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新兵器

「隊長! 制圧完了しました!」


「隊長ではなくお頭と言え! 敬礼もいらん!」


「は! 申し訳ありません!」


 そう言って敬礼で謝罪しては意味が無いのだが、長年の慣習は抜けないものだ。


「もう良い。バリケードを作り、防御態勢を。敵は王都からやって来るはずだ。厳重にしておけ、イリノイも一応警戒のため準備だけはしておいてくれ」


「はい!」


 再び敬礼して下がっていく。


「山賊なんだがな俺たちは」


 溜息を付くが、昨日まではオートヴィル男爵家の私兵軍に居たのだから無理もない。

 私兵として雇われているとは言え、王国存亡の危機には正規軍や近衛軍と共に戦列を並べるので訓練を欠かしたことはない。それに、軍役は貴族の義務であり果たしているかを確認しに王都から軍監が派遣され訓練を見るので手を抜いていない。

 まして、領地を荒らす本物の山賊が発生しやすいので討伐に出る事も多く実戦経験も豊富だ。それも自警団にいた開拓民が食い詰めて山賊になるのだから、武器の扱いが上手い上に戦術も優れているので中々厄介な相手だ。


「なのにどうして俺たちが山賊をしているんだ」


 上官からいきなり除隊して、山賊をやれと言われてしまった。任務終了後は、必ず軍に復帰させると言うのだから。

 訳が分からなかったが、命令ではしょうが無い。報奨金も出ているのだから文句はなかった。


「隊長! 駅事務所に公子様、叔父上様は居られませんでした」


「何だと! 何処に連れて行かれた!」


「生き残った駅員の話では王都に連れて行かれたとのことです。鉄道公安隊が高等法院で裁くためと」


「くそっ」


 命令された、男爵の息子と叔父の奪回は出来なかった。貴族の名誉の為に奪回しろとの事だったが、無理になった。

 一通り悪態を心の中で吐いてから、頭を切り換えて任務に戻る。

 部下たちと共に王国鉄道の駅を襲撃して確保するのが第二の任務だ。


「防御準備の方は?」


「防御準備完了しました」


「よし、撤退用の馬も用意しておけ」


「はい」


 いずれにせよ。王国が動くはずだから、圧倒的な兵力で潰しにかかってくるはずだ。

 上官は、制圧したらほんの数日確保するだけで良いと言われているが、包囲される前に脱出するつもりだ。

 自分は貴族に雇われているのであって、王国とは何ら関係ない。雇い主の意向に従うだけだ。


「さて、どんな戦いをしてくれるかな」


 王国軍と共に演習したり参戦したりしたこともあるので、相手の技量も戦術も知り尽くしている。問題ないはず。

 即席の防御陣地でも個々は何の遮蔽物もない場所。物陰から隠れて撃つ我々に対して密集横隊列を敷いて突撃してくる王国軍を数回は牽制、あるいは撃退できるはずだ。

 大砲を撃ち込まれると弱いが、そうなったら馬で逃げれば良い。


「隊長! イリノイ方面から列車が来るようです」


「何だと」


 襲撃の報告が届いていないのか。

 まあ、停車させて、荷物を奪わせれば良い。

 念のため、確認のためイリノイ方面に目をやるとおかしな光景が見えた。

 機関車の排煙が二本ある。


「イリノイ方面から敵接近! 戦闘態勢!」


「隊長?」


「上下線から同時に移動してきている! この駅の奪還のため、両方から兵隊を乗せているんだ! 急げ!」


「はい!」


 まさか、こんなに早く動き出すとは思わなかった。

 牽制のために一隊を割いてイリノイ駅襲撃に向かわせていたが、迅速に撃退した上、こんなに早く奪回部隊を編成して送り込んで来るとは。


「配置完了しました!」


 部下が報告する。既に主力は配置済み。それに最小規模とはいえ、こちらにもバリケードや遮蔽物を設置しており、隠れて撃つことが可能だ。

 いくら列車で兵力を大量に運び込むことが出来ても、銃火を浴びることは間違いない。

 しかし、隊長の予想は覆されることになる。


「何だあれは」


 その列車は黒かった。

 黒い壁を持った貨車を、機関車が押していた。その機関車も黒い板を、古の甲冑のように身に纏い、接近してくる。

 銃の射程外で一旦停止すると機関車の後ろから引いている客車や貨車から人が次々と降りてきて列車の脇に展開する。

 それが終わると、列車は再び前進を始めゆっくりと駅に近づいて来る。


「撃て!」


 有効射程内に入ったのを確認して銃撃を開始した。

 だが、いくら銃弾を撃ち込んでも、黒い壁が跳ね返してしまう。


「隊長! あれは鉄板です! 分厚い鉄板で護っているんです!」


 黒い板は鉄板だったのか。貨車に鉄板を囲い付けて押し出せば弾を防ぐことが出来る。

 重いが、重い荷物を運ぶ鉄道なら周りを囲う鉄板ぐらい軽い物だ。

 だが、ただ装甲を付けていただけではない。

 貨車の全面に付いた小窓が開き、銃身が出てきた。

 複数の銃声が響き、周りに銃弾が弾着した。


「連中、銃眼まで付けていやがる」


完全防御に銃撃可能だと。何という化け物だ。


「第二小隊! 側面に回り込め!」


 迅速に一隊を列車の側面に回り込ませる。だが、これは失敗だった。

 列車は、前面より横が非常に長い。

 側面には前面とは比べものにならないくらいの銃眼が設けられていて、雨あられの銃撃を第二小隊は喰らった。

 また、降車していた兵士が銃撃を浴びせてきており、第二小隊は壊滅した。


「撤退するぞ!」


 勝ち目はない。

 直ぐに撤退を決断したが、相手の動きも早かった。降車した兵士が、迅速に移動し撤退路を遮断しようとしている。


「く、一旦駅舎に移動しろ! 兵力を再集結させて突破する!」

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