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リグニア新幹線開業

 最小限の線路改修と路盤の強化および信号設備の更新、新幹線車両の製造のみだったこともあり、リグニア新幹線計画は順調に進んだ。

 最初の開業路線は需要の多いアルカディア~チェニス間。

 大都市部だけは需要を鑑みて複々線化する工事行われたので予め予定地を確保していた。そのこともあり建設は順調に進み、予定通りの期日に完成し開通を迎えた。

 初めから時速三〇〇キロ以上を想定して作られていた上、建設から数年経過しており多くの列車によって踏み固められた路盤は安定。初めから二〇〇キロの高速運転が可能だった。

 車両は初代新幹線〇系と同じく団子鼻の丸い先頭車両を持つ形だ。

 昭弥は五〇〇系のような鋭角的な先頭形状をもち、車体断面が円形の車両にしたかった。だが工作技術上の制約と客室が小さくなるため、断腸の思いで〇系と同じ形状にした。

 それでも丸い先頭車両も十分に可愛げがあって好きなので許した。

 しかし、次期新幹線車両はもっと鋭角的にして一〇〇系のような形にしようと昭弥は心に決めている。

 量産製造に関しても鉄道技術研究所で高速鉄道の研究をしていたため、そのデータを元に製造を開始。

 開通予定日までに最低必要数を確保し間に合わせた。

 ただし、高頻度運転を実現するべく編成数を増やすために一編成あたりの車両数を八両にして運転することとなった。

 本来ならアルカディア~チェニス間の需要から新幹線並みの一六両編成で運転させたかった。だが、車輌の確保と正確な需要が予測できなかったために八両での運転となった。

 だが、需要が十分に見込めるのであれば、直ぐに一二両へ増備する手はずは整っていた。後々には一六両まで増やし、オール二階建て車両さえ運転する考えだ。

 勿論、在来線向けに四両編成を主力とする考えだが、今は輸送量がパンク寸前の路線に投入することを優先し、一編成当たりの車両数を多くしている。

 線路の方はスラブ軌道の採用を見送った。

 まだ十分に技術が確立していないのとバラストからスラブへの切り替え作業に時間が取られるため、迅速な開業に間に合わないとの判断だ。

 開業区間の積雪は大した事がないと昭弥は報告を受けていたのも、理由だ。東海道新幹線の関ヶ原周辺のような危険――新幹線の車両下部に漂着した氷が走行中に落ちて下のバラストを弾き、飛んだバラストが車輌の機材を傷つける事故があった。そのため同区間では雪が降ると減速せざるをえず、運転上のボトルネックとなっている。

 だが、いずれ北方へも路線を延ばす予定であり、雪害対策は必須だ。そのためスラブ軌道の研究を昭弥は進めており、在来線での運用試験を行っていた。




 さて、肝心のリグニア新幹線の一番列車は昭弥が大々的に宣伝したため座席への予約が殺到、数分で満席となった。

 開業当日は乗れなかった人々が一目見ようと駅に殺到し、大混乱したが人々の期待の裏返しでもある。

 開業式では昭弥がユリアを招いて自らテープカットを行った後、二人揃って乗り込み、駅長の号令で発車した。

 一番列車は専用軌道を走り早々に時速二〇〇キロに到達。昭弥の命令で客室内に設置された速度計を見た乗客達から拍手が上がった。

 ただ乗客が速度計が二〇〇キロを指すところを見ていたくて常に二〇〇キロを出すよう乗務員に要求してきた。

 本来なら不要な区間まで二〇〇キロで走り続けた結果、予定時刻より大幅な早着が確実となった。定時運行のために運転士が駅の手前で大幅なスピードダウンを行う事になり、在来線に追い抜かれるという珍事が発生したのはご愛敬だろう。

