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反発

 アダムスの駅での騒動を収めた昭弥は、事件を王都に報告し犯人を搬送する手続きを終えた後、視察を続行した。

 そして着いたのが北ルビコン本線の北側、王都の次に大きな駅イリノイに来ていた。

 これまで経済力のある王国南側と西側を中心に鉄道を建設していたが、均衡有る王国の発展のために北に路線を延ばしていた。

 今は、建設した路線の発展具合を確かめていた。

 北ルビコン本線はオスティアに流れるルビコン川に沿って建設されている。

 それまでの水運から鉄道へ物資輸送が代わる事が予想されるため、将来の収益は確保されることがほぼ確定している。

 現在は継続的な利用がされるか、新規の駅の駅員に十分な技量があるかの確認を行っていた。

 ホームの端に立ち駅員や列車の様子を見ていた。


「思ったより悪くないな」


 開業時の混乱はまだ続いており、駅員への教育が出来ないのではないのか心配していた。

 だが、皆頑張って業務を覚えようと必死にやってくれている。


「社員一同、頑張って覚えて教えて向上させようとしています」


「あとは鉄道の安全性だね」


 鉄道の安全性は、社員によって確保されている。

 線路を維持する保線員。お客様を誘導しホームの安全を確保する駅員。列車を定時に動かす運転士。車内の安全を見る車掌。機関車、客車の点検整備を行う整備士。

 様々な人が関わって安全は確保されている。


「皆頑張っているんですが、事故が多いんですよね」


「うん、危惧しているんだけど」


 昭弥も鉄道の事故が多いのは気になっていた。

 開業したばかりなので社員が戸惑っているというのも大きいかも知れない。

 帝国鉄道の資料がないので、なんとも言えないが、専門の社員を置いたお陰で事故率はずっと小さくなっているはずだ。


「社員が原因の事故は少なくなっている。けど乗客の事故が多いな」


「やはり、慣れていない人や遅れて飛び乗ろうとする人が多いので」


 良い鉄道は会社と客が作る。

 それが昭弥の持論だ。

 会社がいくら真っ当な運営をしても、客が仕組みを理解していない、マナーが悪いとその鉄道の居心地は悪くなる。そのように客をさりげなく誘導するのが良い会社の条件なんだが、社会の習慣やルールによっては悪い方向に向かってしまう。

 例えば、個室を自分の部屋と思い込んで派手に騒いだりして車掌に注意されトラブルになっている。

 また、客車の対面の座席に足を掛けたりする。これは、長距離を歩く人が多く、少しでも足を休ませるために、足を高くして休めるのが一般的だからだ。

 大勢の人が乗れるように、清潔に乗れるように指導しているが中々、上手く行かない。

 また時間が守れないのは時計が普及して居らず、適当な時間にやってくる人が多いのだ。そして、列車が出発するのを見て慌てて駆け寄り飛び乗る人が居る。成功すれば良いのだが、失敗して落下してしまい、死傷事故となっている。

 一応、長距離列車は、十刻ジャストでは無く十刻一五分とずらしている。これは、十刻の鐘を聞いた乗客が駅に集まり列車に乗った後、出るようにするためだ。それでも遅れる人はいる。


