員で回すことが出来るようになった。元から失業対策のため余剰人員を抱えていたとはいえ、絶大な効果だ。

 また魔導式の自動改札が導入されたお陰で駅員の数を減らすことが可能になり、多くの駅員が余剰として待機している。


「その合理化によって余った人員をどうするんだい?」


「配置転換だね。足りない部署や職場に配置する」


「その再配置を拒絶しているんだよ。異動を嫌がっている。特に支社採用の人達が嫌がっているんだ」


「そうだろうな」


 国鉄では二種類の採用方式がある。

 一つは本社採用で幹部管理職はここで採用している。リグニア全土へ配置され時に最東端から最西端へ配置されることもある。

 本社内および全国レベルでの仕事を期待されており、現場の実情を知るために全国へ異動がある。職域も広くゼネラリストとしての活躍が求められる。

 専門職――スペシャリストになれば別だが転勤は普通だ。

 二つ目は支社採用で主に現業の人々、現場で活躍する人々だ。

 地元の支社が独自に採用する区分で、その支社内の部署に配置される。短期の出張や研修で支社外に行く以外はその支社の中でしか配置転換はない。


「確かに他の支社に配置換えは嫌か。本社採用に移る人も多いから大丈夫かと思ったんだけどな」


 支社採用でも試験を受ければ本社採用に変わることが出来るし、事情があって本社採用の人が支社採用に変わることも出来る。

 流動性を確保することによって組織の効率化を昭弥は図っていた。


「現業で移る人は少ないよ」


 男なら上を目指す、という上昇思考の高い人もいるが地元で、配属された職場でそのまま続けたいと考える人もいる。


「支社採用は支社内の地域に詳しいから採用した人も多いから余計にか」


 現場ではどうしてもマニュアル化できない部分もあるし、地元との関係や風習に詳しい人間が必要になる。そのため地元に詳しい地元の人を採用する傾向にある。


「だが、機動駅員隊を始め予備の人員も過剰に配置されている。待機員や半給を考えても余りすぎなんだよ」


 鉄道員の職務は過酷だ。駅員の場合基本は二四時間配置で朝のラッシュ後に交代する。その間は休憩と仮眠が入るが、駅に二四時間入る。

 余りにも過酷なので昭弥は余った人員を用いて一二時間勤務に出来る様に改革した。

 また、列車の乗務員でも正規の乗務員の他に万が一の事件や事故、急病に備えて待機要員を運転区に配置するなどバックアップを用意している。

 これらは有給休暇を取りやすくする環境整備だ。多少のしわ寄せが出るのは仕方ないが、最小限に抑える為の方策だった。

 以上の件に関しては昭弥はかなり自信を持って導入したのだが、合理化によってそれでも人が余っている状況だった。


「公安官や車掌、案内などのサービス要員への配置転換はサービス向上にも必要だ。それに足りない部署へ配置転換する必要も出てくる」


 更に問題だったのは支社毎に余剰人員と欠員の差が大きいことだ。

 ある支社では人がやたら余り、隣の支社では人が足りない事がある。

 特に大都市部では人が足りない状況が続き、余っている地方から人を引き抜かなければ調整できない。

下手に新規採用すると配属ポストが少なくなり、後々多大な影響が出てくる。

 何時まで経っても昇進出来ない。職場関係が固定される。鉄道学園で学生が増えてしまい綿密な教育が出来ない。人件費増大。配属されても仕事がなくて無為な時間を過ごしてしまう。