 時速二〇〇キロのスピードもさることながら、席のテーブルに置いたカップから紅茶がこぼれないことに驚く人々もいる。

 継ぎ目が少ないロングレールにより振動が最小限に抑えられており、紅茶がこぼれることがない。

 新幹線は概ね良好な状況で初日を終えた。




「新幹線の運営は上手くいっているっす」


 開業から数週間後、ブラウナーが新幹線に関する報告書を纏めて持ってきた。


「順調に利用客数は伸びています」


「よかった。例の問題も大事にならずに済んだ」


 昭弥は書類を受け取って目を通す。

 運転状況、遅延率、故障率、利用者数、予約状況など、運転に関わることは勿論乗客の利用状況も確認できるようにしてある。

 いずれの数値も予想の範囲内に収まっており、新幹線の営業は順調に進んでいる。

 ただ、問題だったのは気圧の変化だった。

 時速二〇〇キロで走るため下手に開口部があると空気が入って車内が嵐になってしまう。

 そのため新幹線は車内を完全に密閉していたのだが、トンネルに入ったとき気圧の変化でトイレのタンクが逆流して乗客に襲いかかるという事故が多発した。

 東海道新幹線の開業時にも起きた事故だが、信号システムの開発に専念していた昭弥はすっかり失念していた。

 緊急改修が行われリグニア新幹線には与圧が施されることとなった。


「そのための改修費が膨大な金額になるときは呆然としましたね」


 莫大な改修費にサラは目を吊り上げ昭弥を恐れさせた。


「運良く航空メーカーの連中が話を持ってきてくれて助かったよ」


 だが航空メーカーが高高度飛行機の為に与圧の技術を研究していた。そして何処からか新幹線の与圧方法を教えて欲しいと言って来たため特許料を得ることによって改修費を賄うことが出来た。


「この分なら延伸計画や増備計画も順調に行きますね」


 新幹線の成功により他の高速線も順次新幹線用への切り替えが予定されていた。改修費の償還、技術者の人数、何より本当に新幹線の計画が上手く行くか不透明だったために延伸計画は手控えられていた。

 しかし、最初のアルカディア~チェニス間の成功により新幹線の有用性が実証され、他の路線への改修計画が始動出来る。


「ああ、寝台新幹線も出来る」


「まあ良いんですけど、深夜零時から朝六時までの保線時間に運転できないのは痛いっすよ」


 日本の新幹線と同じくリグニア新幹線でも保線作業の為に深夜帯に運転を中断する時間を設けている。

 

「仕方ないよ。安全性を維持するためには保線作業も必要だよ。安全に作業するには全線を停止させて調べるのが一番良い」


 安全神話などマスゴミの作ったお伽噺であり国鉄もJRも自ら謳ったことは一度も無いはず。

 だが安全に対する真摯な態度はリグニア国鉄でも継承したい。

 安全を確保するためにも保線は必要不可欠だ。

 乗客の死亡事故は加害者を除いてゼロだが、保線員に関しては痛ましい事故が起きている。

 東海道新幹線開業から二ヶ月後の一九六四年一一月二三日、砂利が為中の保線員が新幹線が来るのを見落とし巻き込まれ五名死亡、五名負傷の事故が起きている。

 完全に運転を止めて保線をして安全を確保した上で、作業を行うことが望ましい。

 だから夜間に集中的に行う為、完全に運転を止めさせて作業を行う。


「なに新幹線上が通れなくても午前零時になるまで進めるところまで進んで近隣の駅に停車、午前六時に出発すれば問題無い。どうしても走る必要があるなら在来線を通れば問題無い」


 新幹線と名乗っているが実際にはTGVに近い。そのため在来線へ相互乗り入れが可能だ。元々標準軌であり、車両限界も在来線が日本の新幹線基準で作っているため問題無い。

 異なるのは線形の最低基準程度だ。

 だから新幹線車両が在来線を走る事に問題は無く在来線経由で走らせる事が出来る。

 そもそも寝台列車は出発すれば走り続けなければならないのだろうか。高速バスの時間調整のように途中で止まっても良いだろう。

 例えば東海道新幹線なら東京を出発して途中の待避駅で待機し、翌日の午前六時に出発して大阪に行くという手もある。午前七時に到着したい利用者に午前八時着の新幹線は無用であり前日泊か時間の合う高速バスを使うしかない。広々とした車内の部屋で横になって行く方が良いと考える利用者もいるはずだ。


「新幹線じゃなくても大丈夫な場所もあるけど、こちらの方が良いだろう」


「そうですね。しかし、そのような拡張をしなくても今でも十分に採算は採れていますよ」


 建設費の償却費が莫大な額になっているが新幹線の収入はうなぎ登りであり国鉄の黒字化を手助けしていた。


「在来線を電化すれば、走らせる事が出来ますね」


「ディーゼル機関車を連結すれば非電化の区間でも運転できるよ」


 非電化の区間が多いため昭弥は電気ディーゼル機関車を開発させて新幹線の非電化区間の運転に使用させる計画を立てていた。

 発電機を多数搭載した機関車で自らの運転に使用するが電力を新幹線に提供して自走できるようにしている。

 お陰で加減速の性能を落とさずに運転することが可能だ。


「これで進められますね動力近代化計画も」


「そうだな」


 興奮するブラウナーに昭弥は少し冷めた表情で答えた。

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