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貨物新幹線

「今は赤字を防ぐのが必要なんやないの?」


「確かに必要だけど増収策も考えないと詰む」


 鉄道に限らず経営は収入を増やし、支出を減らすことで成り立つ。

 経費を削減すれば利益は増えるが収入は増えない。


「長距離の旅客と短距離の貨物が徐々に減ってきています。これまで鉄道のシェアが殆どだった場所も減り始めています。ここで収入を増大させないと危険です」


 技術の発展により自動車と飛行機の台頭が著しい。

 より速くより遠くへ<経済的に>行けるようになった自動車と飛行機は鉄道の牙城を徐々に崩している。

 長距離運転が可能なトラックが開発されたのと高速道路網の整備により、これまでより長い区間を走れるようになったトラックは短距離の貨物を奪っている。

 より速く飛べるようになった飛行機は長距離列車の客を奪っている。

 これまで一〇〇キロ~一五〇〇キロほどの範囲内では優位に立っていた鉄道だが、徐々に範囲を狭めている。

 現代日本では鉄道が圧倒的優位な距離は三〇〇~五〇〇キロと言われており、それ以下だと自動車、それ以上は飛行機が優位と言われている。

 勿論それ以下の距離でも鉄道が優位な場面はあるが、殺人的な利用者の集中ある大手私鉄のような状況でなければ成立しない。

 よって昭弥が新たな収入源を作る方法を考えなければ、飛行機と自動車にシェアを奪われて国鉄が赤字になってしまう。

 新たな収入源を考えなければならない。


「新幹線に新型車両を投入する」


 これまで新幹線は開発当時の車両のみ使用していた。

 しかし、当時の技術では加減速性能が良くないので、所要時間が短縮しない。

 そこで加減速をよくした上で、更に最高速度をアップした新型車両を投入して、新幹線の競争力を高めようと昭弥は考えた。


「新型新幹線かいな。それなら上手く行きそうやな。でも旧型の車両はどうするなんや、まだ減価償却も出来てへんやろ」


 長期に渡って使用する固定資産の支出をその資産が使用できる期間にわたって費用分配する方法を減価償却という。

 車両は初年度に購入費が発生するがその後、長期に渡って収入を得るがあとは運転経費のみだ。

 実際の金の流れはその通りだが、運用上車両の購入費を含まないと黒字になっているか分からない。

 例えば一両一億円の車両を購入し、毎年一〇〇〇万円の運転経費が掛かるとする。

 初年度に購入費用として一億円さらに運転経費で一〇〇〇万だから合計一億一〇〇〇万。しかし翌年度以降は一〇〇〇万しか支出しない。

 もし、収入が一五〇〇万円であれば初年度は九五〇〇万円の赤字で、二年目以降は五〇〇万円の黒字だ。

 だが、これでゃ購入したメリットがあるかどうか毎年度分からない。

 そこで減価償却で購入費を各年度に割り振る。

 一〇年で償却するとして一億割る一〇年で年間一〇〇〇万円を減価償却として各年度に経費に振り込む。

 すると経費は運転経費と減価償却の合計二〇〇〇万で収入は二〇〇〇万以上でようやく黒字だと分かる。

 よって収入が一五〇〇万だと赤字である事が分かり、更なる収入増が必要と分かる。


「減価償却前に廃棄するのは帳簿上厳しいで」


 毎年分散している減価償却費だが、償却前の車両を廃棄すると廃棄した年に残りの償却費を全て計上する。

 購入費一億、減価償却十年の車両を製造六年で廃棄したら残り四年分の四〇〇〇万がその年に償却費として計上されるため、経費増大。下手をすれば赤字である。

 鉄道車両の減価償却は一三年ほどなので十年に満たない車両が大半の新幹線車両を減らすと減価償却が重くのしかかる。


「いや、廃棄はしない。活用する」


「性能の違う電車が走るのは厳しいと前に言わんかったか?」


 加減速が違うために、遅い列車に合わせて運用しなければならないため、ダイヤ編成が良い物にならない。

 東海道新幹線で旧式の新幹線車両がまだ使えるのに七〇〇系を除いてことごとく廃車になったのは七〇〇系の加減速度に付いていけないのが理由の一つだ。


「ああ、性能が異なると安全の為に間隔を広げなくてはならないから密に運用出来ない。だから時間をずらして運用する」


「時間をずらしても利用客は居るんかいな?」


「旅客じゃなくて貨物にする」


 昭弥の言葉にサラは目を点にした。


「まっとくれや昭弥はん。確か新幹線は速すぎて風圧が酷くコンテナが積めないといわへんかったか」


「ああ、空のコンテナは特に危ない」


 コンテナはその構造上車体に固定されて居らず、簡単に動いてしまう。トンネルすれ違いの時の風圧の変化は特に危険で青函トンネル内における新幹線の運用に著しい制約を加えている。


「だから車内に積み込む」


「あのデカいコンテナを車内に積み込めるんかいな!」


「長さを半分にした特別なコンテナを作り上げて運べるようにする。長さが半分だから田のコンテナ車にも簡単に積める」


 リグニア国鉄では二四メーター、一二メーター、六メーターのコンテナを標準としており、長いコンテナのスペースに短いコンテナ二個を積み込めるようにしてスペースを作っている。