「こればかりは徐々に浸透させるしかないな」


 このように会社は社会の様々な面の影響を受けやすい。


「変えられますよ」


 セバスチャンは自信を持って断言した。


「ありがとう。けど、どうしようも無い事もある」


 その時、パンと乾いた音が聞こえた。

 何かと思ってキョロキョロしていると、背後の壁に穴が開いた。


「なんだ?」


「! 逃げて下さい!」


 血相を変えたセバスチャンに引っ張られて駅舎に向かう。

 駅員や乗客も駅舎や、遮蔽物などに身を隠していた。

 駅舎の中に入ると床にたたきつけられ、伏せているように言われる。一方セバスチャンと駅員はタンスや机などを入り口の前に積み重ねる。


「何が起きたんだ」


「襲撃です!」


「え!」


 驚いたが、不思議では無かった。

 ここは安全な日本ではなく、ファンタジーな世界だ。

 何が起きても不思議では無い。

 このルテティアは征服国家であり開拓地であるため、治安が悪く、異民族の襲撃や開拓に失敗して食い詰めた住人が山賊になったという話をよく聞いている。

 だが、実際に襲撃されたことは数回、それも数人から攻撃されただけ。遠い異世界の事だと昭弥は思い込んでいた。

 今、軽く考えていた報いを受けている。


「社長は伏せていて下さい!」


 一方のセバスチャンや駅員達、そして乗客の一部は次々に武器を取って窓やバリケードの隙間から銃で反撃している。

 女性や子供は、銃を受け取って装填を行い、終わった物を渡している。

 一部の人間は負傷した人を引っ張って駅舎の奥に運び、ナイフで弾を出した後、火薬を傷口に振りかけて、火を付け消毒していた。


「皆慣れているな」


「駅員になる前、地元では襲撃なんて日常茶飯事ですから。何処にいようと襲われるときは襲われますから、対処方法を理解しているんですよ」


 そう言いつつ、駅長は銃を撃って装填する動作を繰り返していた。

 セバスチャンも渡された銃を持って撃ち返している。

 幸い、この駅は大きく機関車を整備する機関区、客車を保管する車両区、線路を整備する保線区などが置かれているので人数は多い。

 他の駅員や乗客の志願者も銃を持って撃ち返す。更に多くの人に銃が行き渡った。


「予備隊を編制しました!」


「駅広場に建物を盾にして側面を突くんだ! こちらからも援護する」


「了解!」


「動きが素人レベルじゃない」


「みんな自警団で訓練していますから、これぐらいの動きは出来ます。さすがに軍隊の横隊編成は無理ですけどね」


 数人が飛び出て、建物沿いに移動していくが直ぐその先で銃撃音が響く。


「側方警戒部隊か。軍隊崩れか、軍隊そのもの、のようですね」


「何で解る?」


「部隊の配置ですよ。山賊は人数が少ないのが普通で、見張のみ。軍隊なら人数が多いので部隊を側面に配置します」


「何で軍隊が襲ってくるんだ? 俺たちも同じ王国だぞ。それがどうして」


「王国に属する正規軍では無く、貴族の私兵軍かもしれません。正規軍並みに訓練されていますからこれぐらいの芸当は可能です。なにより私たちは北の貴族には不人気ですから」


「きちんと法に則っているんだけどね」


 だが貴族にとっては自分たちの権利が侵害されたと感じて襲撃を決意したのだろう。しかし八つ当たりも良い所で、昭弥にはとんだとばっちりだ。


「不味いんじゃないのか?」


「いいえ、そろそろ撤退するはずです」


 駅長が言うとのと同時に正面の敵が、後退し始めた。

 やがて銃撃は散発的になり、銃撃は止んだ。


「敵は逃げた! 周辺警戒を行いつつ残敵掃討! 同時に被害状況を確認しろ! 負傷者は救護所へ運べ!」


「はい!」


 駅長の号令で、駅員達が迅速に動き出す。

 全員、手慣れた動きで効率的に動いている。


「すごい」


 駅員の訓練でもこれほどまでの動きは出来ない。


「訓練メニューを変更する必要があるかな。これだけの動きが出来るのに勿体ない」


 考えて居ると緊急連絡が入った。


「報告します! アダムス駅が襲撃されています!」


「何だと! 不味いな、アダムスは小さくて駅員も乗客の数も少ない」


 駅長が自然に乗客を戦力として考えている時点で問題なのだが、ここは不問にしよう。


「兎に角、奪回する必要があるね」


 鉄道線は文字通り線だ。一箇所切断されたり、妨害されると機能不全になる。

 切断されていない部分で折り返し運転という、手段もあるが本来の機能を果たしていない。


「町の駐屯軍から増援を受けましょう。それで前進すれば奪回できます」


「待て!」


 昭弥は駅長を制した。


「たしか、隣の駅は何の遮蔽物もなかったはずだ」


 堤防の上に線路があるだけで、木も建物もない。敵から丸見えであり、移動中に銃撃されてしまう。


「ですが、時間を掛けていては鉄道を回復できません。多少の犠牲は確保で奪回すべきでは。それに隣の駅員も我々を待っているはずです」


 見上げた仲間意識と鉄道員魂だ。


「だが、犠牲が多くなるんだよね」


 昭弥が考えあぐねていると、機関区の建物が見えた。


「機関区は機関車の整備が出来るよね」


「はい、襲撃で盗まれたり壊れていなければ、一通りの工具と資材が置かれています」


「よし、一つ要塞を作って移動していこう」


「え?」


 昭弥の発言に、セバスチャンをはじめ駅長、駅員一同、あっけにとられた。

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