 人が多いに越したことはないが、人を活用する方法が無ければ雇う方も雇われる方も困ったことになる。

 暇だから良いという人もいるが、希望を持ってきて入った人達にとっては拷問に近い。


「人員の異動は必要不可欠だ」


「だが、労働組合が反対の抗議活動を行っているよ」


「あー、頭が痛い」


 給料アップ、待遇改善、首切り反対、越境配置反対などを叫び、ストを行うと脅しを掛けてきている。

 国鉄は沿線開発を行う為、半民半官の特殊会社となっている。だが、帝国のインフラを維持するためにストは禁止されている。

 そのスト権を求めて労働団体は強く抗議に出ている。


「しかし、なんでこんなに労働団体が出来ているんだ? 殆どの鉄道員は皆素直なのに」


 国鉄には労働者の互助組織として鉄道共済会を作ってある。職員やOBへの福利厚生を行い時に就職斡旋などを行う。

 そこから別の労働団体が出てくるなど想定外だ。


「ヨブ・ロビンと君の責任だよ」


「どういうことだよ」


 ティーベの言葉に昭弥は反発を覚えた。

 前任のヨブ・ロビンが鉄道に対して改悪とも言うべき制度改正を行ってきたことは知っている。

 しかしそれに昭弥も加担しているように言われるのは心外だった。


「確かにヨブ・ロビンが就任した段階でも有能な幹部は多かったよ。でもヨブロビンに左遷されたり解雇された。それを君はどうした?」


「チェニス田園鉄道で引き取ったよ」


「そう。彼等は人望もあり多くの優秀な部下に慕われる人間だ。そんな人の元に行きたいのが人情だよね。君はどうした?」


「当然引き取ったよ」


「そんな事が続くと国鉄はどうなる」


 ティーベの言葉にようやく昭弥は合点がいった。

 チェニス田園鉄道が短期間で大規模な私鉄に拡大したのは優秀な鉄道員、昭弥に鍛えられた元国鉄職員が殆どだからだ。

 新人もいたが、国鉄からのベテラン、修羅場をくぐり抜けた猛者共、中にはルテティア王国鉄道以来の職員もいる古強者の教育を受けて短時間で戦力化してしまう。

 新人達の熱意も高かったが、経験に裏打ちされ必要な技術のみをベテランが教え込むので直ぐに仕事が出来るようになった。


「で、ベテランの居なくなった国鉄は技量が劣る連中しか残らない。彼等が管理職や運転士になる。当然効率は低下する。昭弥が強固なシステム、誰でも使い方が分かれば運転できるように業務に支障が出ないようにマニュアルを作っていたり、機械化、自動化していたために低下は避けられた。だが、技量もモラルも落ちていった」


 昭弥は技術重視の思考を持っている。

 マニュアル通りに動かせば誰でも同じ事が出来るのが技術だ。

 現代日本で梃子を使って岩を動かす事が出来るのなら、月面でも、異世界でも通用する。梃子を使えば誰でも、身分や老若男女を問わずに出来る。

 誰がやっても出来で同じ結果になるのが技術だ。

 その技術の集積が製品であり、鉄道だ。

 誰が使っても同じように運転できる。

 勿論、運転の癖、技量――運転への習熟度などは個人差があり運転の仕方に出てくるが、止まる走るの基本は誰でも出来るし、定位置への停車も出来る限り、要点を押さえたマニュアルを作っている。

 停止位置、減速場所、加速場所を示す標識を建てたり、一定間隔で電柱を立てて距離と速度を目視で確認できるようにしたりなど、安全運転が出来る環境を前の国鉄総裁から整えている。

 だからこそ、技量が劣る運転士でも何とか運転できる。

 だが、チェニス田園都市で鍛え上げたベテラン共には敵わない。

 何より優秀な新人は待遇の良い私鉄の方へ流れて行く。

 結果、国鉄には私鉄に比べて二流三流の人材しか集まらない。一流は、ヨブ・ロビンの政策に辟易して短期で退職してしまう。

 残された人員はヨブ・ロビンの甘い汁に群がれる一部を除いて酷い環境に置かれた。

 私鉄に転職しようにも、腕が無いので落とされてしまう。

 そのため国鉄内部に残り団結し、労働団体を結成した。

 何より、転職していった人員の穴埋めと地方路線拡大による人材需要を満たすべく、大量の人員を採用した。

 その中に共産主義者やそのシンパが大量に入っていた。

 勿論思想調査などもしていたが人材不足の為に、主義者さえ採用せざるを得なかった。


「お陰で国鉄労働組合は帝国最大の労働団体になっているよ」


 百万以上の職員数を数えるリグニア国鉄は軍隊に次ぐ規模を持つ。

 その中の一割ほどが組員だとしても恐ろしいほどの勢力だ。


「彼等を無視する訳にはいかないよ」


「とりあえず、近くの支社の労働団体と話してくるよ」


 不安を感じながらも昭弥は、現状を確認する為に現地に向かった。

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