 今回は三メーターのコンテナを新たに作り上げて積み込もうというのだ。

 丁度、飛行機の貨物コンテナと同じ形式だ。


「貨物の方からもっとコンパクトな規格を作ってくれと依頼されていたから丁度良い。この小さめのコンテナを座席を取っ払った新幹線の車内に入れて運べば荷崩れはしない」


「積み込めるんか」


「三メートル幅の扉を取り付けるのは難しいがやれないことはない。貨物駅だけで使うから問題なし。減価償却も既存の車両の改造だから加算されることはない。新造よりも導入費用が安く済む」


 新しく車両を作ると製造費が掛かるが、改造ならば既存の車体構造を利用できる、特に値段の高い台車を新造しない分安い。

 車体強度を維持するために基本構造に手を加えられず、設計に制約が加わるがリグニア国鉄の場合、車両限界ほぼ一杯に使用しているので問題なし。

 何より長期間の運転を考慮して新造時から堅牢に車両を作っているため改造しても十分に耐えられる。

 一時期は技術の進歩が早すぎるため、コスト半分、寿命半分の車両を作っていたリグニア国鉄だ。だ、車両の絶対数が足りないため、長期使用できる車両に製造の軸足を移していた。


「何より新幹線の有効活用ができる。利用者の少ない路線や時間帯に貨物新幹線を走らせれば収入アップにつながる」


 昭弥が国鉄を作った理由の一つに旅客と貨物の両立がある。

 ラッシュ時は旅客で収入を確保し、他の時間帯で貨物を走らせる事で双方からあ収入を得るのだ。

 日本の鉄道の場合、旅客に集中することで収入を確保しているが人口が過密で利用者の多い大都市圏でこそ成り立つ。

 しかし、長距離貨物ならばトラックよりも低コストなため内陸部への物流を確保出来る。空いている時間に貨物列車を走らせれば収入アップに繋がる。


「新幹線の路線は一部を除いて赤字だ活用しないと不良債権になる」


 何より昭弥は新幹線を金食い虫とみている。

 確かに新幹線は日本が生み出した奇跡の鉄道システムであり、世界の鉄道の救世主、高速鉄道という分野を切り開いた功労者だ。

 しかし、過密な都市圏を結ぶ、極論すれば東京~大阪間を結ぶのに特化していて他の路線での運用には過剰コストではないかと昭弥は疑問を抱いている。

 他の新幹線では赤字も多い。

 海外の場合も同様だ。高速鉄道専用の線路は多いが、日本と違い一時間に一本か二本という路線が多い。

 リグニアも例外ではなく、アルカディア~チェニス間と一部幹線を除く地方路線だと新幹線の本数が少ない。在来線へ相互乗り入れ出来る様にしているが、それでも少ない。

 何より旅客のみで貨物を運べないのがネックだ。


「そこで貨物新幹線だ。旅客の空き時間に貨物を載せて走らせる事によって利用率を上げて収入アップを図る」


 旅客の少ない夜間や昼間の時間帯に貨物新幹線を通せばラッシュを回避できる路線の利用率も高まる。

 召喚される前にある評論家の提言を読んでいて使えると昭弥は思い覚えていた。


「需要はあるんやろうか?」


「生魚とか生鮮食料品なら十分に需要があるはずだ。特に扶桑料理が人気になっているからね。生きた魚や冷蔵品を欲しがる人が多い」


 今でこそ異世界出身と知られている昭弥だが、前はトラブルを避けるために自分と同じ黒髪黒目の人々が住み文化も日本に近い東の扶桑出身と言っていた。

 そのため今でも昭弥を扶桑出身と勘違いしている人がいる。

 何より扶桑料理を食べて涙を流して喜んだ出来事をしり、昭弥に近づこうと扶桑料理を人々が好むようになってしまった。

 そのため特に刺身用の生魚の人気が高かった。冷蔵庫の量産もあり、需要はうなぎ登りだ。


「コストの方はどうやろうか? 高速移動で高すぎへんか?」


 貨物新幹線の欠点として輸送コストが高すぎるという点がある。

 通常の列車より速い速度で進むため、どうしても消費電力が大きく物流コストが高くなる。

 速達生を望む郵便以外はコストを安くするため速度を出さずに運ぶ事が多い。

 移動時間を短縮したい旅客は飛行機がメインで、長時間の放置にも耐え得る荷物ならコストを抑えるため船を使うのと一緒だ。

速度と積載量はトレードオフ。一方を得るために一方を犠牲にする関係であり、貨物新幹線がバランスの取れた輸送手段になるか、利益の出る事業になるかサラは心配だった。


「既存の鉄道を使うから初期投資は安く済むはずですよ。末端輸送に関しても既存のコンテナ列車を使う事が出来ます。貨物駅での仕分けが大変ですけど、十分に抑えられるはずです」


「まあ、そうやけど初期投資の資金はどないするんや」


「車両基地と操車場と貨物ヤードを売り払って手に入れます」

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